第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何度も何度も頭を下げた少年の後ろ姿を見送った後、琴音は師範が待つ家へと歩みを進めた。
帰り際、「俺、もっともっと強くなります!今度こそ守りきれるように、、、そして誰かの支えになれるように、、、」そう話した彼の顔は、決意に満ちていて。
、、、、あぁ、心配することはないじゃないか。
彼は自分の足でしっかりと立ち上がって歩き出したんだ。
と琴音は何故だか、自分のことのようにほっとしてしまった。
彼女は無意識のうちに、あの絶望を味わった少年に自分を重ねていたのだ。
だから彼が必死に立ちあがる姿を見て、自分も彼のように前を見て歩き続けれる、、、
そうやって自分に言い聞かせて、また一歩、また一歩足を進める。
「大丈夫、私は大丈夫、、、」と心で唱えながら
歩いていけば、師範の家へと着いていた。
******
戸を開け中へ足を踏み入れれば、台所に立つ師範の後ろ姿がみえた。
昼飯を作っていてくれたのだろう師範が「帰ったか、、、」と此方を見る事なく声を発した時、
この人の背中はこんなに小さかっただろうか、、、とふと思った。
背中はこんなにも曲がっていたか、、、と。
子供の頃は鬼よりも怖い形相で、私達を追い回すように稽古をつけていた彼が
もう随分、歳を取った事はわかっていた。
死なんていつもすぐそこにあるのも、命を奪うのが何も鬼だけじゃないのも、ぜんぶ知っていたのに、、、
まさか弟が死んで気づくなんて、なんて馬鹿な奴なんだろうと琴音は思った。
同時に今伝えなければ、と思った。
そして彼女は此方に背を向ける寂しげな師範の背中に、深く深く頭を下げて口を開いた。
「師範、、、今まで私達兄弟を育ててくれて、ありがとうございました。」
それにピタリと師範が動きが止めた気配がして、そっと頭を上げてその背中を見つめる。
師範は凄く厳しい人だったけど、、、
それは私達が死なない為だったのを随分昔から気づいていた。
私達に鬼殺隊になって欲しくなかった事も、弟が死んだのは自分のせいだ、、、
と優斗を育て上げた自分を責めているだろう事も
全部分かっていて、「ありがとう」と伝えたかったのだ。
それに弟が死んだのは師範のせいではない、、、
あの日「鬼殺隊になりたい」と師範の反対を押しきった私が、弟を巻き込んだのだ。
師範はそんな私達を死なないようにと、自分の持てる力全てをかけて育ててくれた、、、大切な恩人なのだ。
だからこれ以上私に負い目を感じてほしくなくて
、ここを立ち去る覚悟を決めた。
もう私が此方に来る事はないだろう。
「私、、、いえ、私達は、鬼殺隊になった事を悔いたりしていません。師範に教えてもらったもの全てが、私の今の誇りなのです。
師範に報告が遅れてしまいましたが、、、炎柱様の継ぐ子にしていただける事となりました。
これからもっともっと強くなります。弟の分まで、私が鬼を倒します。だから、師範は安心して私に任せてください。貴方が気負う必要はもうないのです。
今日は弟の訃報でしたので急いで此方へ来ましたが、、、すぐに炎柱様のお屋敷に戻らねばなりません。」
今日はもうこれで失礼します、と告げた。
師範が振り返り「そうか」と返事をしたのを合図に、もう一度深く頭を下げて、玄関へと足を進めれば
小さな声で「お前たちは私の誇りだ。ここはお前の家だ、いつでも帰って来なさい」と師範の声が聞こえた。
普段厳しい師範の、私を気遣った優しい言葉にぐっと唇を噛み締めた。
私は振り返る事はせず「お身体を大切にしてください」と言葉を残して、家を後にした。
******
家を出て師範のことを考える。
出会った時、彼は「鬼と戦った際に足に致命症を負ったから、鬼殺隊を辞めた」と教えてくれた。
辞めてからどれだけ時間が経っているのか分からないが、やっと戦いの日常から抜け出した彼を、鬼殺隊に再び関わらせてしまったのもやっぱり私で。
だからこれからは鬼の事なんて忘れて、自分を大切にして欲しい、、、
そんな事を琴音は願って帰路に着く。
******
残された男は、悲しげにため息を吐く。
彼は長く歳を取っているからこそ、
自分の弟子が心に傷を負い、必死にもがいているのに気づいていた。
そして、自分に気を遣っていたのも、琴音はもう此処には姿を見せないだろう事も分かっていた。
弟の事は確かに責任も感じているし
彼の心にも悲しみが襲い掛かってはいるのだが、、、
今、彼が心に思うのは
どうか自分より他人を優先してしまう娘に〝支えてくれる、寄り添ってくれるそんな存在〟に出会えますように、、、それだけなのだ。
「師範!」といつも嬉しそうに笑顔で
自分に着いて回る幼き日の彼女を思い出す。
彼にとっては、弟子でもあり
自分の子供のように大切に思ってきた存在だったのだ。
「わしでは、無理だよ。お前の姉さんを救えない、、、
琴音を見守ってやってくれ、、、優斗。」
苦しげに呟いた小さな言葉は、ぽつりと部屋に落ちただけ、、、
彼女にその想いが届く事はもうなかった。