番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもニコニコと笑っている事が多い杏寿郎が、今日は珍しく不機嫌そうに頬を膨らませている。
その視線の先には楽しそうに笑う我が子と琴音の姿。
「陽寿郎、はいギュ〜」
「ぎゅ、ぎゅっ」
何やら陽寿郎を抱きしめては二人してキャッキャっと笑い声を上げている。
なんとも愛らしい光景ではあるものの……
「……琴音」
「どうしたんです、杏寿郎さん?…て、痛い痛い!陽寿郎ちょっと待ってね?」
母親を取られまいと必死に琴音の髪を引っ張る息子に、杏寿郎はむむ、と片眉を吊り上げた。
******
一歳が近づき、よちよちとまだ覚束ない足取りで動き回る陽寿郎は、事あるごとに琴音の後を追いかけている。
それを少し先で心配そうに見守る琴音はもう立派な母親の顔で、その微笑ましい光景には思わず頬を緩めてしまう。
しっかりした言葉こそまだ口にしていない陽寿郎だが、始めて話す単語は〝母様〟ではないかとすら考えている。
それ程までに琴音にべったりなのだ。
……しかし、たまには、今日くらいは、琴音を貸してくれてもいいじゃないかと些か大人気ない行動に出る。
ひょいっと陽寿郎を抱き上げて琴音から物理的に遠ざける。
するとその動きが余程楽しかったのだろう。
今度はそれにキャーキャーと楽しそうな笑い声を上げ始めた。
その声を聞いているとなんだか穏やかな気持ちになってきて、同時に先程までの感情に嫌気がさす。
〝陽寿郎相手に焼き餅を焼く日が来ようとは……〟
だがそんな事を考えて落ち込んでいる暇はないようだ。
気づけばまたしても陽寿郎は琴音に向かってその小さな腕を伸ばしている。
なんとも無邪気で愛くるしいが、今日だけは琴音の隣を譲れなくて、今度は頭上へと持ち上げる。
すると再び上がる楽しそうな声に、ほっと小さく息を吐く。
そんな格闘を暫く繰り広げていれば……
ピンポーン〜♪
突然響いたインターフォンの音に琴音がピクリと反応を見せる。
「……今日は誰か来客予定だっただろうか?」
それに不機嫌そうな声色で問いかけてから、しまったと慌てて口を閉ざす。
だがそれを気に留めることなく琴音はふわりと微笑むと、強力なスケットをお呼びしたんですと口を開く。
「強力なスケット?」
「ふふっ、ちょっと待ってて下さいね?」
そう言って玄関の方へと姿を消した琴音に、陽寿郎と共に首を傾げた。
だがその数分後ー……
戻って来た琴音の後ろに続く見知った顔ぶれに、思わず大きな声を上げてしまった。
「父上!母上!それに千寿郎まで……今日はどうされたのですか?」
「琴音さんから先日お電話を頂いて、陽寿郎の面倒を見て欲しいとお願いされたのです」
そう答えた母上の言葉に、驚きのあまり琴音の顔を凝視する。
「杏寿郎さんのお誕生日なので……良ければ一緒に出かけませんか?」
すると頬を染めた琴音が可愛らしいお誘いを口にする。そのあまりの破壊力に自身の頬にも熱が集中する。
「うむ!勿論だ!!……父上、母上、千寿郎も、お気遣い感謝します!!少しの間、陽寿郎を宜しくお願いします!!」
そう言って陽寿郎を母上の前に差し出せば、自ずと隣に立っている琴音へと陽寿郎は腕を伸ばす。
「こらこら、陽寿郎……」
それに琴音が困ったように眉を下げたのを視界に捉え、ゆっくりと陽寿郎の目線に合わせて腰を折る。
「う、あーっ!…ぁ」
「陽寿郎が母様を大好きな事は知っている。だが父様も母様が大好きなんだ。今日だけは母様を父様に貸してくれないか?」
「………ぅ?」
それにキョトンと首を傾げた陽寿郎は、まるでその言葉を理解したかのように途端に静かになる。
「うむ。偉いな陽寿郎は!!ありがとう!!」
母上の腕の中でこちらを見上げる陽寿郎の頭を優しく撫でてやる。
するとふにゃりと笑った陽寿郎は大きな声で口を開く。
「ぅ、む!」
自身の口癖を真似るような返事に思わず目をパチクリとしていれば、隣からクスクスと笑い声が聞こえて顔を上げる。
「ふふっ、今確かに『うむ!』って返事をしましたね」
「うむ。あっ、いや……ハハハッ…陽寿郎には敵わないな!!」
照れ隠しで頬を掻いて誤魔化すが、父上達も釣られて笑いだすものだから、結局自分まで大声を上げて笑ってしまった。
******
その後、陽寿郎を預けることに成功した二人は、久しぶりに二人きりでショッピングに出かけた。
自ずと近づくその距離にそっと琴音の手を取れば、恥ずかしそうに頬を染めた琴音が遠慮がちに手を握り返してくる。
その愛らしい反応に自然と口元も緩んでいく。
「すみません。陽寿郎と楽しそうに遊んでいたのに……」
「いや、まぁ…何というか……」
何とも歯切れの悪い返答になってしまったが、まさか陽寿郎に嫉妬していたとは口が裂けても言えないだろう。
そんな事を考えていれば、困ったように眉を下げた琴音が、恥ずかしそうに口を開く。
「いつも陽寿郎の相手をしてくれて助かってるんですけど……今日だけは杏寿郎さんを独り占めしたくて」
すみません、陽寿郎相手に焼き餅なんて。
そう続けた琴音の言葉に思わずパチパチと瞬きを繰り返す。
それから耐えられなくなって盛大に噴き出せば、琴音は真っ赤な顔で俯いてしまった。
「ぐ、ふっ、ハハハ……すまない!実は俺も同じ事を考えていた!!」
「……え?」
「琴音を今日くらいは独占したいと思ってな!!だから陽寿郎に焼き餅を焼いたのは俺も同じという事だ!!」
キョトンとした表情で見上げてくる琴音が可笑しくてそのまま笑い続けていれば、琴音も釣られて笑みをこぼす。
「そうなんですか。……たまには二人でお出かけもいいかもしれませんね」
「うむ!そうだな!!……だが今度は陽寿郎が焼き餅を焼くかもしれん!!」
「ふふっ、そうですね。それは大変そうですね」
可愛いい我が子を思い浮かべ、二人でクスクスと笑みを落とす。
それから、きっとお利口に待っているだろう陽寿郎に可愛い洋服でも買っていこうー……そんな事を話しながら寄り添って歩く二人の姿は、誰から見ても幸せそうで……
「琴音、いつもありがとう!!」
「いえいえ此方こそありがとうございます。今日は杏寿郎さんのお誕生日ですから、夜は張り切ってご飯を作りますね?食べたいものがあったら教えて下さい」
「うむ、では先ずはさつまいものお味噌」
「ふふっ、はい」
「それから……」
愛らしい妻の笑顔に釣られ、杏寿郎も満面の笑みを浮かべるのだった。
******
あれから数日ー……
「うむ!」
「陽寿郎、俺はうむじゃないぞ!!父様だ!!」
「うむ!うむ!」
キャッキャッと笑い声を上げる陽寿郎を前に、杏寿郎は困ったように眉を下げた。
何度も自分を指差して、うむ!と繰り返す陽寿郎。
〝……これは完全に間違えて覚えられてしまったのではないだろうか〟
それにガクリと項垂れれば、背後から楽しそうな声がかかる。
「うむでもいいじゃないですか?そんな可愛い覚え間違い、今だけですよ?」
クスクスと可愛らしく笑う妻の姿に、杏寿郎は思わず頭を抱えた。
「まさかこんな事になろうとは……よもやよもやだ」
******
5/10は煉獄さんのお誕生日です。
少し遅くなってしまいましたが、お誕生日記念のお話を書かせていただきました。
お誕生日おめでとうございます〜(๑>◡<๑)
おもち
19/19ページ