第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日から琴音は、目まぐるしい日々を過ごしていた。
日夜、任務をこなす彼女は単独任務であったり、
後輩隊士との合同任務であったり、
はたまた師範に同行し共に任務についたり、
今までと任務自体に然程変わりはない。
しかし家に帰れば、家事をこなす千寿郎に手を貸し、鍛錬をつけてやったり。
勉学に励む彼に、知り得る知識を教えてやったり。
それでいて師範が任務でいない時以外は、
なるべく稽古をつけて貰い、それをこなして任務につく日々。
勿論、一人で行う鍛錬も今まで通りこなしているから、毎日が充実しすぎていると感じる程だ。
そして、彼女が家にいる時は決まってこの部屋へ訪れる。
「愼寿郎様〜、ただいま戻りました」
******
琴音が屋敷に来て三か月、
彼女は愼寿郎に声をかけまくる日々を送っていた。
初めの頃は「うるさい」だの、「出て行け」だの、ぼやいていた彼だが、、、
全く動じない少女に、今では何も口を出さなくなった。
勿論理由はそれだけではない。彼女が口にするのは全部己の心配ばかりで無下にできない自分がいるのだ。
「酒は肝臓によくないから呑みすぎてはいけません」やら、
「たまには日の光を浴びなければ体内時計が狂って体調を崩しますよ」やら、
「つまみを作りましたので、お酒のお供にどうぞ。空きっ腹に酒では体が悲鳴をあげますよ」やら。
挙げ句の果てには
「いつも寝ているだけでは運動不足になってしまいますよ。もしも体を動かしたくなったら、いつでもお声かけください。稽古つけてもらう日をお待ちしてますね」などと、ほざくのだ。
流石にかなり早い段階で、怒りが頂点に達し、息子にするように酒瓶を投げつけた事があった。
だが、酒瓶が割れる前に受け止めた彼女に
「酔っ払いはこれだから困ります。手が滑ったようですよ?」と嫌味たっぷりで笑われた時に
こいつを相手にするのは辞めようと思ったのだ。
いつの間にやら「お父上様」から「愼寿郎さん」に呼ばれ方も変わっていたし、なんだか健康志向な生活に変わりつつあるが、愼寿郎にとってはどれもどうでもいい事だった。
だが一つだけ彼が驚いた事は、これだけづかづか踏み込んでくる少女は、体の心配をするのみで、一定の線を超えてくる事がないのだ。
息子達に対する態度や、妻を亡くした男への慰め、はたまた自分の身の上話など。
そういった類は一つも話さない辺り、やはりこの少女は〝自分を心配してくれている〟のだと思わざるおえなかった。
そして、そんな琴音に驚いていたのは、勿論彼だけではない。
父に対して物怖じするでもなく、毎日声をかけ続けたり。
千寿郎が一人で抱え込まないように、姉のように優しく接したり。
日々の任務に加え、厳しい鍛錬にも根を上げず取り組む姿に、煉獄家の皆が驚いたのだ。
そして、底抜けに明るい彼女に何処か救われていたのだ。
******
そんな彼女がある日、杏寿郎に声をかけた。
「私事で大変申し訳ないのですが、二、三日お暇をいただけませんでしょうか?」
それには杏寿郎も「勿論構わない!」と答える。
、、、彼女が家に来てもう三か月程経つが、働き過ぎな位に頑張っている琴音に〝それくらいの休暇なら、寧ろ喜んで取ってもらって構わない!〟と思ってしまう。
だがこの三か月、一度も休みが欲しいなど言わなかったのに何かあったのだろうか?と同時に心配にもなる。
そんな表情に気づいたのだろうか、彼女が口を開く。
「実は育てから偶には顔を見せろ、と言われておりまして。いい機会なので、炎柱様の継ぐ子になった事も報告しようと思いまして」
と笑う彼女に、ほっと杏寿郎も安心し
「うむ!琴音の事を心配しているだろうから
ゆっくり過ごしてきなさい!」
と笑いかけるのであった。
いつも通り。笑顔を絶やさない琴音。
明るく話す彼女の心の悲鳴を、この時誰かが気付けていれば、、、
未来は少し変わっていたかも知れない。