第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なんだコイツ〜と呟いて顔を顰めた天元に、
「スゲ〜、見たかよ!?睨んだだけで気絶させたぜ?」
「さすが輩先生っ!!怖ェ〜ッ!!」
ギャハハ、と囃し立てる声がかかる。
そこで漸く杏寿郎と琴音の二人は、部活終わりの生徒達に囲まれていた事に気がついた。
琴音達が揉めていたのは、学園の校門前なのだから当然と言えば当然なのだが、男の言動に気を取られて二人は全く周りが見えていなかったのだ。
生徒達に至っては、部活の終わりを告げてから何処かへと電話をかけだした顧問が、その電話を切るなり慌てて体育館を飛び出して行ってしまったのだ。
どうかしたのだろうか、と首を傾げるのも当たり前である。
そんな先生の様子を口々に心配しながら体育館を後にすれば、その杏寿郎が校門前で琴音を守るように男と揉めているではないか。
そんな状況を目撃した生徒達は、先程の杏寿郎同様に慌てて校舎へと助けを呼びに駆け出すのだった。
「宇髄先生っ!!琴音先生がっ、……煉獄先生が大変なんです!!」
「あ?琴音と煉獄ぅ?」
「いいから!!早く来てくださいっ!!」
「おいおい、引っ張るなっつーの」
と、そこに
因みに何故天元が休日の校舎にいたのか、その理由は至って簡単である。
昨日、天元は例の〝芸術は爆発だー!〟を炸裂させて、ドッカンと美術室を吹き飛ばしていた。
そんな美術室に珍しく訪れたお館様改め理事長様が、ド派手に穴が空いた壁を眺めながら言ったのだ。
『ははっ、さすがは天元だ。君の芸術的センスには目を見張るものがあるね。……しかし、梅雨時期に壁を吹き飛ばすのは如何なものだろう。近年はゲリラ豪雨の被害も各地で猛威を振るっているみたいだしね?』
そう言って笑った理事長に、天元は力なく頷いたのだ。
……雨対策は任せてください、と。
そして、渋々近くのホームセンターで材料を揃えた天元は、休日の校舎へと訪れて美術室をド派手にブルーシートで覆っていた……という訳だ。
******
そんなこんなで、杏寿郎とストーカー男の仲裁に入った天元は、機嫌悪そうに大声を上げた。
「うっせーわ!!見せもんじゃねェーぞ!!」
野次馬と化していた生徒達に口を開いた天元は、シッシッと犬でも追い払うように生徒達をあしらって、徐に電話をかけだした。
話の内容からして、どうやら状況を察して警察に連絡をしてくれているようだったが、琴音は不思議そうに首を傾げた。
〝……というか、そもそもなんでこの人いるんだろう〟
琴音がそんな事を思いながら見つめていれば、電話をかけ終わった彼に杏寿郎は「すまないな!!」と声をかけていた。
「あ〜、まあ大したことじゃねェ〜よ……ったく!琴音に付き纏ってたのは、こんな親父かよ!!」
「ああ。元同僚の男だそうだ」
「元同僚?……例のセクハラ野郎か?」
そう言って会話を繰り出す二人に琴音が、情けない声で呟いた。
「あ、あの……杏寿郎さんも、天元さんも、ご迷惑をおかけしましたっ」
「あ?こんぐらい大した事じゃ 「全く……琴音は何を考えているんだ!!」
天元の言葉を遮り大声を上げた杏寿郎に、琴音はピクリと動きを止めた。
今回は言いつけを破った自分が悪いのだ。
杏寿郎がギリギリで駆けつけたからこそ何も事は起きなかったが、もしも彼がいなければ……今頃どうなっていたかも分からない。
それを理解しているからこそ琴音は、申し訳なさそうにシュンと肩を下げるのだった。
「何故迎えを呼ばなかった!!何故助けを求めなかった!!あのまま俺が来なければ、どうするつもりだったんだ!!」
「ご、ごめんなさい……」
「挙句に、相手に喧嘩をふっかけるなど……」
そう言って琴音に手を伸ばした杏寿郎は、彼女を腕の中に抱きしめた。そして琴音の肩に額をつけて力ない声で呟いた。
「……心臓が止まるかと思ったぞ。あまり無茶をしないでくれ」
「………ごめんっ、な、さい……っ、」
胸が締め付けられるような感覚に思わず泣きそうになった琴音も、ぎゅっと杏寿郎の背に腕を回せば、それまでじっと黙っていた天元が呆れたように呟いた。
「………イチャつくなら他でやってくれ……なんだか、どっと疲れたわ」
******
暫くすると警察が現場へと駆けつけて、男は呆気なく連行されて行った。
それに伴い琴音と杏寿郎も事情聴取の為、警察署への同行を求められた。
相手に100パーセント非があるとしても、杏寿郎は相手に怪我を負わせてしまっている為、彼が何かの罪に問われないかと、琴音は心配していてオロオロとしていたが、
元々琴音がストーカーの被害を相談していたことや、男が殴りかかったのを止めた際の怪我という事を琴音が必死に訴えた為、杏寿郎にはお咎めはなしとなった。
後にお巡りさんから聞いた話だが、ストーカー男は取調べで琴音に出会った当初からのストーカー行為を認めたらしい。
なんでも〝出会ったその日に運命を感じた〟とかなんとか……要は、一目惚れをしたという事だ。
その後は食事に誘ったりと直接行動に移してはみたものの、なかなかガードの硬い琴音の様子に痺れを切らし、盗撮等のストーカー行為に発展してしまったらしい。
まあ、何とも迷惑な話ではあるが……
脅されただけで気絶するような彼なのだから、きっと今頃、琴音に恋心を抱いた事を猛省しているに違いない。
******
それから漸く煉獄家へと帰り着いた琴音を待ち受けていたのは、愼寿郎や瑠火だけでなく千寿郎までもが加わった、厳しいお説教だった。
普段口数の多くない愼寿郎からは〝考えが足りない……無茶だ、無謀だ〟と、何とも手厳しい小言を言われ、
瑠火からは私達では頼りになりませんか?と一言。
更には顔を真っ赤にさせながら、琴音さんは昔からいつもそうです!何でも一人で背負い込んで!!と千寿郎に泣き付かれ、琴音は心底困り果てた。
いつもなら琴音をさり気なく助けてくれる杏寿郎も、うむうむと頷いているだけなのだから、
「すみません……ご心配をおかけしましたっ」
琴音は、ひたすら謝り倒すほかなかった。
******
それから数日。
「俺だって琴音先生、助けたかったな〜……〝彼女に手を出すな!〟とか言ってみてェ〜!そしたら、俺にもチャンスがあったかもしんね〜!!」
「ぶふぉっ、ハハハ……馬鹿だな〜?お前には無理に決まってんじゃん!!」
「何でだよ〜、ふざっけんな〜!コラ〜!!」
あの現場に居合わせた数名の生徒達から噂が広がり、思春期真っ只中の生徒達の間で持ちきりの話題となっていた。
そして噂とは、人伝に伝わるうちに話が大きくなっていくものである。今回の噂も例外ではなく事実より盛られた話が生徒達の間に駆け巡っていた。
例えば琴音を付け回していたストーカーに、煉獄が綺麗な投げ技を決めたとか……
琴音がストーカーの目の前で、煉獄への愛の告白をしただとか……
それに感動した煉獄がストーカーに見せつけるように、琴音を抱きしめて見せたとか……
〝なんで、そんな話になっちゃったのよ〜〟
ギャハハと高笑いをする数人の生徒達の声を聞きながら、琴音は小さくため息を漏らすのだった。
だが実際は、男を投げ飛ばしたのはセクハラを受けていた当時の琴音……、という事以外は彼女が思うほど事実とは相違はないのだが
その噂には続きがある。
「ああ、その話知ってる〜!天元先生がストーカーをボコボコにしたやつでしょ?」
「え?違う、違うっ!!天元先生がダイナマイト投げつけたんじゃなかった?」
「何それ!?やばいじゃん!!さすが輩先生〜」
と、まあ……
何故か噂の一番の被害者は、たまたまその場に居合わせた天元なのだが。
そんな彼は、何処か誇らしげに