第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから大慌てで晩御飯の支度をした二人。
「食事の準備が整った」と千寿郎が父を呼びに行こうとすれば、彼の方から此方にやってきていた様で、ちらりと此方に視線を寄越し、座布団の上に腰を下ろした。
今までは千寿郎が、父の部屋へと食事を届けていた。空の酒瓶ばかりが部屋の外に置かれ、手付かずの料理を下げる事も多かった。
そんな彼が、これからは食事も共にしてくれるようだ。その様子を見た千寿郎と琴音は、顔を見合わせて思わず笑った。
******
暫くして、玄関から
「千寿郎!琴音!ただいま戻ったぞ!」と杏寿郎の声が聞こえ、二人で出迎える。
「兄上、おかえりなさいませ。丁度ご飯の用意が出来た所です。一緒に頂きましょう」
と千寿郎が声をかければ、
「うむ!実はもう腹ぺこだったのだ!」と杏寿郎は笑った。
それから琴音に視線を移した杏寿郎は
「琴音の育ては息災でいらっしゃっただろうか?」と声をかけた。
それに対し「お暇を頂きありがとうございました。育ては相変わらず元気で安心致しました。」と琴音は笑顔で答えた。
そんな話をしながら、居間へと向かえば此方を見つめる愼寿郎がいる訳で。
一人状況がわからない杏寿郎は固まってしまう。
先程の千寿郎と全く同じ顔で固まっている彼の姿に、クスクスと琴音が笑っていれば
愼寿郎にぎろりと睨まれてしまい、慌てて彼女は笑いを引っ込めた。
愼寿郎は再び、杏寿郎へと視線を移し
「杏寿郎、任務ご苦労であった。後で話があるから私の部屋に来なさい」と口を開いたかと思えば、自室へと戻って行った。
よく見れば箱膳の皿は全て綺麗になっていて、千寿郎はまた嬉しくなった。
にこにこと上機嫌の千寿郎が「さあ、食べましょう」と声をかけても杏寿郎は固まったままだった。
それもそうだろう、彼は三日間家を留守にしただけ。その短期間であれだけ心を閉ざしていた父が
〝居間で晩飯を食べ、自分に労いの言葉をかける〟など想像できる筈もない。
今回彼は三日間の任務についていた。
厄介な相手という訳ではなく、移動に1日近くかかる場所へ派遣されたのだ。だが、たかが三日なのだ。
俺がいない間に何があった!?と考えを巡らせていれば
「兄上、大丈夫ですか?」と千寿郎から声がかかる。
もう顔が全てを物語っているが
「俺が留守の間に父上はどうかされたのか?」
と杏寿郎が彼に問い返せば
それはそれは嬉しそうに千寿郎は話し出す。
父が、今までの行いを謝ってくれた事。
自分達に稽古をつけた事。
晩飯を共にしてくれた事。
そして琴音が、父に話をしてくれた事。
それを聞いて、驚いたように琴音に視線を移せば「私は何も」と口を開く彼女。
それから「早くご飯を食べましょう?愼寿郎様が待っているのでしょう?」と彼女が続けるので、その話はそこで終いとなった。
******
食事を済ませた杏寿郎は、その足で父の部屋の前まで来ていた。
いつものように襖の前で姿勢を正し、緊張した様子で声をかける。
「父上、入ってもよろしいですか!」
すると中から「入りなさい」と父の声が聞こえた。
いつも返事がなかったものだから、それだけでも感慨深い物がある。そんな事を思いながら、父の部屋へと足を踏み入れた。
此方に視線をやる父の前に座り姿勢を正せば、
父は頭を下げて口を開いた。
「杏寿郎、、、お前たちには随分と迷惑をかけた。謝って済む話ではないのは分かっているが、こんな不甲斐ない父親ですまなかった。
これからはお前たちの母に、恥じない生き方をしようと思う。」そう謝る父に慌てて声をかけた。
「父上、顔をあげて下さい!俺の方こそ「杏寿郎。」
父の力になれなかった事への謝罪を口にしようとした時、被せるように名前を呼ばれ、押し黙る。
「お前はよくやってくれている。本来なら母を亡くしたお前たちを、支えなくてはならなかったのはこの私だ。
だが塞ぎ込んでしまった私を見て、弟には寂しい思いはさせまいと、自分の寂しさに蓋をして必死に千寿郎を守ってきてくれたのだろう。」
だから、お前が謝ることは何もない。と続けた父は優しく笑っていた。
「まさか、あんな少女に説教をされるとは思ってもみなかった。」
と呟いた父を見て、やはり彼女が父を救ってくれたのかと改めて考えを巡らせていれば
「ところで杏寿郎、あの娘は何かあったのか?」
と聞かれ首を傾げる。
何か、、、とは何のことだろう。
彼女からは何も報告は受けていないのだが。
腕を組んで悩み出した息子に、愼寿郎は口を開く。
「私の思い違いかも知れないが、、、あの娘は少し危ういところがある。一度話を聞いてやりなさい。」
そこまで話した所で「さぁ、任務明けなのだから
部屋で休みなさい」と父の部屋から追い出されてしまった。