第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
放課後の会議室ーー。
この会議の委員長を務める胡蝶しのぶは、いつになく神妙な面持ちで口を開いた。
「困りましたね……煉獄さんも、冨岡さんも丸め込まれてしまうとは……」
「す、すみません……兄上はご馳走に目がないもので……」
そう言って眉を下げた千寿郎に、隣に座るカナヲも困ったように苦笑いを浮かべた。
それを顎に手を当てながら眺めていたしのぶは、ふむ…と考え込みながら小さなため息を落とした。
「いえ……こればかりは相手が一枚上手だったと負けを認めざるおえません……」
「では……今年も、開催……という事でしょうか?」
「いえ……それはなんとしても阻止しなければ、今年こそ死者がでるかもしれません」
しのぶが口にしたなんとも物騒な一言に、誰かが息を飲む音が聞こえた。
「……致し方ないでしょう。……人々の命を守るためには尊い犠牲は付き物です」
そう言って目を伏せたしのぶがその後続けて口にした作戦に、皆は驚いた様に顔を上げた。
しかし……と口を開きかけた生徒に「私達に残された策はそれしかない筈です」としのぶがピシャリと言い放つ。
それには、その場に居合わせた全員が口を閉ざし、戸惑いながらも頷いた。
「では主犯格には私から話をつけておきますので、この情報はくれぐれも内密に……特に、千寿郎君」
名指しで呼ばれた千寿郎がピクリと反応を見せれば、しのぶは念押しするかの様に繰り返した。
「いいですか……当人には勿論、君のお兄様にも気づかれる事は許されません……」
「は、はい」
「心苦しいとは思いますが、あと数日の辛抱です……今回こそは犠牲者を出す事なく、無事に文化祭が終わる事を祈りましょう」
そう言って微笑んだしのぶを見据え、大きく頷いた千寿郎は心の中で何度も謝罪を繰り返した。
……… 琴音さん、兄上、すみません……俺にはこうするしか策がない……皆を守りたいんですっ…… と。
******
普段より、がやがやと賑わいを見せる校舎は、大勢の人でごった返していた。
本日、きめつ学園では生徒たちが待ちに待ったビックイベント〝文化祭〟が開催されている
「琴音先生ありがとうございました」
「これくらい気にしないで?また困った事があったら声をかけて」
そんな中琴音は忙しそうに、あちこちの教室を行ったり来たりしていた。
年度途中に赴任してきた琴音は、今年はクラスの担任を受け持っていない為、困っている生徒たちを見つけては雑務の手伝いを行う見守り隊として大忙しである。
そんな琴音は、今しがた生徒と共に運んだ段ボールで、とりあえずひと段落ついたところだ。
また午後からも見回りが控えている為、今のうちに昼食を取ってしまおうと国語準備室に向かっていれば、突然後ろから手を引かれ琴音は驚き振り向いた。
「わあっ!杏寿郎さん吃驚した!!」
「む?驚かせてしまったか?」
そう言ってにっこりと笑った杏寿郎の手には、沢山の食べ物が握られており思わずキョトンと彼を見上げた。
「琴音を見つけるのに中々苦労した!!ここまで来る間に沢山の匂いに釣られて、こんなに買い込んでしまった!!」
「ふふっ、すみません。先程まで二年生のクラスにいたもので……何かお手伝いが必要でしたか?」
「いや!昼飯を一緒に食べようと思ってな!!」
「……へ?杏寿郎さん、生徒たちの付き添いは大丈夫なんですか?」
「うむ!!二時間の休憩を貰ったからな!!琴音も忙しそうだったから、きっと昼はまだだろう?」
杏寿郎のクラスの出し物は〝時代劇喫茶〟との事で、生徒たちに頼み込まれた彼は着物をカッコよく着こなし腰に偽の刀を忍ばせている。相変わらずのイケメン具合である。
通りかかる度ちょこちょことクラスを覗いていたが、度々生徒から写真をせがまれていて、生徒相手に少し焼きもちを妬いてしまったほどだ。
そんな彼が、手にいっぱい食べ物を抱えて自分を探してくれていたことが嬉しくて、琴音はクスクスと笑みを漏らしながら、
「ありがとうございます。丁度、国語準備室でご飯を食べようと思っていた所なんです」
「それは良かった!!俺も、もう腹ペコだ!!」
「ふふっ、とってもいい匂いですもんね……たこ焼きですか?」
「うむ!それだけじゃないぞ!!焼きそばに団子!俺たちの喫茶店の焼き芋も拝借してきた!!」
「ご馳走じゃないですか〜!」
満面の笑みを浮かべながら歩き始めた杏寿郎に釣られて、琴音も笑いながら歩き出す。
だが、ふと着物姿の杏寿郎の後ろ姿を見つめた琴音が思い立ったように口を開いた。
「杏寿郎さん、一つお願いしてもいいですか?」
「む?……お願い?」
突然歩みを止めた彼女を振り返りながら首を傾げた杏寿郎に、琴音は恥ずかしそうに頬を染めた。
「あの、私とも一緒に写真を撮って貰えますか?」
「ぐっ、ふはは……!」
その一言に目を丸くした杏寿郎が噴き出せば、琴音は笑わないでと眉を下げた。
「すまない!そんな事でよければ何枚でも一緒に撮ろう!!」
「いや、一枚で大丈夫なんですが…」
そう言って困ったように視線を泳がせた琴音を上機嫌で見つめる杏寿郎はまだ知らない。
この後しのぶの計画により、彼女をカンカンに怒らせてしまう事を………