第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
危うい?琴音が?
杏寿郎の頭の中では
父の言葉が呪文のように繰り返されていた。
父が何に対してそう思ったのかは分からない。
もしも彼女が何か困っているのなら
勿論助けてやりたいが、、、
思い返しても、
いつも楽しそうに笑っている姿しか
見た事がない気がして、
むう、と唸ってしまう。
そんな事を考えて歩いていれば
無意識のうちに
琴音の部屋の前まで来てしまっていた。
いくら弟子とはいえ、さすがに女性の部屋に
夜訪れるのは良くないと
逆方向に足を踏み出そうとした瞬間
目の前の襖が開き
「御用ですか?」と琴音が顔を出す。
いや、うむ。別に用という訳では、、、
と珍しく、歯切れの悪い彼の姿に
クスリと笑みを漏らした琴音は
「お茶を淹れますので
師範もご一緒にいかがですか?」
と言って、台所へと歩き出したので
杏寿郎も慌てて彼女に続いた。
*****
2人並んで
琴音が淹れたお茶を飲んでいれば
静かに杏寿郎が話し出す。
「やはり君が父上に話をしてくれたのだな。
父上が琴音から
説教をされるとは、とぼやいておられた!
君が俺達の為に
いつも父の体を気にかけてくれていた事も、
そんな父の心を救ってくれた事も、
なんて感謝したらいいか分からない程だ!
琴音、本当にありがとう!」
それに
「私は何もしていません。
支えてきたのは師範達でしょう?
いつか、寄り添う者に気付く日が来ると
私、言いましたでしょ?
それが偶々今日だった、
そこにいたのが偶々私だった、それだけですよ」
と優しく笑っている琴音がいて
杏寿郎は胸が温かくなった。
いつもそうだ、
大したことないと明るく笑って
そっと寄り添ってくれる彼女、、、
俺や千寿郎が抱えていた不安にも
そっと救いの手を差し出してくれた。
あの心を閉ざした父上でさえ
彼女の優しさに救われたというのに。
それを恩着せがましく言うこともせず
今だって優しく笑ってそっと支えてくれるのだ、
その優しい笑顔を見つめていれば
胸がだんだんと温かくなり
ぽとりと自分の中に言葉が落ちる。
あぁ、愛おしいな、と。
いつの間にか自分の心に芽生えた感情に
杏寿郎は静かに目を閉じて息を吐く。
いつからだろう、
千寿郎や父上に笑いかける彼女を
目で追うようになったのは。
もっと笑って欲しい、、、
自分にも笑いかけて欲しいと思うようになったのは。
あぁ、知らぬ間にこんなにも
彼女の存在が大きくなっていたのか、
と一人小さく笑った。
その想いを自覚してしまえば
なんとも自分はよく深い人間で、
彼女を隣で支えてやりたいと
他の誰でもなく
自分が彼女を守ってやりたいと考えてしまう。
突然目を閉じて喋らなくなった杏寿郎に
師範?と彼女が声をかければ
ぱちっと開いた目で、ぎょろりと見つめられる。
ひぇ!なんなの?と内心驚いた琴音だが
そんな彼にかけられた言葉にキョトンとしてしまう。
「ところで、琴音は何か困っているのか?」
、、、そう、彼は不器用な程、真っ直ぐな男なのだ。
支えたい。困った事があるなら助けたい。
彼はその一心で口を開いたのだが
ここに彼の父がいれば
頭に手をやり「そんな直球で聞く奴がいるか」
と項垂れたであろう。
当然、いきなり投げかけられた言葉に
琴音も困惑する。
困る?と首を傾げた彼女は
一瞬、弟の事を誰かから聞いたのかと考えたが
目の前の彼はそんな素振りを見せることはない。
それなら、伝えても困らせてしまうだけだし
彼は弟にも会ったことはない。
特に報告は必要ないだろうと判断して、口を開く。
「実は蜜璃ちゃんと、
パンケーキを食べに行く約束をしていたのですが
彼女、多忙すぎて中々会えなくて、、、
お預けをくらっているのです。」
と少し不満に思っている事を口にすれば
ぶふっ、と噴き出す杏寿郎。
それにはさすがの琴音も
なんだ、聞いたのはそっちじゃないか!
とむすっとしてしまう。
「すまない!
あまりに可愛らしい悩みだったので、ついな!
では、お詫びに明日は
念願のパンケーキを食べに行くとしよう!」
と言われて、機嫌を直す彼女も彼女だった。
******
それからというもの、
煉獄家は以前の明るさを取り戻していた。
愼寿郎が息子達に稽古をつける日々にも
もう見慣れる程になって来ていたし、
いつも父に怯えていた千寿郎が
楽しそうに笑う姿もよく見るようになった。
そして以前と違うのは
やはり琴音がいる事、、、
まだ、ぎこちなさが残る親子関係に
さりげなく笑いかけ、間を取り繕ってくれている。
父が自分達と向き合うようになってから
二ヶ月程、、、
家に帰るのが楽しみに変わった毎日に
杏寿郎の刀にも力が籠る。
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」
鬼の首を斬り落とし
灰に変わって行く様を見届けて
杏寿郎は刀を鞘へと戻す。
今日は、琴音とは別々の任務についている。
杏寿郎は担当地区の警備があるため
今回、彼女は
下級の隊士と合同で任務を行うと言っていた。
夜明けも近い、
もうすぐ琴音も家に帰るだろう。
そんな事を考えていれば、
彼女の鴉が此方に飛んでくるのが見えた。
琴音はこうして必ず
任務から帰還する報告を入れる。
あぁ見えて真面目だからな、と笑いながら
鴉を手に乗せれば
「春野 琴音、鬼トノ戦闘ニヨリ負傷。
意識不明ノ重体。蝶屋敷ニ迎エ」
思いもよらぬ鴉の言葉に
杏寿郎はひゅ、と息が止まりかけた。