第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏休みが始まり二週間が経過したある日ーー。
杏寿郎はビシッとスーツに身を包み、琴音の実家へと訪れていた。
「琴音、どこかおかしな所は無いだろうか?」
「ふふっ、いいえ?杏寿郎さんは相変わらず素敵ですよ」
普段は堂々としている彼が、玄関前でキョロキョロと自身の服装をチェックしている姿に、琴音はクスクスと笑みを漏らした。
「むう、笑わないでくれ! 琴音のご両親に今から会うと思うとな。……柄にもなく緊張している」
……不甲斐ない。そう言って困ったように頬をポリポリと掻いた杏寿郎に、琴音も困ったように眉を下げた。
「あはは、……なんだか私も緊張してきました」
そう一言呟いて、ふうと小さく息を吐いた琴音は、インターフォンにゆっくりと手を伸ばした。
******
カチャカチャとティーカップの音を響かせながら、忙しなくコーヒーの準備をする母親に琴音はそっと近づいた。
「お母さん、私も手伝うよ」
「あら、そう?ならこれを机に運んでくれる?」
そう言ってにこにこと笑った琴音の母は、琴音達が持ち寄ったケーキをお盆へと乗せていく。それから父と向かい合って座る杏寿郎へと視線を移し、声をかけた。
「杏寿郎君はコーヒーにミルクは入れるかしら?」
「いや、…俺はブラックで大丈夫です!!」
カッと目を見開いてハキハキと返事を返す彼に、琴音の母はクスリと笑みを浮かべた。
「甘党の琴音と違って、杏寿郎君は大人なのね?」
「もう、お母さん!!」
母の言葉に頬を染めながらも楽しそうにしている琴音に、杏寿郎は嬉しそうに目を細めた。
そんな彼にふっと小さく笑みを溢した父は、杏寿郎に向かって口を開いた。
「杏寿郎君、今日はわざわざ家まで足を運んでくれてありがとう。私はどうも堅苦しいのが苦手でね……あんまり気負わず、のんびりして行って貰えると嬉しいんだが」
そう言って眉を下げた琴音の父に、杏寿郎の口角も自然と上がっていく。
昔、それこそ琴音が継ぐ子になった頃ーー。
彼女からご両親の話を聞いた事があった。
『私には人を救ってきた自慢の両親です。最後まで誰かのために迷わなかった父も、私達兄弟を守った母も、私の憧れです。』
亡くなった両親を思い、目を伏せていたあの頃の琴音が………
今は杏寿郎が想像していたよりも、ずっと穏やかで温かい家族の元で、幸せに育ってきたのだ。
その事が、杏寿郎は堪らなく嬉しかった。
杏寿郎はハハッと笑顔を浮かべ、琴音の父に頭を下げた。
「お気遣いありがとうございます……実はお恥ずかしい話、此処に来るまで柄にもなく緊張していました」
そんな二人の元に、ティータイムの準備を済ませた琴音と母も姿を見せた。
それを視界に捉えた杏寿郎は、そのまま言葉を続けていく。
「ですが、琴音がこんなに嬉しそうに笑っているのを見ていたら、此方まで晴朗な気分になりました!!……素敵なご両親の元で育ったからこそ、彼女は人の心に寄り添える、優しい女性になったのでしょう!!」
それに三人はキョトンと驚いた顔をするものだから、杏寿郎は高らかに笑い声を上げた。
最初こそぎこちなかった杏寿郎だが、本来の調子を取り戻した彼は、よく笑いイキイキとしていた。
「まあ!それじゃあ、杏寿郎君は琴音と同じ学校の先生なの?」
「うむ、歴史を担当しています!!」
杏寿郎のその裏表のない性格に、すぐに琴音の両親も気を許し、和気藹々と雑談に花を咲かせていた。
因みに、そんな杏寿郎は現在、琴音の母から質問責めにあっている。
「そうだったの〜!……あれ?でも琴音は最近学校が変わったって言っていたから……出会いは最近なのかしら?」
「いえ、昔からの知り合い……とでも言えばいいだろうか「もう!お母さんそれくらいにしてよっ!」
恋バナに浮かれる学生じゃないんだから!!と顔を真っ赤にさせた琴音に、母はふふっと可愛らしく首を傾けた。
「だって琴音が男の子を連れてくるなんて初めてなんだもの!!それにとっても好青年!!」
「ハハハ!お義母様のお話は実に面白い!!」
「まあ!貴方、聞きました?お義母様ですって!!」
きゃっきゃっ、とはしゃぐ母の姿に、振り回されてばかりの琴音だが、杏寿郎は一人納得したように笑みを浮かべた。
あの頃、酒に溺れた父を相手に、彼女は全く怯みもしなかった。それどころか、そんな父を追い回し、毎日たわいも無い言葉をかけ続けていたが……
成る程!母親譲りの明るさだったか!!
ふむふむと、腕を組んで頷く杏寿郎に、今度は琴音の父から声がかかる。
「母さん、少しは落ち着かないか……すまないね、杏寿郎君。あまりに賑やかで驚いただろう?」
それに杏寿郎がいえ、と返事を返せば、よかったら晩御飯も食べて行かないか?」と父に聞かれた杏寿郎は、満面の笑みで頷くのだった。