第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから涙ぐむ琴音の父を前に、杏寿郎は昔話に花を咲かせていた。
「あの時の父ときたら……ははっ、お義父様にもお見せしたかった位です!!」
「そうか…… 琴音は、さぞかし喜んだだろう?」
「ハハハッ!!さすがはお義父様、よく琴音の事を分かっておられる!!
昔から父も琴音には、なんだかんだと甘い所があったのですが……よもや、怪我を負った琴音を叱りつけた後に、大量の甘味を買ってこようとは想像もしていませんでした!!」
そう言って破顔した杏寿郎に、琴音の父もつられて小さく笑みをこぼす。
「杏寿郎君のご家族は、琴音を本当の家族のように迎えてくれていたんだね……甘いものに大喜びする琴音が目に浮かぶ様だよ」
「はい!!実際、飛んで喜ぶ琴音に〝怪我人は安静にせんか〟と父からお叱りを受けていました!!」
その言葉に、嬉しそうに彼が目を細めていれば、家の方から此方へと歩いてくる足音が聞こえて、二人は其方へと振り返った。
「あ!二人ともこんな所にいたっ!!」
そんな二人の元へニコニコと笑みを浮かべて駆け寄ってきた琴音は、夕飯の用意が出来たと口を開いた。
それに上機嫌で杏寿郎が頷くものだから、琴音は不思議そうに首を傾げた。
「二人して何の話をしていたんです?」
「うむ!お義父様に琴音がどれだけ甘いものに目がないか、という話をしていてな!!」
「……へ?」
「ああ、琴音のスイーツ好きには困ったものだと話していた所さ。……あまり食べすぎると、また母さんに叱られてしまうぞ?」
そんな返事が返ってくるとは思いもしなかった琴音は一瞬キョトンとした顔で二人を見つめた後、真っ赤な顔で呟いた。
「もう二人して……揶揄わないでよ」
それを聞いた二人は思わず顔を見合わせて、どちらともなく楽しそうに笑い声をあげるのだった。
******
すっかり日も暮れて、
時刻は丁度20時を少し過ぎたころ。
無事に琴音の両親への挨拶を終えた二人は、漸く煉獄家へと帰路についていた。
「杏寿郎さん、今日は本当にありがとうございました」
そう言って琴音は運転席に座る杏寿郎の横顔を眺めながら、嬉しそうに目を細めた。
「両親も、弟もとても喜んでいました」
「いや、俺の方こそ琴音のご家族との話がとても楽しくてな!!実に有意義な時間を過ごさせて頂いた!!それに、琴音とお義母様が作ってくれた夕食もとても美味かった!!」
「それは良かったです。実は料理をしながら母に杏寿郎さんはよく食べると伝えていたんですが、杏寿郎さんがあまりにも美味しそうにいっぱい食べるから、……みんな驚いて固まっていましたね!!」
「ハハハッ、それは申し訳ないことをした。だがあれでも少しは押さえたつもりだったのだが……あまりの美味しさに、気づけば箸が中々止まらず苦労した!!」
「ふふふっ、もう!杏寿郎さんたらっ」
そう言ってクスクスと笑みを浮かべた琴音に、杏寿郎も豪快に笑い声をあげた。
「それにしても、優斗君は思い描いていた青年とは少し違っていた!もう少し……お義父様のようなおおらかな性格かと思っていたが…」
「優斗は明らかに母さん似ですよ。いつだって優斗には、口喧嘩では勝てないんです。とっても口が達者で……」
そう言ってぶつぶつと恨み言を呟く琴音だったが、実際の彼女はその逆で……
弟が可愛くて可愛くて仕方がない様子で、ニコニコと大学生活はどうか尋ねたり、甲斐甲斐しく食事を取り分けてやったりしていた。きっと昔出来なかった事をしてやれるのが余程嬉しいのだろう。
まあ、些か構いすぎな気もしなくもないが……
それに、なんだかんだと琴音を揶揄っていた彼も、姉に世話を焼かれるのを満更でもなさそうにしていたのだから、微笑ましい光景である。
〝姉弟、仲がいいに越した事はないからな!!〟
杏寿郎はつい先程、家を出る間際まで仲良さそうに会話をしていた二人を思い出し口角を上げた。
杏寿郎がそんな事を考えていれば、ふと琴音が疑問を口にする。
「……そういえば父さんとは、本当に何を話していたんですか?二人で出て行ったと思ったら、中々帰って来ないんだもの……あれから杏寿郎さんも随分機嫌が良かったですし」
じーっと杏寿郎の横顔を見つめながら、琴音が返事を待っていれば、ん?と、とぼけた表情を浮かべた杏寿郎が口を開く。
「そうだな……色々と話はしたが、強いて言えば琴音の思い出話を聞かせて貰っていた!」
「思い出……、話?」
「うむ!琴音の話をするお義父様はとても幸せそうだった!!」
「そう、ですか……」
「ああ!それにとても素敵な人だった!!」
「ふふ、ありがとうございます。」
自慢の父を褒められて嬉しそうに目を細めた琴音を横目でチラリと確認した杏寿郎は、ふっと小さく笑みを落とした。
彼が琴音を思うように、琴音も父を大切に思っている事を知っている。それ故に、記憶を持ち合わせている事をお互いに秘密とし、貫いていることも。
自分が発した言葉がきっかけで、家族に鬼に殺された記憶が戻るのが怖いと話していた琴音も
人に手を差し伸べられる人になって欲しい、と……その自分の一言が琴音に刀を握る選択をさせたと悔やみ、それを打ち明けられない彼女の父も
互いを思う故の不器用すぎる二人の優しさに、杏寿郎は小さく息を吐く。
「……琴音はお義父様にそっくりだな」
「そう、でしょうか?……今まで母に似ていると言われてきたので」
キョトンとしながら首を傾げた琴音に、杏寿郎はクスリと笑みを落とす。
「そうだな!!お義母様にもそっくりだった!!」
「へ?」
「ハハハッ、親子とはやはり似るものなのだな!!」
琴音の家族を思い浮かべて……
彼女が素敵な家族に囲まれて、今世では幸せに暮らしてきた事を知り、杏寿郎は嬉しそうに微笑んだ。
「何言ってるんですか……杏寿郎さんの方こそ、お義父様にもそっくりでお義母様にもそっくりですよ?」
そんな彼に、琴音も負けじと口を開くものだから、杏寿郎は思わず吹き出して豪快に笑い声を上げるのだった。