第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
天元の追及から逃げる様に学園を後にした琴音は、その足で自宅近くの交番へと足を運んでいた。
「………そうですか」
「すみません……此方も巡回には回ってみますので」
「いえ、そんなっ!……お手数おかけしますが、宜しくお願いします」
そう言って、警察官の男性に頭を下げた琴音は、とぼとぼと交番を後にするのだった。
******
当初、週末に警察へ相談に行こうと考えていた琴音だったのだが、あの封筒が届いてまだ三日しか経っていないにも関わらず、ストーカーと思われる被害は深刻化してきていた。
非通知からの着信は一日に10件以上かかってきているし、日に日にポストに入れられる写真の量も増えてきている。
そして、更に琴音の恐怖心を煽ったのは、その写真が最近のものだけではないと言う事だ。
分かる限りで言えば、ざっと一年ほど前……ロングだった髪をバッサリとボブスタイルにした時の写真も含まれていた。
それから、その写真に添えられている手紙の数々……
『愛してる』『君を幸せにするのは俺しかいない』『なんで俺を見てくれない』『あの男は君に相応しくない』『信じていたのに』『裏切られた』『許さない』
そんな短文の手紙が一日に何枚もポストに入れられているのだ。
もしかしたら見られているのかも……
今後ろを付けられているのかもしれない……
そう考えると怖くて仕方なくなってしまい、早々に手紙と写真を数枚手にし交番へと駆け込んだのだ。
だが、実際は〝相手が特定出来ていない以上、何もできない〟と言うことを、交番で説明を受けた。
ただやはり女性の一人暮らしで、怖い思いもしているだろうと、警察官の男性は見回りを強化するとは言ってくれたが……
はあ、と思わずため息を漏らしながら、琴音は家へと重い足取りで歩みを進めた。
******
だが、暫く歩いていると自分のヒールの音と、もう一つ、後ろから足音が聞こえて、琴音は思わず泣きそうになった。
交番で相談していた事もあり、時刻は20時と帰宅時間も遅くなってしまった為、人通りは全くない。
そんな状況が更に彼女の不安を煽り、走って家まで帰ろうかと、琴音が思い至ったところで
「あれ?琴音先生?」
突然、そう声をかけられて思わず琴音は振り返ってしまった。
「やっぱりそうだ。琴音先生、久しぶりですね?」
「新垣先生……」
ニタリと笑った男に、琴音は顔を青褪めた。
******
「いやぁ、偶然琴音先生に会えるなんて思わなかったよ?仕事帰りなのかな?」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくる男に、琴音は曖昧に返事を返す。
「……ええ、まぁ」
「ははっ、そんなに構えないでよ!ああ、こないだの事を気にしているなら大丈夫だよ?君が皆の前で恥ずかしかったのを理解していなかった俺が悪いんだから……勿論、もう許しているよ?」
そう言いながら距離を詰めてきた男は、以前琴音が勤務していた先で彼女にセクハラを働いていた元同僚だった。
「
「……だ、大丈夫です」
そんな男から発せられた言葉に、琴音は恐怖で顔を歪ませた。
……何故ここにいるのか、何故自宅を知っているのか、そんな思考が頭の中でグルグルと回り〝彼がストーカーではないか〟と言う最悪の結論を導き出した時、
彼は恐怖で固まる琴音へと、ゆっくりと手を伸ばしていた。
「琴音!!」
すると突然ここにいない筈の杏寿郎の声が響き、琴音は弾かれた様に振り返る。
「……なんでっ、」
此方に慌てて駆け寄ってくる彼を呆然と眺めていれば、琴音の後ろから男はそっと近づいて、彼女の耳元で囁いた。
「今日は邪魔が入っちゃったから、またね?」
そう一言呟いた男は、チラリと杏寿郎へ視線を向けると徐に駅の方角へと歩いていった。
それに振り返る事も出来ず、顔を青褪めたまま固まる琴音に、杏寿郎は駆け寄るなり声をかけた。
「琴音、先程の男性は知り合いか?」
「え、……あっ。……前の学校の…同僚の先生で……」
そう震える声で返した琴音に、杏寿郎は心配そうに眉を下げた。
「琴音の様子がおかしいと宇髄に言われてな。電話をかけたんだが繋がらないし」
「ご、ごめんなさい……電話は電源を切っていて」
「電源を?……心配になって家へ行けば、君はまだ帰って来ていない様だったから、探していたんだ」
「……そうでしたか。電話に気づいていれば良かったです、お手間を取らせてすみません」
そう言って無理に笑みを浮かべた琴音に、杏寿郎はそっと問いかける。
「琴音、何かあったのか?」
「……いえ、さっきは少し……お話していただけで」
「君は随分と怯えている様に見えたが」
「………それは、」
「それから琴音のアパートのポストに、封筒が溢れかえっていたが、あれは?」
「っ、……」
びくりと肩を震わせた琴音に、眉間に皺を寄せた杏寿郎は小さくため息を吐いた。
「宇髄に言われるまで気づかなかった俺が言える事でもないが……一人でなんでも抱え込むのは琴音の悪い癖だ。それとも、そんなに俺は信用がないのだろうか?」
杏寿郎の言葉にぶんぶんと首を横に振った琴音は、恐る恐る顔を上げた。
何度か口を開いては言うのを躊躇うような仕草を見せた琴音に、杏寿郎は優しく笑いかける。
「大丈夫だ、俺が守ると言っただろう?」
その一言に琴音は、次第に目を潤ませて震える声で呟いた。
「杏寿郎さん………助けてっ、」