第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
むふふ〜、と何とも幸せそうにデザートを頬張る琴音に、しのぶは呆れたように口を開いた。
「琴音は本当に甘いものに目がないですね……将来、糖尿病になっても知りませんよ?」
「………お母さんみたいな事言うの、やめてよ」
看護師でもある母親を思い浮かべ、口元を引き攣らせた琴音に、何故か同じような表情を浮かべた蜜璃がオロオロとしながら口を開く。
「だ、大丈夫よ!!ちゃんとご飯もしっかり食べれば、平気だと思うわ!!」
「うんうん、そうだよね!デザートには罪はないよね!!蜜璃ちゃんは分かってるな〜」
そう言って頷き合う二人の姿に、そんな訳ないじゃないですか……と、しのぶは一つため息を落とした。
「蜜璃ちゃんっ、蜜璃ちゃんっ!!このシフォンケーキすっごく美味しいよ!!一口食べる?」
「わぁ、ありがとう〜……」
だが、目の前の友人達はしのぶの小言もなんのその、デザートを嬉しそうに頬張っている。
「本当だわ!!とってもふわふわで美味しい〜!!私もシフォンケーキをお願いしちゃおうかしら〜?ついでに、モンブランとチーズケーキと……チョコレートケーキも」
「いいな〜私もいっぱい食べられたらな〜」
そう言って、目の前でケーキを口に運んでは、ふにゃふにゃと顔をとろけせている琴音の姿に、しのぶは呆れながら声をかけた。
「ところで、帰りは煉獄さんがまた迎えに来るんですか?」
「ん〜?そんな毎回一緒っていう訳じゃないよっ?杏寿郎さんだって忙しいんだから」
モグモグと口を動かしながら、呑気に返事をした琴音に「え?大丈夫なの?」とすかさず蜜璃が問いかければ、琴音は満面の笑みを浮かべて頷いた。
「ここからなら学校が近いから、帰りは私が迎えに行くの!!」
ふふん、と上機嫌で再びケーキを口へ運んだ琴音に、しのぶは小さく呟いた。
「結局、一緒に帰るんじゃないですか……」
******
女三人が集まれば、話題が尽きることもない。
ランチをするつもりで訪れた筈が、気づけば四時間近くも話し込んでしまっていた。
店からしてみれば傍迷惑な客……とも言い切れない。
滞在時間いっぱいまで、主に蜜璃が大量の料理を頼んだおかげできっと今日の売り上げはもの凄いだろう。
〝ケーキが美味しいって噂だったけど……あのお店にして正解だったな〜〟
そんな事を思いながら、琴音は学校へと上機嫌で向かっていた。今にも鼻歌を歌い出しそうなほど、ご機嫌である。
そんな彼女だが、実は杏寿郎から口煩く言われていたことがある。
「琴音、いくら近所だからといって、一人では絶対帰らないように!!もしも俺が間に合わないようであれば、家に連絡をするといい。千寿郎か父上が迎えに行ってくれる筈だ!!」
そう忠告されていた筈だったが……
わざわざ迎えを呼ぶなんて申し訳なさすぎる。それに学校までなら、10分もかからない距離なのだ。だったら逆に杏寿郎を迎え行ってびっくりさせてやろうと、琴音は怒られることなど考えもせずに学校へと歩みを進めていた。
幸い、時刻はもうすぐ17時。
杏寿郎が顧問を任されている剣道部は、丁度17時までの練習予定なのだ。
「ふふっ、杏寿郎さんビックリするかな〜」
そんな独り言を呟いた琴音だったが、それに返事をするように背後から突然声がかかった。
「琴音先生、偶然ですね?」
「っ、……ど、うしてっ」
振り返った琴音の先にいたのは、にやりと怪しく笑いかける元同僚の男だった。
「どうして、って……酷いなぁ〜琴音先生は。またねって約束、したでしょ?」
目を見開いて動きを止めた琴音に、笑みを深めた男は一歩、一歩と足を進める。
「琴音…先生?勝手にアパートを出て行くなんて、俺傷ついちゃったな〜」
「……っ、」
「いっぱい手紙届けた筈なのに、おかしいな……ねえ、琴音ちゃん?」
そう言って目の前に迫った男に、琴音は愕然と立ち尽くしていた。
逃げなきゃっ、早くっ、
頭ではそう思うのに、足が地にくっついたように動かない。恐怖で声も、上手く出ない。
スローモーションで自分に向かって伸びる腕を見つめていた時、
「〜〜♪」
琴音の携帯が鳴り響いた。
その瞬間ハッと我に返った琴音は、目の前の男を思いっきり突き飛ばし、
「痛っ!チッ、くそ……待てっ!」
背後も確認せず、学校に向かって走り出した。
スカートにヒールと、早く走るには向いてない格好で、それでも全力で校門を目指す。
この先の角を曲がれば、校門が見えるっ……
校舎に逃げ込めば大丈夫っ、……
恐怖で今にも震え出しそうな足に力を入れて、目前に迫った校門へと駆け込もうとした時だった。
「っ、あんなチャラついた男っ、遊ばれてるんじゃないっ…?」
はぁはぁ、と聞こえる荒い息遣いが近づいてくる。
ストーカーが真後ろまで迫ってきている。
そう分かっていながら、琴音は今度こそ足を止めて振り返った。