第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわぁぁ〜ん、……杏寿郎さんの裏切り者〜っ」
恥ずかしさのあまり、琴音が半泣き状態で恨み言を口にした瞬間、我に帰った杏寿郎が慌ててその背中に手を伸ばした。
「ま、待つんだ琴音………」
だが時すでに遅し。
その手は彼女に届く事はなく、あっという間に琴音は体育館から姿を消した。
「……よもやよもやだ……… まさか琴音に裏切り者扱いされてしまうとは……」
ガクリと肩を落としては見せたものの、片手で口元を覆ったままの彼の表情はいまだに先程の余韻に浸っているかのように締まりがない。
「だぁーはっはっは!!見たか胡蝶?……この宇髄天元様にかかれば、派手にドカンと会場を沸かせることなんて容易いわっ!!それにしても……ぶふっ、琴音の奴っ……くくっ、…」
「……宇髄さん。あまり笑っては琴音が拗ねてしまいますよ?まあ、煉獄さんには喜んで頂けた様ですが……」
そんな彼の隣でゲラゲラと笑い声を上げた天元に、しのぶは呆れた様に口を開いた。
「あ?分かってんのか、胡蝶……今回ばかりはお前も同罪だからな?」
「……はぁ、………そんなこと宇髄さんに言われなくても、ちゃんと分かっていますよ」
そう言って眉を下げたしのぶは、一つ小さく咳払いをして、珍しく間の抜けた表情を浮かべる杏寿郎へと声をかけた。
「すみません、煉獄さん。この後、二人の婚約をお祝いしようと思っていたのですが……さすがに琴音が体育館を飛び出して行ってしまうとは予想もしていませんでした。」
「むう?ああ……うむ、……」
「もしもし?煉獄さん、ちゃんと聞いていますか?」
しのぶの言葉に覇気のない返事を返した杏寿郎を見て、天元はニヤニヤと笑いながら肩を回した。
「おいコラ煉獄!!ぼうっとしてねーで、早く琴音を呼び戻してこい!!主役がいないんじゃぁ、盛り上がんねーだろっ!!」
「……うむ。………すまない、俺とした事が……」
「あ?何改まってんだ……お前は昔から琴音が絡むと、暴走していただろうが……惚れた弱みってやつか〜?」
そう言って揶揄う様に、ぐりぐりと杏寿郎の頭を撫で回した後、ドカッと背中を叩いた天元に送り出される形で、杏寿郎が二、三歩踏み出せば
「宜しくお願いしますね、煉獄さん?」
苦笑いを浮かべたしのぶの一言に、今度こそ普段の調子を取り戻した杏寿郎が力一杯頷いた。
「うむ、……すまない!!不甲斐ないところを見せたな!!少し待っていてくれ!!」
そう一言言い残し、杏寿郎は颯爽と体育館を出て行った。
******
その頃、体育館を飛び出した琴音はと言うと……
「コラァ!廊下を走るなァァァ!!……って、琴音じゃねえかァ」
「うう……実弥さん、聞いてください〜」
体育館に向かって歩いてきていた実弥を捕まえて、皆の笑い者にされたと愚痴り倒していた。
それを一通り聞いていた実弥は、頭をガシガシと掻きながら、何か心当たりがあるような口ぶりで話し始めた。
「あーー……それは大変だったなァ……まあ、やり方はどうであれ、お前らを祝いたかったんじゃねーのかァ?」
「でも……恥ずかしいものは恥ずかしいんです!!」
「……ああ、まあそりゃ……だが、宇髄が 琴音を揶揄うのなんて、いつもの事だろうがァ」
「だって……杏寿郎さんまで天元さんに可笑しな事言い出すから……」
そう言って下を向いてモジモジし始めた琴音に、実弥は大きなため息を落とした。
今回の体育館でのイベントには、生徒は勿論、教師陣にまで事前に呼び出しがかかっていた。だからこそ、こうして彼も体育館へと向かっていた訳なのだが。
『二人の婚約をド派手に祝う』としか聞かされていなかった実弥は、琴音を見つめて思わず眉間に皺を寄せた。
〝ド派手に拗ねさせてどうすんだァ……〟
そんな事を考えていれば、体育館の方向から杏寿郎が此方へと駆けてきていることに気がついた。
「……琴音!!」
「っ……、」
その声に、琴音は咄嗟に実弥の後ろへと身を隠し、キッと杏寿郎を睨みつけた。
「琴音、先程はすまなかった……あまりにも可愛らしい映像に、些か取り乱してしまった!」
「………恥ずかしかったです!!すっごく!!」
そう言って、無意識に実弥の服をぎゅっと掴んだ琴音を前に、杏寿郎は額に青筋を浮かべた。
だが、それに即座に気づいた実弥が、慌てて琴音に声をかける。
「おい、コラ!隠れんじゃねェ!!」
「不死川!!琴音を返して貰おう!!」
「取ってねーわ、変な言い方すんじゃねェ!!」
俺を巻き込むなァ……
絞り出すかの様に呟いた実弥は、琴音をひょいっと掴んで杏寿郎の前に差し出すと、面倒臭そうに口を開いた。
「やり方はどうであれ……宇髄達がお前らを祝いたいって言う気持ちには嘘はねェ(筈)だろうがァ……たくっ、主役がいつまでも臍曲げてんじゃねェ」
そう言って琴音の頭をぽんぽんと撫でた実弥に、しゅんと肩を落とした琴音は小さく頷いた。
元々恥ずかしかっただけで、心の底から杏寿郎に怒っていたわけでもないし『煉獄と琴音の結婚を派手に祝おう!!』の垂れ幕にも気づいていた。
それに加えて兄と慕う彼からも諭されてしまっては、渋々頷く他なかったのだ。
……因みに、ここで一つ訂正を入れるとすれば、二人は婚約しただけで、まだ結婚はしていないのだが。
あまりの出来事に突っ込む事すら忘れて、二人して飛び出してきてしまったのだから致し方ない。
「……杏寿郎さん、いきなり逃げ出してすみませんでした。あまりに恥ずかしかったもので……」
「琴音が謝ることは………いや、」
そこでチラリと実弥に視線を移した杏寿郎は、むむむ……と腕を組み険しい表情で口を開いた。
「他の男に抱きつくのは関心しないな!!」
そう言い捨てた杏寿郎に実弥は再びため息をついた。
「……だから、俺を巻き込むんじゃねェェ……」
******
その後、無事に琴音を連れ帰った杏寿郎と共に、実弥が体育館へと足を踏み入れれば、
そこは地獄絵図と化していた。
あちこちに頭痛や吐き気、眩暈を訴える生徒が倒れており、その生徒達を生徒会メンバーが必死で外へと運び出していた。
「何、これ……?」
呆然と琴音が呟けば、壇上にいた天元が目敏く彼らの登場に気付き、口角を上げた。
「おせ〜ぞ、お前ら!!じゃあ主役も登場した事だし、もう一曲派手にぶちかますぜっ!!」
その一言を合図に始まった不協和音……
お世辞にも歌がうまいとは言い難い……いや、寧ろ神経を逆撫でする程の音痴っぷりを見せる炭治郎をボーカルに、
怨念と恨みがこもった善逸の三味線がそこにメロディーを重ねる。
ただ力任せに叩いているだけで、リズムがのっていない伊之助の太鼓がそれを後押しし、
そして壮絶な肺活量を持つリーダーの天元が爆音でハーモニカを吹きまくる。
そんな彼らが生み出す壊滅的な爆音がこの会場を包み込み、あちこちから悲鳴が上がる
……が、何故か壇上の彼らには届かない。
『宇髄さん……大変申し訳ないのですが、今年はメインイベントを琴音達の婚約祝いとして派手に演出していただきたいんです。きめつ☆音祭……とても楽しみにしていたんですけど……』
そう言って友を出しに使ってまで、しのぶが阻止したかったこのバンドによる被害を……
結局は天元率いる〝ハイカラバンカラデモクラシー〟によって、今年も引き起こしてしまった訳である。
「オラオラ〜!!まだまだド派手に行くぜ〜!!」
「「「や、やめてくれ〜……」」」
のちに語り継がれる恐怖の文化祭は、琴音と杏寿郎の婚約祝いと言うよりも、彼らのバンドの恐怖を記憶に焼き付けた形となった。
そしてそれと同時に、爆発的人気商品となった焼き芋まんが、後日定番商品となったのは言うまでもない。