番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
敵わぬ敵を前に、自身の命の終わりを悟る。
震える手で刀を握りしめても、これから訪れる恐怖に体は思うように動かない。
ニタリと顔を歪ませた鬼に、絶望を感じた瞬間……
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
暗闇を掻き消すように放たれた一筋の光は、最も簡単に鬼の首を斬り落とした。
その力強く美しい剣術に目を奪われていれば、早速と現れた彼が笑顔で口を開く。
「助けが遅れたようですまない!!怪我はないか?」
「………へ?」
あの時の自分は、さぞや間抜け面だったと思う。
それ程までに一瞬で、彼は鬼の首だけでなく、私の心を奪い去っていったのだ。
……あの日、命を救ってくれた煉獄さんに、一瞬で恋に落ちてしまった私は、未だにその想いを伝えられずにいる。
「では気を取り直して、座学を始めます」
そして、私は彼への想いを秘めたまま、ついにこの日を迎えてしまったのだ………
******
時は遡ること数ヶ月前ー……、
『上弦の鬼との戦闘の末、瀕死の重傷を負った煉獄さんが炎柱を引退した』
そんな話を、先輩隊士から聞かされた。
最初その話を聞いた私は、当然耳を疑った。
だって、あんなに一瞬で鬼を退治した煉獄さんだ。
例え相手が上弦であろうと、彼ならば屈することはないだろう。深傷を負ったとしても、再び立ち上がり、あの勇ましい炎で仲間の命を救うのだと……、勝手にそんな事を思っていた。
しかし、その噂は時間が経つにつれて真実味が増すばかり。
徐々に、彼を引退にまで追い詰めた戦いの詳細が明かされる度に、もうあの頼もしい背中を追いかけられないのかと悲しくなった。
そして、そんな私に追い打ちをかけるように、いつも上がる隊士の名前……、
『春野 琴音』
煉獄さんの継ぐ子として、彼女も列車の任務に同行していたのだとか。深傷を負い、彼の命が危ぶまれた時、果敢に上弦へと挑んでいったとか。
皆が口々に話す内容は、到底信じられないものばかりだった。
そんな彼女が新しく炎柱に就任した事にも驚きを隠せなかったし、それを後押ししたのが煉獄さんだと知った時も、なんだか遣る瀬無い気持ちになった。
それに加えて、煉獄さんと琴音さんは恋仲だと……更には既に婚約をしている……なんて情報も飛び交い始め、私の心は一気にどん底へと突き落とされていった。
そして、本日……、
鬼が形を顰めた為に始まった柱稽古で、私は初めて、琴音さんと対面した。
「私が教えるのは、怪我を負った際の応急処置のやり方と、呼吸の精度の極め方です。」
にこりと目を細めた現炎柱は、どう見たって貧弱そうで、戦いとは無縁に思えた。
私よりも背は低いし、体の線も随分細い。
それでいて、とても整った顔をした彼女は、どこぞのお嬢様と言われても、全く違和感はないだろう。
そんな彼女が、分かりやすい言葉で隊士達に説明をし始めると、何故か学ぶべき隊士達よりも大きな声で、それに対して声を上げ始めた元柱二人に皆の視線は集中する。
「いいのか、煉獄?琴音に、あんな風に鼻の下を伸ばしてる野郎を野放しにして!」
「むう。よくはないが……そもそも宇髄!!君にも琴音に近づく許可は出していないのだが!!」
「ああ?お前は中々しつこい男だな!嫉妬深い男は女に嫌われるぜ?」
「なっ!!もともとは宇髄が琴音に手を出した事が原因だろう!?」
煉獄さんと元音柱の口論に、二人が恋仲だという噂は事実だと悟った私は、どんどん気分が下がっていく。
〝……あんなに可愛らしい女性だ、煉獄さんが想いを寄せるのも理解できる〟
そんな事を思っている間にも、彼らの会話は続いていく。
元音柱の含みを持たせた物言いに、煉獄さんも段々と声を荒げ始めているし、元柱に向かって口出しできる者などいない為、口論は激しさを増すばかり。
惚気など聞きたくないのに……
そうやって落ち込む私に、煉獄さんは追い打ちをかけるように、更に言葉を続けるが
「どうしてもと言うから見学を許可したのに……うるさくするなら出て行ってください!!」
その言葉は、測らずしも琴音さんの一言で、終わりを迎えた。
「…………すまない」
「…………わりぃ」
ピシャリと言い捨てたその台詞。
それが反って彼らとの仲の良さを物語っているようで、私は小さくため息をついた。
******
だが、その後始まった実践練習ー……
泣き叫ぶ隊士を前に、笑顔で何処が駄目かを指摘する琴音の姿に、思わず頬を引き攣らせる。
〝……どこが貧弱なの!どこがお嬢様よ!!〟
初めに抱いた印象とはかなりかけ離れた琴音の姿に、ぐったりと地に横たわりながら、自分自身にツッコミを入れる。
〝全集中の呼吸を使って、隊士同士を殴り合わせるなんて……応急処置を教えれるから一石二鳥‥‥っじゃないわよ!!〟
琴音の荒々しい稽古に、心の中で何度も文句を繰り返す。
だけど、勿論厳しい稽古ではあるものの、一人一人に的確な助言をして回る彼女は、やはり柱に相応しい実力の持ち主なのだろう。
先程、皆の前で実演した呼吸を使った攻撃の受け流し方だって、簡単のように見えてとても難しい事だ。
それをこんな小さな体で、それ程までに力をつけるなんて…‥一体、どれ程鍛錬を積んでいるのかと思わず疑問を抱くほどである。
そんな事を考えながら、はぁはぁ…と荒い呼吸を整えていれば、隊士達を順に回って来ていた彼女が私の前で膝を折った。
「全集中の呼吸を意識すると、息を吸う事ばかりに集中してしまうけど、肺に沢山酸素を入れる為には、ゆっくり息を吐く事も大切よ?」
「……吐くっ、こと?」
「そう、ゆっくり呼吸を繰り返すの」
そう言って背中をゆっくりと摩ってくれた琴音さんは、全集中の呼吸について話し出す。
「気を悪くしないでほしいんだけど……、特に私達のような女性こそ全集中の呼吸が大切だと思うの。力では男性には敵わないでしょう?
だけど呼吸を極めれば、自ずと力は付いてくる。呼吸を上手く使いこなせば、体の治癒力も格段に上がる。
女の子だからって、負けてられないものね!一緒に頑張りましょう」
そう言って優しく笑いかけた琴音さんは、私の呼吸が落ち着き始めたのを見計らい、次の隊士の元へと去って行った。
その背中を眺めながら〝ああ、敵わないなぁ……〟呆然とそんな事を思ってしまった。
だけど、何故か悔しいとか、悲しい気持ちなんかじゃなく……ああ、煉獄さんが琴音さんを好きになった理由が少しだけ分かったかも、なんて思わず小さく笑ってしまった。
******
「杏寿郎さん!天元さん!私の稽古、どうだったでしょうか?皆んなの為にとは思っているんですが、上手くできているか不安で……何か、助言して頂けませんか?」
昼飯休憩を告げた琴音さんが、煉獄さんに嬉しそうに駆け寄っていくのを、握り飯片手に呆然と眺める。
「うむ!琴音は的確に指示を出せていたと思う!!自信を持っていい!!」
「あ、ありがとうございます」
その言葉に琴音さんがパァと表情を明るくさせれば、横から元音柱が琴音さんにズズイと顔を近づけて、ニタリと笑って口を挟む。
「隊士との距離が近い、触りすぎだ……って言わなくていいのか、煉獄?」
「なっ!!距離が近いのは宇髄の方だろう!!まだ先日の事、許したわけではないからな!!」
そう言って、琴音さんの肩を抱き寄せた煉獄さんに、元音柱はヘイヘイなんて片手を上げて、楽しそうに笑い声を上げていた。
そんな二人の間で琴音さんは頬を赤く染め、まぁまぁと二人を宥めながら困ったように眉を下げている。
そのやり取りに、胸が痛まないと言えば嘘になるが……
煉獄さんに肩を抱かれて頬を染める琴音さんの姿に、思わず口元に弧を描く。
彼女は、とても優しく可愛らしい人なのだろう。
……きっと自分と同じで、戦いに身を置かなければならない事情があったのだ。
だからこそ、強くなる為の努力を怠らず、それが皆の為になるならと、ああして周りにも意見を求めるのだろう。
とても強く、素敵な人だな……
初恋は実らず、無惨に想いは散ってしまったが……
「もう!二人とも、いい加減にしてください!!」
「むう。しかし……宇髄が先に……」
「杏寿郎さん、あまりしつこいと当分、薩摩芋は食卓に出しませんよ?」
「む!それは困る!!」
彼が好きになる人が、素敵な女性であったことに、思ったよりも簡単に諦めがついていた。
それどころか……
『女の子だからって、負けてられないものね!一緒に頑張りましょう』
そう言って笑った琴音さんに、思わず憧れを抱いてしまった自分がいて……、
午前中の稽古でヘロヘロになる隊士が多い中、昼からの稽古にやる気一杯で、私は握り飯を口一杯頬張るのだった。
******
リクエスト内容
第三者語りのお話。煉獄さんor夢主の事を好きな第三者が煉獄さんと夢主のラブラブな様子を見て、諦めるお話
りっち様、お待たせ致しました。
今回は煉獄さんを好きな、女性隊士目線のお話にしてみました。「鬼教官の稽古」の裏話的なお話を意識しましたが、いかがだったでしょうか?
楽しんで頂けていたら幸いです。
また遊びにいらしてください。
2022/03/09 おもち