第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
………遅い、遅い、遅い!!
街の外れにある甘味処の前で、綺麗な赤い着物に身を包んだ琴音は天元から待ちぼうけを食らっていた。
ことは遡る事、1日前。
******
久々に任務で怪我を負ってしまった琴音は、藤の花の家紋の家にて休息を取っていた。
なかなか今回は大きな怪我だったのだが、1日休みをもらうことができた為、全集中の呼吸を最大限に利用して治癒に努めた。
まだ傷がくっつき始めた程度ではあるが、刀も振れそうだし傷も開かないだろうと踏んで、自分の鎹鴉に任務はないのかと問いかける。
琴音の問いかけを聞くや何処かへ飛んでいった鎹鴉は戻って早々、思いもしない伝令を言い渡す。
『音柱トノ合同任務ー。北ヘ迎エー、先ニ潜入調査セヨー』
「……天元さんと……そう、…」
……そんな任務があるなら昨日会った時に教えて欲しかった、と思わず琴音は口を閉ざした。
勿論、急に舞い込んだ案件の場合もあるから一概には攻められない事も分かってはいるのだが……
******
最近は鬼の動きも活発で、あちこちでその被害は拡大していた。
今回はここより少し北へ行った街で女性が数名行方不明になっているらしく、囮役も兼ねて琴音に白羽の矢がたったのだ。
お世話になった藤の花の家にお礼をし、早速任務地へ足を運んだ琴音は、街に着くなり周辺住民への聞き込みを開始した。
琴音を見るなり顔を青褪めたお婆さんに話しかければ、戸惑いながらもこの街で起きた異変を教えてくれた。
「若い女性が神隠しにあっている。……旅人さん、悪い事は言わないから早くこの街を出たほうがいい」
「お気遣いありがとうございます……ですがその噂を解決するべく、私は此処へやってきましたので」
琴音の言葉にお婆さんは少し驚いた表情を浮かべた後、何かを悩むような仕草を見せた。
「……何か他にご存知なのですか?」
「いや……私の孫もね、1日前にいなくなっちまったんだ。とても明るくて優しい子でね……足が良くない私の代わりに買い物へ出かけたっきり帰って来なくなっちまって。
こんな事になるなら、あんな
「あんな着物?」
琴音の問いかけに目を潤ませたお婆さんの話では、若い女性が消え始めたのはつい最近の事のようだ。そしていなくなった女性全員が、当日身につけていたのが赤い着物なのだとか。
3人の女性がすでに行方不明になってしまっていて、お孫さんは一番最後に姿を消した犠牲者だと言うことを話してくれた。
〝私が怪我をせずすぐにこちらの任務につけていれば……〟
無意識に右手を強く握りしめてしまうが、後悔したところで時間は決して戻ってはくれないのだ。
琴音は、今できる最善を尽くせとなんとか自分を鼓舞して奮い立たせる。
「お辛いところ、お話を聞かせていただいてありがとうございます……私が必ずこの事件、解決してみせます」
そう言ってお婆さんと別れた琴音は、その足で反物屋で赤い着物を買いに行く。どうせ任務で使うものだからと安価な物を選び、近くの宿へと足を運ぶ。
事件が起きたばかりだからか、宿も殆どが空室で当日押しかけた琴音でも無事に宿を取ることができた。
そして通された部屋で、噂通りの真っ赤な着物に袖を通した琴音は、
「よしっ!準備完了」
姿見で自身の格好を確認し、着物の合わせから刀をそっと忍ばせた。
因みに今は着物姿だが、琴音の隊服は少し変わった形をしている。
上は皆と同じ普通の形をした隊服なのだが、下のスカートは両サイドに深いスリッドが入っている仕様なのだ。
この形になったのは、隠の前田の趣味のようなものもあったのだが……一番の理由は太ももに短刀を忍び込ませて隠せるからだ。
いつもは日輪刀と太ももに一本予備の刀を持ち歩いている彼女だが、先日の任務で刃こぼれした日輪刀はあいにく修理に出している。
もともと短刀で戦う琴音は刃こぼれや、ひどい時には折ってしまうことも頻繁にある為、こうして2本の刀を持ち歩いているから問題はない。
今回は一本のみだが、着物の下でもこの短刀は隠しやすい為、やはり囮役は琴音で適任だったのだろう。
そんなこんなで準備を整えた琴音は天元との待ち合わせを街外れにある甘味処に指定して、鎹鴉に連絡を託す。
〝天元さんが来るまで餡蜜でもいただこうかな〟なんて琴音は上機嫌で甘味処へ向かうのだった。
因みに琴音は何を隠そう、大の甘党である。
任務後には必ず甘いものを食べに行く程の筋金入りだ。
「甘いものを食べられないなんて、死んでも嫌!!」そんな事を真剣に言ってのける彼女が指定する待ち合わせは、大概が甘味処なのである。
そんな琴音には、さすがの天元ですら「そんなもんばっか食べてるから、小さいままなんだ」と本気で叱りつけるほどなのだが……
今日も今日とて、やっぱり甘味処へと向かう琴音は、今にも鼻歌を歌い出しそうな程の上機嫌であった。
……のだが、
先程まであんなにニコニコとしていたはずの彼女は、今や甘味処の前で腕を組みイライラとした表情を浮かべていた。
勿論、餡蜜を食べたところまでは機嫌の良かった琴音だが、待てど暮らせど彼女の待ち人は現れず……
ついには日も傾きだしてしまう始末である。
〝あれ?今日って、もしかして単独任務だったかな?
可笑しいなー……ああ、鴉の悪戯かな?確かに音柱と、って伝令聞いたはずだったのになー……〟
……なんて、思わず明後日の方向を見つめてため息を吐いてしまう。
だがそんな時。
此方に向かって、物凄い勢いで人の気配が近づいてくることに気がついた。
思わず引き攣る頬をそのままにフーッと大きく息を吐いた琴音は、背後からやってきたその気配に、誰かを確認する事なく、いつもの調子で憎まれ口を吐いてしまう。
「もう、遅いですよ!!……いつまで待たせるつもりだったんですか?」
だがそんな彼女の後ろから掛かった声は、想像していたものより随分大きなものだった。
「それはすまない!!宇髄から突然任務の依頼があった為、遅れてしまった!!」
「……へ?」
驚いた琴音が振り返った先には夕日に照らされてキラキラと輝く、燃えるような髪をした男が立っていた。