第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
賑やかな校舎の一室で、琴音はもぐもぐと口を動かしながら首を傾げた。
「え?天元さんが……?」
「うむ!!何やら体育館にて……生徒会主催の派手な演出をするようだ!!俺も必ず顔を出すようにと呼ばれている!!」
「へー……何をやるんでしょうね?知らなかったです」
「むう……、内容は聞きそびれてしまったが、よければこの後一緒に行かないか?」
そう言ってこの後の予定について問いかけた杏寿郎に、琴音は申し訳なさそうに眉を下げた。
「すみません……実は、しのぶから手伝いをお願いされていて……なんでも業者?の案内を頼まれて」
「業者……?因みに何処へ?」
「いや、業者を……体育館へ、としか聞かされていなくて……職員用の入り口で待つようにとしか聞かされていませんが」
「なるほど。ならば生徒会主催の出し物とやらに関係しているのかもしれないな!!……むむ……わっしょい!!」
先程まで難しい顔で考え込んでいた筈の杏寿郎が、焼き芋にかぶりついた途端目を見開いてお馴染みの台詞を言い放つものだから、琴音も釣られて笑みを漏らす。
「ふふ、……あっ、本当だ!美味しいですね!」
「うむ!……わっしょい!!……わっしょい!!」
「あははっ……もう、杏寿郎さんたらっ!!」
浮かれる生徒たちに負けない位、国語準備室からは楽しそうな二人の笑い声が暫く響き渡っていた。
******
杏寿郎と昼ごはんを食べ終えた琴音は、あれから彼と別れ、職員用の入り口へとやってきていた。
「……あれ?後藤君?」
だがそこで見知った青年が、何やら大きな台車に大量の番重を乗せて歩いてきている事に気づき、慌てて外へと飛び出した。
「業者って、後藤君のことだったんだ〜!」
「はい。しのぶちゃんからお願いされて……文化祭で焼き芋まんを200個用意して欲しいと言われた時は、自分の耳を疑いました」
「ぇえ!?200って……数量の間違いではなくて?」
「ははっ、俺もそう思って何度も確認しましたが、やはり200で間違いないようで……文化祭で売って欲しいと……売れないようなら全て学園が買い取るとの事で」
「そっ、……そうなんだ……」
「……はい。おかげでうちの両親は大喜びですよ」
そう言って台車を押す後藤の後を、琴音は苦笑いを浮かべながらついて行く。
そもそもしのぶから頼まれていた手伝いは〝業者を体育館まで案内して欲しい〟というものだったが……
〝卒業生の彼に案内など必要なかったのでは?〟
迷う事なく体育館へ歩みを進めるその背中を見つめ、琴音は小さくため息を落とした。
******
一方、その頃……
琴音と別れた杏寿郎は天元との約束通り、体育館へとやって来たのだが、
中に足を踏み入れた瞬間、彼に向かって怒声が飛んだ。
「おせーぞ、煉獄っ!!何してやがった!?」
約束通りの時間に顔を出したのにも関わらず、随分と理不尽な突っ込みを入れた天元に、杏寿郎は眉間に皺を寄せた。
しかし、彼が立つ壇上の上『煉獄と琴音の結婚を派手に祝おう!!』の垂れ幕の文字に気がついて、思わず口角を吊り上げた。
「むう?……此れは一体……?」
「ふふ、驚きましたか?今年は〝きめつ☆音祭〟の代わりに、煉獄さんと琴音の婚約を祝したイベントを企画したんです。………些か強引な手段ではありましたが、派手な祭りが大好きな彼には打ってつけのイベントでしょう?」
そう言って笑みを浮かべたしのぶは、先日の杏寿郎の失態など気にもしていないようで、にこにこと笑みを深めていた。
「琴音も後からやってきますが……まずは煉獄さんに、とっておきのプレゼントがあるんです」
「俺に……?」
「ええ。……宇髄さん、お願いします」
しのぶの言葉を受け「ド派手に会場を沸かせてみせるぜ〜っ、任せろ!!」とノリノリな天元は、体育館の照明を落とすように裏方に声をかけた。
「煉獄と……心が干からびちまってる野郎ども!!目ん玉かっぽじって、よく見てろお!!」
そう大声で吐き捨てた天元は、壇上から飛び降りると慣れた手つきでプロジェクターを操作し始めた。
これから何が始まるのか想像もつかない杏寿郎は、首を傾げながらそれを見守っていたのだが、映像が始まるとカッと目を見開いたまま、杏寿郎は動きを停止した。
******
スクリーンに映し出されたのは、校庭横にある花壇の映像だった。
ただそこにある花たちだけが映っている映像に、皆が首を傾げてそれを見つめていれば、寒っ……と独り言を呟きながら、直ぐ横にある水道の前に琴音がジョウロを片手に現れた。
全く此方には気づいていない彼女は、キュッと蛇口を捻ると、「朝は冷えるな〜……ふふっ、もう焼き芋の季節だなぁ」と大きな独り言を口にした。
それには「……これ、盗撮じゃねえか?」と一部の生徒がざわつき出したが、映像の中で琴音がジョウロを持ち再び動き出した為、皆は一様に口を閉ざしてその先を見守る。
どうやら映像の中の彼女は、随分と機嫌がいいようである。
花壇の前まで移動すると、完全に此方からは後ろ姿しか見えなくなってしまったが、楽しそうな歌声が聞こえてきた。
やきいも やきいも あちちのチー
ほかほか ほかほかっ お腹がグー
食べたら なくなる なんにもパー……♪
何故か彼女が口ずさんだのは、子供の頃に誰もが一度は口にしたことがある手遊び唄で……その可愛らしい歌声に
体育館にいた者達。
男子生徒のみならず、女子生徒たちまでが、思わず頬を染めながらその映像に釘付けになっていた。
「……よしっ!水やり完了ー」
そう言って、伸びをした琴音は最後に思い出したようにぽつりと小さく呟いた。
「焼き芋まん美味しかったな〜……わっしょいだった……ふふっ。…………ん?」
クスクスと笑みを浮かべながら、ふと此方を振り返った彼女は、
ジョウロを片手に動きを止めた。
「……天元さん、何してるんですか?」
「ん?嫁観察だ!!気にすんな!!」
映像内で平然と言い放たれたその言葉に、この映像が誰によって撮影されたものなのか、その場の者は理解した。
「えっと、……何処から見てたんですか!?」
「最初からに決まってんだろ?というか、お前……煉獄といつも一緒の癖して、少し離れてる時でさえ、あいつの事で頭ん中いっぱいなのなー」
その言葉に、いや…これはその……と顔を赤らめながらゴニョゴニョと言葉を濁した琴音は、ハッと我に帰り此方に向かって駆け出した。
「と言うか……天元さん、これ盗撮ですからー!!消してください!!」
「ああ"?盗撮なんかするかっ!!よく見てみろ琴音!!俺は隠れてなんかねーだろ、派手に堂々と撮ってんじゃねーか!!」
「そう言う問題じゃないですから……ちょっ!本当やめて、くださいっ!!」
そう言ってジョウロを振り上げ走ってくる琴音を捉えた所で
……映像は終わりを迎えた。
映像が終わって数秒、体育館は静寂に包まれた。
だが次の瞬間、数名の男子が雄叫びを上げた事により体育館はどっと騒がしさを増した。
******
ウヲォォオ〜……
琴音達が体育館へ向かって歩いていると、突然大きな雄叫びが響いてきて、琴音は思わず苦笑いを浮かべた。
〝さすがは祭りの神……派手に盛り上がってるのね〟
そんな事を思いながら、琴音は体育館の扉を開いた。
すると、琴音の姿に気づいた生徒たちが突然駆け寄ってきて、興奮したように声を上げた。
「琴音先生!ありがとうございます!!」
「へ?ああ、うん……?」
「俺、絶対焼き芋まん買います!!」「私も!!」
「……え?それなら、此処に……」
琴音が戸惑いながら声を上げたその時、彼女はスクリーンに映る自分の姿を捉えた。
校庭横の花壇の前で、ジョウロを片手に停止している自分の姿に、思わず琴音も固まった。
しかし、そんな彼女に詰め寄る生徒は数多く、その皆が焼き芋まんについて口にする為、琴音はその映像がなんなのかを唐突に理解した。
「なっ、……」
「はい、みなさん!!後藤先輩が例の焼き芋まんを沢山用意してくれていますよ〜?数に限りがありますので、買いそびれないように気をつけてくださいね?」
「……しのぶ」
戸惑いを隠せない琴音を無視して、横から突然口を挟んだしのぶはとても可愛らしい笑みを浮かべていた。そしてそのまま後藤の背を押し、彼を誘導し始めたしのぶは、思い出したように振り返る。
「琴音……あなたの尊い犠牲のおかげで、沢山の命が救われました。感謝しています」
「………」
その一言にこの騒ぎは天元だけでなく、しのぶも一役買っていたと理解した琴音は、呆然とその背中を見送った。
しかし時間が経つにつれ、沸々と怒りが湧いてきた琴音は、そもそもの元凶の男の元へと歩き出す。
長身の彼は人混みの中でも見つけやすく、生徒たちの合間を通り、琴音は大声を張り上げた。
「……天元さん!!」
「よっ!琴音!!」
すると平然と片手を上げた天元と、その隣に杏寿郎の姿も確認できたが、琴音は怒りでそれどころではない。
「よっ、じゃないですよ!!酷いじゃないですか!!あんな恥ずかしい映像流すなんて〜!!絶対、今すぐにあの動画消してください!!」
そう言ってプンスカと怒り出した琴音は、杏寿郎にも加勢してもらうつもりで彼に向かって口を開いた。
「杏寿郎さんも、天元さんに何とか言って下さい!!」
……のだが、見上げた先の彼は、真っ赤な顔で口元を右手で覆い、スクリーンを見つめて固まっていた。
「………宇髄」
そんな彼が静かに口を開いた為、琴音はてっきり天元を叱りつけてくれるものだと期待したのだが……
「そのデータ……消す前に、俺に送ってくれ」
予想外のその言葉に、琴音はプルプルと震えだし
「うわぁぁ〜ん、……杏寿郎さんの裏切り者〜っ」
大声で泣き叫びながら、体育館を飛び出して行った。