第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うげェ〜〜寒"っ」
自宅アパートへとたった今帰り着いた天元は、気だるそうにポストを開き、中に入っていた数枚のハガキを手に取った。
1月1日。
世間では新年の始まりという事で、初詣だなんだとお祭りムードではあるのだが……
昨晩から飲み明かしていたこの男にとっては、そんなことよりも、今は早くベッドに横になりたいとあくびを噛み殺していた。
「えっと……なになに……」
だが手にした数枚の年賀状にはきちんと目を通し、サラサラとその文字を辿っていく。
こんな時代だ。
年賀状なんて文化、段々廃れ始めているのだが、毎年変わらず新年の挨拶を寄越してくれる面々に、天元は無意識に口角を上げた。
「お館様……と、こっちは煉獄か」
ぶつぶつと独り言を言いながら、階段を登り部屋の鍵を挿した所で
「……入籍…した?……はぁああっ!?入籍したぁあ!?」
まだ部屋の外だというのに、気づけば思いっきり大声で叫んでいた。
食い入るように見つめたハガキには、力強い文字で
〝謹賀新年!!
突然ではあるが本日、琴音と入籍した。
今年も妻共々、よろしく頼む!!〟
との文字と、その横には二人の仲睦まじい写真がプリントされていた。
……ま、まあ、年賀状ではよくある話だ。
久しぶりに知人からハガキが届いたかと思えば、そこには決まって〝結婚しました〟や〝家族が増えました〟の文字。
だからそんなに驚く事ではないのかもしれない……そうだ……きっとそう………。
あまりの衝撃に痛む頭を抑えながら、天元は暫く考え込む。気づけばあんなに感じていた睡魔も、知らぬ間に消え失せていた。
玄関先でう〜ん、う〜ん……と何とか納得しようと心みたものの
「いやいやいやいや………」
……やはりどう考えても、このハガキの内容はぶっ飛んでいた。
そもそも、杏寿郎も琴音も、久しぶりに連絡が来た知人でもなければ、顔は合わすがさほど仲が良くないご近所さんでもない。
彼らは同じ職場で働く、気を許した仲間なのだ。
つい一週間程前に冬休みを迎える前までは、当然のように毎日顔を合わせていたし、直接報告する機会なら腐るほどにあったはずだ。
とりあえず部屋の鍵を開け、漸く自室へと足を踏み入れた天元は、大きなため息を一つ落とした。
そしてポケットからケータイを引っ張り出し、年賀状の送り主へと電話をかけ始めた。
「……もしも「やあ!宇髄ではないか!!明けましておめでとう!!」
「あ?ああ……」
「今年も宜しく頼む!!」
「ああ、こちらこそ……って違ェわ!!」
「……む?」
電話に出るなりハキハキと話し出した杏寿郎に、思わず天元も釣られてしまったが、
本題を思い出した彼は、電話口の男にも負けないくらいの大声を上げた。
「む?、じゃねェよ!!む、じゃ!!……あの年賀状はなんだ!?入籍したっていつだよ!?んな話、琴音からも聞いてねェぞ!!」
「ハハッ!!なんだそのことか!!いつ……と言われても、さっき役所に届けを出したところでな!!正確には年賀状を書き上げた時には、まだ入籍していなかったわけだが……」
「は?お前ら、元旦に入籍したのか?……というか、役所閉まってるだろ」
「うむ!!一年で一番めでたい日だからな!!今日を逃す訳あるまい!!それに役所は臨時で受理してくれるから安心だぞ!!」
「安心って……お前な、やる事が毎回派手なんだよ……」
電話の向こうで豪快に笑っている杏寿郎に、天元が思わず呆れていれば、杏寿郎に話しかける琴音の声が微かに聞こえてきた。
「杏寿郎さん、今度はだれですか?」
「ああ、宇髄だ!!これで三人目だな!!」
「悲鳴嶼さんのお祝いの言葉は流石として……しのぶは完全にキレてましたよ……」
電話口でのやり取りに、皆も突然の報告に戸惑ったであろう事を察して、天元は頭を抱えた。
「籍は入れたが、結婚式はゴールデンウィーク頃に改めて上げる予定だ!!是非来てくれ!!」
「………おい、煉獄」
「うむ!どうかしたか?」
「今日の夜は必ず空けておけ。いいか、琴音と家にいろ!!必ずだ!!」
「それはどうい「プツッ。ツーツー……」
そう吐き捨てるや否や、杏寿郎の言葉を完全に無視して通話を強制的に終了した天元は、そのまま電話帳を開き直す。
「おー……胡蝶か。……ああ、今聞いたところだ………あーはいはい、分かってるっつーの!!」
そして、悪戯を思いついた少年のように、怪しく口元を吊り上げた。
「おー!……じゃあ、夕方……はいよっ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべた天元は、昨日から一睡もしていない状態にも関わらず「こりゃあ、おちおち寝てらんねーな」と楽しそうに呟いた。
******
一方、琴音と杏寿郎はーー。
「うーん……杏寿郎さん、どうしましょうか?」
「むう。そうだな……もしかしたら宇髄も夕飯を食べていくかもしれないから、大変だとは思うが少し多めに作って貰えるか?」
夕方になっても、大した連絡もしてこない天元に、頭を悩ませていた。
というのも、あの後何度か電話をかけてみても天元に繋がることはなかったし、メッセージを送った所で〝夕方届けものをする〟としか返信も返ってこなかったのだ。
朝の電話の会話から言って、結婚祝いのプレゼントをわざわざ届けに来てくれるのだろうと予想した杏寿郎は、天元に夕飯をご馳走するつもりで琴音に声をかけていた。
それに二つ返事で頷いた琴音が、夕飯の準備をし終えた頃ーー。
………ピンポーン
来客を知らせるインターフォンが鳴り響き、杏寿郎がエントランスの天元を確認して、入り口のロックを解除してやる。
それから暫くして部屋のインターフォンが再び鳴った事で二人は玄関へと彼を出迎えに行って、目を丸くした。
「よもや……皆して、どうした?」
「どうしたじゃないですよ……何も言わずに結婚してしまうなんて、水臭いじゃないですか」
「……しのぶ」
「そう言うこった!!おら、今日は結婚祝いに飲み明かすぞ、煉獄!!」
クスクスと悪戯な笑みを浮かべたしのぶや、天元だけでなく、そこには元旦だと言うのに自分達の為に集まってくれた仲間たちの姿……
悲鳴嶼は既に涙を流しながら祝福の言葉を口にしているし、冨岡は無言ではあるものの何やら大事そうに惣菜を抱えている。その後ろにはケーキの箱を持った伊黒と、そんな彼の横で興奮気味の蜜璃の姿。それに「騒ぐなら部屋に入ってからにしろォ」と実弥が呟けば、カナエが「あらあら〜…」なんて笑みを漏らす。
「ありがとうございます、皆さん……立ち話はなんですので入って下さい」
「うむ!まさかこのような人数とは想像もしていなかったが、丁度夕飯を用意し終えたところだ!!」
そんな仲間達に笑みを浮かべた二人は、皆を部屋の中へと招き入れた。
******
食卓机だけでは足りず、折り畳みの机も引っ張り出しては見たものの、皆が皆、何かしら食べ物を持ち寄ってくれた為、机の上だけでなく床にまで並んでいる。
琴音が作ったおせちや手料理に加え、フライドチキンやピザ、つまみになりそうな惣菜の数々……因みに冨岡が大事に抱えていたのは、汁がいっぱい入った運びにくいであろう鮭大根だった。
それから、琴音が大喜びしたケーキとおはぎ、そして主に天元が持ち寄った大量の酒……
それらを目の前にして、無意識に口角を上げた杏寿郎が嬉しそうに口を開いた。
「今日はわざわざ俺達のためにありがとう!!」
そう言って琴音に視線を移した杏寿郎は、小さく笑みを溢して声をかける。
「ほら、琴音?」
そう促されて、下を向いてモジモジしていた琴音は、漸く小さく呟いた。
「……皆さん、……あの、ありがとう……ございますぅ、……っ、」
皆、大好きです……と声を震わした琴音は、どうやら涙腺が崩壊しているようで、顔はずっと下を向いたままだったが、彼女を支えるように肩に腕を回した杏寿郎は、隣で愛おしそうに目を細めていた。
そんな二人を眺めながら、天元は楽しそうに声を上げた。
「おら、乾杯するぞ〜!!あっ、甘露寺と胡蝶妹はジュースだかんな!!未成年は酒は駄目だぞ〜!!」
「……分かってますよ、宇髄さん。先生面しないで下さい」
「ああ?そりゃあ、無理だ!先生だからな!!」
そう言ってゲラゲラと笑った天元が、酒を掲げて再び口を開く。
「今日はド派手に飲み明かすぞーーっ!!んじゃまあ、煉獄と琴音の結婚に乾杯ッ!!」
「「「「乾杯!!」」」」
あの日、鬼殺隊に身を置く者は沢山のものを失った。
最愛の家族、恋人、友人、仲間ー……。
無力な自分に打ちひしがれる時もあった。
涙なんかとうに枯れ果てて、考えることすら投げ出したくなる時だって。
だけど、あの日のあの瞬間があったからこそ、こうして平和な世の中で再び彼らは巡り合い、こうして笑い合えているのだ。
「……にしても、二人暮らしには広すぎるんじゃねェかァ?」
「む?そんな事はないだろう!!少なくとも三人は、子供が欲しいからな!!」
「わっ、わっ、わっ!!杏寿郎さん!!」
「きゃー!!聞いた伊黒さん?素敵だわ〜、キュンキュンしちゃう!!」
「甘露寺、分かったから落ち着け。……ジュースがこぼれそうだぞ」
「あら、琴音……頑張って下さいね?」
「ふふふ、煉獄君はいいパパになりそうね?」
「美しき夫婦愛だ、南無……」
「………そうか」
百年の時を超え、漸く結ばれた二人は皆に祝福されて、幸せそうに笑い合った。
完