番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「愼寿郎様〜。お酒を飲むなら、私が話の相手になりますよ〜?」
そう言ってにこりと笑いかける少女に、愼寿郎はもう何度目か分からないため息を漏らした。
******
杏寿郎が継ぐ子にすると連れてきた少女。
最初こそ、琴音の生意気な態度に苛立ちを募らせたりもしていたが、
口を開けば此方を気遣う事ばかり言う琴音に、口を開くことを諦めたのは、出会ってすぐの事だったと思う。
だがそんな少女のお節介のおかげで、距離が空いていた息子達と言葉を交わせるようになったのだから、琴音には感謝してもし足りない。
しかしここ最近、愼寿郎には頭を悩ませている事が一つある。
琴音は事あるごとに「愼寿郎様〜」と呼びつけては、息子達との関わりを作ってくれていた。
千寿郎に稽古をつけたり、
杏寿郎と一緒に任務の報告に来たり。
未だに少しぎこちなさの残る息子達とのやり取りに、琴音がさり気なく間を取り持ってくれるおかげで、少しずつではあるが〝父親として息子達にしてやれる事〟が増えてきたように思う。
勿論、それに悩んでいるわけではないし、それ自体はとても喜ばしい事である。
いつからかは分からないが、父親を幼い頃に亡くしたと言っていた琴音が、自身に父親の影を重ねていることに気がついた。
最初はなんてことない行いだった。
以前少女が、父親に頭を撫でて貰うのが好きだったと話していた事を思い出し、ほんの出来心でぽんぽんと頭を撫でてやったのが始まりだった。
当時の自分は、嬉しそうに顔を綻ばせた少女が年相応の娘に見えて
〝娘がいればこんな感じだったのだろうな〟
なんて呑気に考えていたのだが。
その頃から、やたらと少女に懐かれ出した気がしている。
お酒が呑めるようになったら一番に相手をする約束もさせられたし、
息子の喜ぶものはなんだ、好きな食べ物はなんだと何故か私に聞きにやってくる。
愚痴や、嬉しかった事などの世間話や、
最近では少しずつではあるが弱音を口にしたりと……
自分で言うのも何だが、こんな無愛想な私なんかに偉く懐いたものだと思う。
別にそれに関しても、何故自分なんかに…?と戸惑いはあるものの、生意気な態度だった頃の彼女を思えば、随分と可愛らしくなったなと思うし
……悪い気はしていない。
しかし問題は……
「父上!少し宜しいでしょうか!?」
この息子。
煉獄家の長男、杏寿郎である。
自分が塞ぎ込んでいる間も心折れる事なく、立派に弟を支え続けた杏寿郎は、三巻しかない指南書だけで、柱にまで上り詰めた。
少しずつ会話をするようになってからは、嬉しそうに任務の報告をする杏寿郎に、知らぬ間に立派な柱になったものだと感心する日々を過ごしている。
だがそんな自慢の息子も、この娘の事となるといつもの堂々とした表情が一変してしまう。
私や千寿郎と彼女が楽しげに話していれば、こうして話を遮ってきたり、少女を甘味処へと連れ出してしまったり。
父親だからと言う訳ではないが、息子の思いは此方に筒抜けなのである。
……いや、きっと誰がどう見ても分かるだろうあからさまな態度に、何故か当の本人だけが気付いていないのだ。
きっと今だって大した用がある訳ではないが、少女を私に取られまいと杏寿郎は声をかけたのだろう。
〝そんなに大切なら、想いを伝えればいいものを〟
誰に似たのか、肝心なところで口下手になってしまう息子の姿に、小さくため息を吐いてしまう。
少女に慕われれば、息子から妬まれる……
おまけに〝殺気まがいの嫉妬の目〟もついてくる……
少女が息子の思いに気づくまでは、これが一生続くのだろうな……
愼寿郎はまた一つ、大きなため息を落とすのだった。