第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少しの荷物を手にした琴音は、見送りをしてくれた千寿郎に手を振り、育ての家へと歩みを進めた。
******
昨晩、見慣れぬ鎹鴉が琴音の元へ降り立った。その鴉が発した言葉に、彼女は硬直した、、、
「なんて言ったの?」と何度確認しても同じ報告をする鴉に
「〝弟に会いに行く〟と育て、、、月島 勇様に伝えて」と伝言を託し、今彼女は足を進めている。
師範には、ああ言ったが、実は四か月も経たない内に育てには会っていたし、こんなにすぐ顔を合わせるなんて、、、と琴音は自傷気味に笑った。
******
それから彼女が育ての家に着いたのは夕方頃。
煉獄家から少し距離があるから、時間がかかるのは仕方がないが、、、
今回は足取りが随分重く、いつもより時間をかけてたどり着いたのだ。
彼女は震える両手をそっと握りしめ、深く深く息を吸う。、、、もう震えがない事を確認し、家の戸を開くのだった。
育ての家は相変わらず殺風景で、それがなんだか急に寂しく思えた。
部屋の真ん中に背を丸くした師範を見つけ、ゆっくりと近寄れば、その前に穏やかに眠る弟がいた。
、、、昨日の鎹鴉が頭の中でまた言葉を紡ぐ
「春野優斗、鬼トノ格闘ノ末死亡」
弟を前にしても涙は、出なかった。
死んでしまった弟は、体を拭いてもらったのだろう、、、血も泥もついていないし。
何処か穏やかに見えるその顔は寝ているようにしか見えない。
優斗の前で「すまない、、、」と涙を流す師範の横に座り、ゆっくりと手を伸ばし弟に触れてみれば、ぞっとする程冷たくて
「あぁ、本当に死んだのか」とそこでやっと理解した。
それでも、涙は流れなくて、、、白状な姉だなと思ってしまった。
******
次の日は、朝から弟の墓を師範と共に作った。
私の両親と過ごした昔の家、、、
その裏手にある木の下には、師範が作ってくれた両親の墓がある。その横に弟の墓も作ってやり、二人並んで手を合わせる。
私は持ってきた荷物の中から一冊の本を出して、
弟が眠る墓の前に置いた。
それは、少し前に図書館で見つけたあの絵本。
昔よく優斗に読み聞かせていた事を
〝懐かしく思って手に取っただけだったのに、まさかここに置いて行くなんてあの時の私は想像してなかったな〟と考えを巡らせていれば
不意に砂利を踏む音が聞こえ、師範と二人で振り返った。
******
そこには見た事はないが、鬼殺隊であろう隊服を着た少年が立っていた。
その少年に気づいた師範は
「彼はきっと琴音に用があるのだろう。わしは先に家に帰っている」と静かにその場を後にした。
それから少年と、私の間は静寂に包まれた。
彼は今にも泣き出しそうな顔をしており〝ああ、辛い役目をさせてしまったな〟と静かに口を開いた。
「貴方が弟を看取ってくれたの?」
私が彼に話しかければ、ぼろぼろと遂に涙をながしながら「違う、、、違う、、っんです」と彼は話し出した。
昨晩の任務は、彼と優斗の合同任務だったらしい。
弟よりは先輩隊士である彼だが、まだ階級は壬、、、経験の浅い隊士なのだろう。
村人を守りながらなんとか戦った彼だが、鬼の速さに翻弄されて攻撃を受けた、、、と思った瞬間。
目の前に優斗が庇うように立っていて
鬼は優斗の腹を貫き、優斗は鬼の首を斬ったらしい。相打ちだったと教えてくれた彼は、何度も何度も頭を下げて謝った。
そして震える手で、一枚の手紙を手渡してきた。
「彼がこと尽きる前に託してくれた手紙です」
それに「ありがとう」と呟き、封筒を開け手紙を開く。
ご丁寧に遺言とやらを書いているなんて。
と他人事のように考えながら、それに目を通せば、たった一言。
「鬼がいない世界で幸せになってほしい」と書かれていた。
ああ、なんて馬鹿な弟なんだろう。
最後くらい自分の事を書けばいいのに、、、
そう思ったが〝どこまでも優しい優斗らしい手紙だな〟とも思って少し笑った。
その手紙を懐に閉まって、未だに泣き続ける目の前の少年に視線を移す。
泣き崩れてしまった彼はきっと脅えているだろう、、、私に罵倒されると。
「なんで弟が死ななきゃいけなかったの!?」
「なんで貴方はいきてるの!?」と。
いや、もう彼は自分で自分を責めているのだろう。
人の命が消える瞬間は、いつも己の手が無力に感じる。それが庇われて目の前で散ってしまったとなれば、尚更だろう。
あぁ、なんて辛い役目なのだろうと思った。
そして彼を助けたいと、助けなければいけない!と強く思い、私は彼に出来るだけ優しく語りかけた。
「貴方には、とても辛い役目を背負わせてしまってごめんなさい、、、
でも、私は貴方が生きていてくれて嬉しいわ。だって優斗が守った命なんだから、、、
自分の手には力がないと、絶望したかもしれない、、、
でも皆手は二つしか付いてないのよ?貴方だけでは守る数にも限界があるの、、、
だけど、ね?
こうやって手を合わせれば救える命は増えていく。弟がそうしたように、貴方も私も
誰かの支えになって生きていきましょう」
そうやって話しながら、彼の両の手を包む。はっと顔を上げた少年の顔を見て
この子は大丈夫、立ち直れる
と確信して、「一緒に頑張ろうね」と笑いかけた。
******
そう、私には立ち止まることは許されない。
誰かの支えになれるように、、、
強く、強く、もっと強く!力をつけていくしかないのだ。
彼女は自分に言い聞かせる。
涙を流すこともできない程、心は悲鳴を上げていた。それに蓋をして鼓舞して立ちあがる。
戦う理由を求めて。