番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「伊黒さん、お待たせしちゃったかしら?」
「いや、俺も今来たところだ」
今日は久しぶりに甘露寺と二人で甘味処へ行く約束をしていた伊黒は、駆け足で近寄ってきた可愛らしい彼女の姿に目を細めた。
彼らはたまにこうして、約束を取りつけては一緒に甘味処へと足を運ぶ仲であり、伊黒は甘露寺に対して密かに恋心を抱いている。
勿論お互い柱である彼らは、日夜各地を駆けまわっている為頻繁に会う事は叶わない。
だが時たまこうして、彼らの任務地が近かったり、非番が重なったりすると、決まって伊黒から彼女を食事へと誘うのだ。
それは一重に彼の努力の賜物だとも言える。
甘露寺と頻繁に手紙のやり取りを交わし、それとなく人気の甘味処を調べておく。
時には同じ任務に就いた隊士や隠に詰め寄り、何処かいい店はないか?と脅し紛いの情報収集も行っているのだ。
それを知る者は少ないが、その努力というか……精神力というか……彼女への想いは並々ならぬ物があるのだろう。
それでいて伊黒は少食で、自分は何も口にせず彼女が美味しそうに食べるのをただ眺めているだけなのだから、なんとも健気なものである。
だがたわいもない話や、嬉しそうに笑う甘露寺の笑顔を見るだけで、彼の心は満たされて行く。
彼は甘露寺の為であれば、どんな努力も厭わないのだ。
そんな伊黒が今回甘露寺と訪れたのは、最近出来たばかりの人気の団子屋だ。
隣を見れば店に入る前から、嬉しそうに笑顔を浮かべる甘露寺の姿が目に入り、伊黒も思わず笑みを溢す。
彼は上機嫌で店の中へと足を踏み入れた。
******
「いらっしゃいませ!」
店の中へ入れば慌ただしくバタバタと動き回る店の娘が声をかけた。
なるほど、さすがは人気店。
店員も大忙しだな、と伊黒があたりを見渡せば、見覚えのある髪色が目に入る。
「さぁ、どれでも好きなものから食べるといい!!」
「わぁ、師範っ!!こんなに沢山〜、幸せです〜」
見るからに馬鹿そうな……腑抜けた笑顔を浮かべる少女に、同僚の煉獄は嬉しそうに声を掛けていた。
まさかこの店で出会うとは……
折角の甘露寺との時間をコイツらに邪魔される訳にはいかない、と煉獄達がいる席から一番離れた席へと伊黒が足を進めた、その時
「煉獄さん達も来ていたんですか〜?」
「おお!!甘露寺じゃないか!!」
「わぁっ!蜜璃ちゃん、久しぶり〜!!」
甘露寺が彼らに声をかけていた。
奇遇ですね〜なんて、笑いかける甘露寺の姿に〝誰にでも分け隔てなく接するところが彼女の魅力だったな〟と伊黒は人知れずため息を落とした。
そして仕方なく其方へと足を進めれば、此方に気づいた煉獄が彼に向かって口を開いた。
「なんだ、伊黒も一緒ではないか!奇遇だな!!」
「……ああ」
そこで改めて机を見ればこれでもかという程の量の甘味が並んでおり、伊黒は思わず口元を引き攣らせた。
「よかったら君達も一緒にどうだ!?」
「いや、遠慮「ええ〜!いいんですか!!皆で食べるご飯は美味しいわよね〜?良かったね、伊黒さん!!」
伊黒が断りを入れる前に、被せるように声を発した甘露寺により、なんだか一緒に食事をしなければいけない流れになってしまった。
なんとも言えない表情で、伊黒が煉獄を見つめれば
「遠慮はいらない、此処は俺の奢りだ!!」
と声をかけられ、ますます断りづらくなる。横を見れば、もう甘露寺は煉獄の前へと腰を下ろしている為、ため息を一つ落とし彼もその隣へと腰を下ろした。
すると、目の前に座っている先程の少女と視線がかち合い、少女は遠慮がちに口を開いた。
「えっと……蛇柱様ですよね?あのっ、はじめまして!私、春野 琴音と申します。宜しくお願いします」
「伊黒!彼女は俺の自慢の継ぐ子だ!!よろしく頼む!!」
なんとも頭の悪そうな奴だと思っていれば、コイツが煉獄の継ぐ子……甘露寺が最近仲良くなったと言っていた春野 琴音か。
そう瞬時に理解した伊黒は、思わず少女を睨みつる。
なんでも今度パンケーキを食べに行く約束をしたとか何とか……
伊黒は目の前の少女を〝自分達の仲を邪魔する存在〟として認識した。
そんな伊黒だったのだが……
目の前の二人を観察していてある事に気がついた。
甘露寺に負けず劣らず大食いのあの煉獄が、甘味には一切手をつけず、少女が甘味を口に運ぶのを嬉しそうに見ているだけなのだ。
時折「うまいか!?」とか「琴音、こっちも美味そうだぞ!!」と少女に声をかける以外は、それはそれは嬉しそうにニコニコと笑っている。
……ただ口に餡子をつけた少女に、何の躊躇もせず手を伸ばし、その餡子を自分の口に入れる辺り
継ぐ子との距離感がおかしい気もするが……
そんな煉獄の姿に呆れつつ、自分の隣に目をやれば
幸せそうに頬を緩ませ、桜餅に夢中な甘露寺の姿に自然と口元は弧を描く。
〝結局俺も煉獄と同じか……〟
なんとなく少女への煉獄の思いに勘づいた伊黒は、小さくため息を漏らしながら、その状況を静かに見守りつづけるのだった。