第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから縁側に3人仲良く並んで腰を下ろし
〝さぁ、皆さんお待ちかね!スイートポテトを今から食べますよ!〟というタイミングで
玄関の戸が開く音がし、こちらへ向かってきているだろう足音が、この家の主の帰宅を伝えた。
なんとも間の悪い人だな、と琴音が失礼な事を思っていればその人物、愼寿郎が角を曲がり姿を表した。
まさか此方に三人がいるとは思ってはいなかったのだろう、、、彼は三人を視界に入れて一瞬動きを止めた。
それに気づいた千寿郎が「父上、、、」と声をかければ、愼寿郎は何を言うでもなくすぐに視線を逸らし、後ろを通り過ぎようとする。
琴音は、やはりこの人は〝自分の息子に対しても悪態をついているのか〟とそれをじっと眺めていた。よく見れば彼の手には大きな酒瓶が握られており、あぁ。酒を買いに出かけたのか、と呆れてしまう。
誰も声をかけず、
彼が後ろを通りすぎようとしたその瞬間
「酒もほどほどにしないと体に毒ですよ」
ぼそりと、琴音が呟き場の空気が凍りついた。
ぎょっとして彼女を見やる兄弟に、涼しげな顔をしたままの琴音。
言われた愼寿郎本人は、ぎろりと彼女を睨みつけた後、ふん。と鼻を鳴らし自分の部屋へと歩いていった。
そんな父の後ろ姿にほっと一息ついた杏寿郎に
然程気にしていません、と言う顔をした琴音が
「さっ!早くいただきましょう」と声をかけた事により、三人はスイートポテトに手を伸ばすのだった。
******
「わっしょい!わっしょい!」と隣でスイートポテトを食べすすめる杏寿郎に、
そういえば、、、「サツマイモはわっしょい」とかなんとか前に言っていたな〜、と呑気に考える琴音。
そんな彼女がまた呑気な声で「師範のお父上様は日頃から、お酒を沢山呑んでいらっしゃるんですか?」と言うものだから
次のスイートポテトに伸びていた手を止め、杏寿郎は彼女へと視線を移す。
彼にしては珍しく大きな溜息を吐いたかと思えば
、意を決して重い口を開いた。
「父は、かつては柱まで上り詰めたほどの実力と情熱をもった人だったのだが、、、母を病気で失ってから、剣士としての情熱をも失ってしまわれた。
今では、家で酒浸りの日々を過ごすようになってしまってな、、、」そう言って悲しげに笑う彼に
「そおなんですね〜」と何とも軽い返事をした彼女は、思いもよらぬ事を話し出す。
「では、まずは肝臓病にならぬように、食事の改善は必須ですね。お酒の管理を握るのが一番手っ取り早いのですが、、、
多分それは怒られそうなので、まずは何か食事と共にお酒を呑むように勧めてみましょうか?
やはり空きっ腹に酒は良くないと思うので、、、
もしも可能なら、水割りで呑んでもらうよう提案してみるとか」
と、う〜んと顎に手を当て、唸る彼女。
それには千寿郎が「え?えっと、、、琴音さん!」と声をかけるが
「やっぱり水割りは難しいですか?」と見当違いの回答をする琴音。
それを見ていた杏寿郎が
「琴音は父上の事を聞いて、その、、、怖いと思ったり、呆れてしまったりしていないのだろうか?」と静かに問いかける。
怖い?と、首をかしげた彼女は「いえ、全く。」と答え、静かに目を伏せ丁寧に言葉を紡いでいく。
「お父上様は、心の病と戦っておられるのでしょうね、、、
誰しもが持っている負の感情は、時として周りをも傷つける刃になる。それを支えるのはとても簡単な事ではありません。」
そこまで言って静かに目を開いた彼女は、何処かぼんやり昔を思い出しながら、また慎重に言葉を選んで話し出す。
「私にも大切な人との別れがありました。
胸がズタズタに引き裂かれたようで、訳もわからず気絶するまで泣いてしまった程です。
だから、私にも少し分かるのです。弱い自分から逃げたくなる気持ちも、大切な人の死から目を逸らす気持ちも、、、
でも、私には弟がいたから、、、何とか立ち直れた。目を逸らさずに歩みを進めれた。
、、、師範達がお父上様を支えれてないわけではないんです。
でも、お父上様は抱えるものが大きすぎたのかもしれませんね、、、柱でもない私には分かりかねますが、命の消える瞬間を、、、何度悔いてきたのでしょうね。最愛の妻を守れない自分に、絶望しているのかも知れませんね。
時間がかかるものなのです、、、
でも時間がかかっても寄り添う人に気付く日は必ず来ます。」
そんな時に体が悲鳴をあげていたら、元も子もないでしょう?そう言って笑う彼女から、杏寿郎は目を逸らすことが出来なかった。
琴音は何でもないように笑ったが、彼はその言葉に何故だか心が軽くなった気がしていた。
今まで、こんなにも自分達家族を心配し、寄り添おうとしてくれた存在があっただろうか。
父に認めてもらいたくて、柱になる為必死に鍛錬を続けた日々や、、、
兄として、千寿郎には寂しい思いをさせまいと、苦しくとも泣き言を堪え、明るく努めてきた日々も、、、
〝それは間違っていなかった〟と。〝必死に父上を支えてきたのでしょう?〟と過去の自分を認めてもらえたような感覚に、胸が暖かくなった、、、同時に少し泣きそうになった。
そんな彼に優しく微笑みかけた琴音は
「でも、これからは私がお父上様の健康をお守りしますので、ご安心を!なんたって、医者の娘ですから!」と、楽しそうに話すのだった。