第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学校を目前にしてピタリと足を止めた琴音に、男は息を切らしながらもニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「あんな髪色で教師とはな……琴音ちゃんも男を見る目がないな」
小馬鹿にしたような声に、琴音は思わず振り返る。
「……あんな男?」
先程まであんなに怖くて仕方なかったはずなのに、自分だけでなく杏寿郎をも馬鹿にし始めた目の前の男に、知らずと怒りが募っていく。
気づけば逃げることすら頭の片隅から抜け落ちていて、琴音はキッと男を睨みつけた。
「貴方に杏寿郎さんの何が分かるの?杏寿郎さんの事を悪く言わないでっ!!」
ムキになって声を荒げた琴音を嘲笑うかのように男は言葉を続けていく。
「だってそうだろう?あんな派手な見た目で教師だなんて……どうせ女にモテたいとかそんな理由で、教師になったに決まってる。その証拠に、もう琴音ちゃんを家に連れ込んでいるじゃないか。」
「違う!!杏寿郎さんを頼ったのは私なの!!」
「ははっ、成る程な。そういう奴ほど、人の弱みに付け込むのがうまいんだ」
「違っ、!そんな人じゃない。杏寿郎さんは私を暗闇の中から助けてくれた、、、太陽みたいに明るく照らしてくれた人なの!!………そもそも、貴方が付き纏うからこんな事になったんじゃない!!」
「それは、あの男が俺たちの仲を引き裂こうとするからだろう。」
そう言い放つ男からも自然と笑みが消えていた。
杏寿郎の為に必死になる琴音の姿に、段々と言葉も冷たくなっていく。
「君があの男に一時の感情を抱いたことは……仕方ない、今回だけは許してあげるよ。……そうだ、父に言って学校にも復職できるように促してあげよう」
そう言いながら手を伸ばした男は、気づけば琴音の目の前まで迫っていた。
ゆっくりと近づいてくるその腕を、他人事のように呆然と眺めていれば、後方から自分の名を呼ぶ焦ったような杏寿郎の声が聞こえてきた。
だが、そんな彼の声とは裏腹に琴音は不思議なくらいに冷静だった。いや、怒りで正常な判断が出来ていないだけなのかもしれない。
それくらい、自分でも驚くほどに淡々と、目の前の男へと言葉を言い放つ。
「私が好きなのは杏寿郎さんで、貴方じゃない!!……だから、これ以上私に付き纏わないで下さい。正直言って迷惑です」
そう伝えた瞬間だった。
「何が杏寿郎さんだ……何が、迷惑だって?」
その言葉にプルプルと震え出した男は、琴音へと伸ばしていた手を固く握りしめ
「……顔が可愛いいからって調子に乗るなよ!!」
あろう事か、琴音の顔面めがけて拳を振り下ろした。
それには琴音も思わず目をつぶり、これから訪れる痛みを想像し、身構えた
………のだが、突然後方に引っ張られバランスを崩した琴音の体は、ポフっと何かにぶつかった。
「何をしている!!」
不意に頭上から聞こえた声に、琴音がゆっくりと顔を上げれば、杏寿郎に片手で抱きとめられている事に気がついた。
「……彼女に何をしている、と聞いたんだ」
そんな琴音をぎゅっと力強く抱きしめた杏寿郎は、もう一度静かに男に問いかけた。
「何って、……何もしていないけど?」
「……君が彼女に好意を抱いているのは分かっている!!だが、これ以上琴音に付き纏うのはやめて頂きたい!!」
「付き纏う?……お前こそ、俺より後にポッと出てきた癖に、琴音ちゃんにちょっかいかけないで貰えない?」
杏寿郎の問いかけに苛立ったように声を荒げた男は、此方を睨みつけた後怪しく微笑み口を開いた。
「どうせ琴音ちゃんの体が目的なんだろ?」
「そんな訳ないじゃ「こら、相手を煽るんじゃない」
だが、それにすかさず声を上げたのは琴音だった。明らかに相手に喧嘩を売る琴音の言動に、杏寿郎は慌てて彼女の口を手で塞ぐが、そんな状態でも琴音は男を睨みつけた。
そんな彼女に向かって、
「琴音ちゃんは俺の理想の女性だよ……」
そう言って再び口を開いた男は、その目を見つめて微笑んだ。
「男ならそうだろう?琴音ちゃんの顔に、体に惹かれたんだよな?俺にも、その気持ちは分かるよ…… 琴音ちゃんなら顔だけでオカズになるもんな?」
「なっ、!?彼女をそんな目で見ないでくれ!!」
その一言に、顔を青褪めた琴音を自分の背中へと隠した杏寿郎は、男に向かって声を荒げた。
そんな杏寿郎にお前だってそうだろう?と男が再び畳み掛ければ、杏寿郎は徐に口を開いた。
「確かに彼女はとても可愛らしい女性だ。その声で名前を呼ばれれば胸踊るし、その愛らしい笑みを見ているだけで此方まで幸せな気持ちになってくる」
「やっぱりそう「だが!!」
ほら言わんこっちゃない、と男が声を弾ませた瞬間、杏寿郎がその言葉を遮って再び言葉を落として行く。
「彼女を愛おしく想う理由はそれだけではない……内面こそが琴音の最大の魅力だ。悩んでいる者が……蹲っている者がいれば優しく寄り添い手を伸ばしてやれる、素敵な女性だ。人は外見だけが全てではない!!」
「優しく寄り添う?内面?……ははっ、笑わせないでくれ。俺を投げ飛ばした女だぞ?」
「それに関しては琴音から色々と聞いているが、今更とやかく言う事はしないでおこう……ただ同じ教育者として、これだけは言っておきたい。……女性を蔑んだ目で見るのはやめた方がいい。真正面から相手と向き合い、思いやる心を学び直した方がいいだろう!!」
「なっ、んだと……黙って聞いていればいい気になって!!年下のお前にとやかく言われる筋合いもないし、俺が先に琴音ちゃんに目をつけていたんだ。お前に譲る義理もない!!」
そう言って顔を赤らめた男はわなわなと拳を握りしめ、今度は杏寿郎めがけて殴りかかった。
だが、普段から剣道で鍛え抜かれた杏寿郎は、なんなくその拳を受け止めた。
「自分の意見が通らないからと実力行使で来るとは……言語道断だ!!」
そしてその腕を男の頭上へとねじ上げれば、ボキッという音が鳴り響き、男はたまらず呻き声を漏らした。
「ぐっ、……痛ェっ、」
「安心しろ。肩の関節が外れただけだ。だが……」
そう呟いた杏寿郎は男の胸ぐらをぐっと掴み、地を這うような低い声で囁いた。
「今度琴音に付き纏ってみろ……この腕を使い物にならなくしてやる」
「ヒィィィイッ……」
先程までの威勢は何処へやら。
男は恐怖に顔を歪ませて、なんとも情け無い叫び声を上げるのだった。
そうこうしていると、校舎の方から何故か天元が慌てた様子で走ってきて、杏寿郎と男を引き剥がした。
「おいおいっ、そこまでだ!!……ったく、煉獄、あんまり派手にあばれるんじゃねェよ!!」
「む……宇髄?」
そこで漸く離れた拘束に、男が顔を青褪めながら天元に向かって口を開いた。
「た、助けてくれっ……あの男に、暴力を振られて」
「あ"ぁ!!?」
だが、助けを求めた相手が悪かった。
2メートル近い長身で無駄に筋肉ムキムキな男に、杏寿郎よりも更にドスの効いた声で凄まれて……
男は呆気なく気絶した。
「……あ?なんだコイツ?」
心底興味なさそうに呟かれたその言葉に、杏寿郎は大きなため息を落とした。