番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
……ピンポンパンポン
休み時間の校内にチャイムの音が鳴り響き、その後すぐに先生の呼び出しを伝えるアナウンスが流される。
「煉獄先生、お電話が入っています。至急職員室までお戻り下さい」
だ………だ……だ…だ、だ、だだだだだだっ
そして、その声が鳴り止む前に始まった大きな地響きに、実弥は大きなため息を吐く。
ガラリと数学準備室の戸を開けば、校舎が揺れるほどの勢いで駆け抜ける杏寿郎が目に入り、実弥は額に青筋を浮かびながら怒鳴りつける。
「おいコラ、煉獄!!!廊下を走るなって、何回言わせりゃ気が済むんだァァァ」
「不死川、すまない!!今急いでいるので、失礼する!!」
「失礼すんじゃねーよ!!聞いてんのかァ!?」
それを目にした生徒達は、別段驚く事もない。
それどころか、また煉獄先生怒られてる〜…なんて、呑気に笑い声をあげている。
その前を風のように駆け抜けた杏寿郎が、ガラリと職員室の戸を開けば、カナエは満面の笑みで口を開く。
「煉獄先生を呼び出してからのタイム、新記録ではないかしらぁ〜」
「胡蝶先生、電話は!?琴音からの電話だろうか!!?」
「うーーん。残念ながら他校の剣道部の先生からよ?練習試合の申し込みのようだけど……」
それに眉を下げた杏寿郎は力なく頷いて、先程とは打って変わり、重い足取りで職員室の中へと消えていった。
******
春ー……、
初めて受け持ったクラスを無事に三年生へと送り出した琴音は、そのタイミングで漸く産休へと入っていた。
それまでの数ヶ月は杏寿郎だけでなく、実弥や炭治郎といった長男二人を筆頭に、あの冨岡までもが琴音の身の回りを何かと気に掛けてやっていた。
そして、琴音が産休に入り始めた頃から、杏寿郎の期待と緊張は日に日に高まっていくばかりなのである。
……というのも、琴音は始めてのお産にも関わらず、病院勤務の両親を気遣い、里帰り出産を希望しなかった。
勿論、琴音の両親はそんな事気にしなくていいと言ってくれていた訳だが、当の本人が「杏寿郎さんがついていてくれるから」と嬉しそうに話すものだから、何かあれば杏寿郎が駆けつけるという話になったのだ。
休みの日には、琴音と共に産婦人科で行われている〝始めてのママ、パパ講座〟に出席してみたり、我が子の為にとベビー用品を買い揃えたり、杏寿郎本人も父親になる準備はしているつもりだが………、
いざ出産の予定日が迫ってきた最近では、いつ入院してもいいようにと琴音が用意した鞄の中身を頻繁に確認してみたり、職場に杏寿郎宛ての連絡が入れば慌てて駆け込んでくる始末である。
初めの頃はそれを温かく見守っていた同僚達も、杏寿郎の暴走っぷりには、流石に呆れ初めている。
まあ、中には天元ように、その反応を面白半分で見守っている者もいる訳だが、なんにせよ、その取り乱し方が尋常ではないのだ。
……それに、同僚達は思うのだ。
万が一産気づいてもあの琴音なら、授業の妨げになるからとすぐに連絡を寄越すような事はしないだろう。そもそも、もしも緊急を要すのであれば、学校ではなく杏寿郎の携帯に直接連絡を寄越すのでは、と。
「……うむ、勿論です!此方からも是非、練習試合をお願いしたい!!………ところで山崎先生、お子様はいらっしゃいますか?」
だが、そんな仲間たちの思いとは裏腹に、電話先の他校の先生にまで、杏寿郎は立ち会い出産の経験はあるかと話出しす。
それには、たまたま職員室に居合わせた伊黒も、思わず頭を抱え、深いため息を吐くのだった。
******
そんな日々が何日も続けば、杏寿郎がいかにその瞬間を待ち侘びているのかなんて、同僚や生徒達にも充分すぎるほどに伝わって、その思いは自然と皆にも連鎖していく。
二人の赤ちゃんに皆が胸躍らせ初めた頃、
季節は春から夏へと移り変わり、待ち侘びた日はあっという間に訪れた。
……その日は前日までの雨が嘘のように、梅雨の合間の久々の晴天だった。
「はい、いいですよー。子宮は下がって来ていますから、いつ産まれてもおかしくない時期ですからね?」
定期検診のため訪れた産婦人科で、担当医師から伝えられた言葉に、琴音は小さく頷いた。それからチラリと隣を見上げ、幸せそうに目を細めた。
「うむ、心得た!!彼女が無茶をし過ぎないよう、俺がしっかり見守るとしよう!!」
「あらあら、お父さん……体は適度に動かさないといけません。激しい運動は控えて頂きたいですが、赤ちゃんのいい刺激になりますから、お散歩位なら制限する必要はないですよ?」
「むう……」
そう言って眉を下げた杏寿郎に、琴音はクスクスと笑みを漏らす。
〝久々の晴れ間だからと、杏寿郎さんをお散歩に誘うのもいいかもしれないなぁ……〟
そんな計画を思いつき、琴音は嬉しそうにお腹に手を乗せ微笑んだ。
「こうして杏寿郎さんとまったりするのも、なんだか久しぶりですね〜」
「む?そう、かもしれんな……近頃は病院や、家の片付けで忙しくしてたからな!!」
その後、病院から帰宅した二人は、仲良く手を繋ぎながらゆっくりとした足取りで、近所の公園へと向かっていた。
最近学校で起きたたわいもない話にも、嬉しそうに笑う琴音の姿に、杏寿郎も口元を吊り上げる。
〝守るべき家族が増えると、少し気を張り詰めすぎていたのかもしれないな……父上のようにどっしりと構えていなければ!〟
そんな事を考えながら歩く杏寿郎は、このひと時の幸せにほっと肩を撫で下ろしていた。
しかし杏寿郎が〝どっしり構えていなければ〟そう心に決めたその晩ー……
「きょ、杏寿郎さんっ、……陣痛…来たかもっ、」
夕食の片付けを二人で行っている最中、苦しそうに動きを止めた琴音の様子に、杏寿郎はオロオロと慌て出す。
「きゅ、救急車!……待ってろ琴音!今すぐ助けを「……杏寿郎さん、救急車は駄目っ……とりあえず……病院に電話っ、……う"っ」
「むっ、そうだな……今、電話を……」
そう言って病院へ連絡を入れてからは早かった。
陣痛の間隔が短いことから、すぐに入院となった琴音は、杏寿郎の運転で病院へと運び込まれた。
その頃には本格的な陣痛が始まり、すぐに分娩室へと通された。まともに歩く事すら出来ない琴音の様子に、杏寿郎はパニック寸前だった。
始めての出産は時間がかかると講習を受けたのに、あっという間の出来事で、どうしたらいいのか考えても検討もつかない。
そんな杏寿郎を他所に、手際よくお産の準備を進める助産師が、琴音へと優しく声をかける。
「はい、ゆっくり息を吐いてー……そうそう、上手よ〜」
大きな痛みの波が押し寄せて、はぁ、はぁ……と息を切らした琴音が、ふと部屋を見渡せば
「………杏寿郎さんっ、大丈夫?」
きっと今の自分よりも青白い顔をしているだろう杏寿郎に気づいて、心配そうに声をかけた。
「琴音……、」
オロオロと視線を彷徨わせた杏寿郎に、琴音は思わず眉を下げる。そうこうしていれば、痛みの波が訪れてぎゅーっと分娩台のポールを握り締める。
「お父さん!ほら、ぼっとしてないで!奥さんの手を握ってあげて」
それを眺めていた助産師の言葉に、杏寿郎はハッと我に返り、自分より小さなその手を握りしめる。
「琴音、俺がそばにいる!!」
「……きょ、じゅろ……さんっ、……」
それをぎゅーっと握り返しながら、琴音は必死で痛みに耐えた。
******
それから数時間ー……
分娩室に案内されるまでは早かったのに、琴音が涙を堪えながら、汗だくで痛みに耐えている時間はとても長いものに感じた。
今すぐにでも代わってやりたいのに、それをただ眺めていることしか出来ない状況に、杏寿郎は歯を食いしばりながら、必死で琴音の体を摩ってやる。
「赤ちゃん見えてきてるよ!!そう、頑張って」
「琴音、頑張れ!!」
「………っ、」
それから程なくして、大きな産声を上げた我が子に杏寿郎は、ほーっと大きく息を吐く。
「お母さんよく頑張りましたね、元気な男の子ですよ!!」
「琴音、よく頑張った!!ありがとう!!」
「……杏寿郎さん」
長時間のお産でぐったりとしていた琴音も、その声に笑いながら返事を返す。
そんな二人の元に綺麗に体を拭いてもらった赤ちゃんが助産師に連れられやってきた。
そのまま琴音の腕にそっと乗せられた小さな体に、琴音と杏寿郎は笑みをこぼす。
「初めまして、陽寿朗」
「俺と琴音の間に産まれてきてくれて、ありがとう!!」
******
それから数日後ー……、
生徒達に自慢するように携帯の待ち受けを見せて笑っている杏寿郎の姿に、天元はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「この子には、太陽のような暖かい微笑みが降り注ぎ続けるようにと、二人で考えて名付けた名前なんだ!!」
「へー!見て見てっ、煉獄先生そっくり〜」
「わあ、ホントだあッ!!可愛い!!」
生徒たちに自慢して回る程嬉しくて仕方がない杏寿郎の待受には、陽寿朗を抱く琴音の姿。
「全く……お前は相変わらず、ド派手な野郎だな!!」
「むう?派手かは知らないが……世界一可愛らしい妻と子供に囲まれて、世界一幸せな男だな!!ハハハッ」
そう言って豪快に笑った杏寿郎に、天元は一瞬パチクリと瞬きをした後、ゲラゲラと大声で笑い出す。
「ああ、そうだったな!!世界一幸せな野郎めっ!!」
その大きな笑い声に、数学準備室で小テストの採点をしていた実弥は動きを止める。
「うるせー奴らだなァ……」
そう一言呟いて、口元に小さく弧を描いた。
******
匿名でリクエスト頂きました。
守り抜く決意を胸にの夢主が、赤ちゃんを出産した時のお話。出来ればドタバタと慌てふためく煉獄さんが見てみたいです。
とても長くなってしまいましたが、楽しんで頂けましたでしょうか?
煉獄さんは太陽のような存在だなーと常日頃から考えておりましたので、そのまま赤ちゃんの名前として使わせて貰いました。笑っ
きっと煉獄パパは子煩悩な素敵な旦那様でしょうね……なんて、幸せな未来を想像してニヤニヤしてしまいました。
もし楽しんで見ていただけていたら幸いです。
2022/03/04 おもち