第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「これって…、ストーカー……っ?」
床にぺたんと座り込み、呆然と写真を眺めていた琴音だったが、
ヴー、ヴー……
いきなり震え始めた自身の携帯にビクリと肩を震わせた。
恐る恐る鞄の中から取り出したそこには〝非通知〟からの着信が表示されていた。
「も、もしもし……?」
「…………プツッ。ツー、ツー……」
少し悩んだ末その電話に出てみると、相手は言葉を発する前に、通話を一方的に終わらせた。
それが更に琴音の恐怖心を煽り、彼女は顔を青褪めた。
しかし、すぐにハッと顔をあげ、慌ててカーテンを固く閉ざした。
〝この写真……これを入れた人物からの着信であれば、私が帰宅したタイミングを見計らい電話を寄越したのではないか……〟
そう思い至った琴音は、あまりの恐怖に思わず携帯に手を伸ばす。
着信履歴から杏寿郎の名前を震える手で探し出し、通話をかける寸前で
「っ、……」
先程の写真を思い出した。
杏寿郎の顔が切り刻まれたあの写真……あんな事をする人物なら、彼に危害を加えるのではないか。
そう思った瞬間、彼女はぎゅっと目を瞑った。
そして、ゆっくりと深呼吸を繰り返した琴音は、なんとか落ち着きを取り戻す。
〝……大丈夫。この写真を持って、週末に警察に行こう。それから、そう!引っ越し。うん、そうすればきっと大丈夫っ……〟
そう自分に言い聞かせ、琴音は散らばる写真に手を伸ばす。
その時……
ヴー、ヴー……
「っ…、」
またしても彼女の携帯が震え出す。
だが、そこに表示されていた見知った名前に琴音は、ほっと息を吐いた。
「………もしもし」
「あぁ、琴音ですか?今少しいいですか?」
「うん。大丈夫だけど……しのぶから電話なんて珍しいね。どうかしたの?」
そう言って話し始めた琴音は、親友に気づかれぬよう、普段通りを装って明るい声で返事を返した。
******
「……それで今日、甘露寺さんと久しぶりに話をしていたら、琴音に直接会ってお祝いを言いたいって言っていまして…… 琴音は今週末お忙しいですか?」
「………」
「琴音?聞いていますか?」
「……え?ああ、うん。聞いてる、聞いてる。……えっと、蜜璃ちゃんと久しぶりに会ったんだっけ?」
だが、やはり話は上の空で
「……… 琴音、どうかしたんですか?」
電話ごしですら、しのぶに怪しまれる始末である。
「あはは……ごめん、ごめん!休み明けで少し疲れちゃって……なんの話だっけ?」
「もう、しっかりして下さい……週末、もしも暇なら甘露寺さんとお茶でもしませんか?」
「えっと……週末ね!!うん、日曜日なら空いてるから、楽しみにしておくね!!」
そう言って、なんとかその場を取り繕った琴音は、
「うん、うん。分かった。はいはい……じゃあ、また明日ね!」
電話を切るなり大きなため息を一つ落とした。
******
翌日も、翌々日も、琴音はいつもより早い時間に出勤し、仕事はなるべく自宅へと持ち帰り、早々に帰宅するようにしていた。
普段の行動パターンを把握されているだろうと予想して、敢えてこの時間を心がけているのだが、
あの日以来、二日続けて大量の写真は届いているし、携帯にも度々非通知からの着信が来ている。
それに加えて早く帰るためにと仕事を持ち帰っているため、自宅で集中して仕事なんて出来るはずもなく琴音の睡眠時間は極端に減っていた。
「おいおい、琴音!!お前、今日も帰るのか?」
「………天元さん、すみません。えっと、その……アパートの管理人さんに……今週は早く帰るようにと、言われてまして……」
「あ?なんだそりゃぁ?」
自分でも、もっとマシな言い訳がなかったのかと琴音は思わず視線を泳がせたが、それ以上天元が突っ込んでくることもなかった為、早々にその会話を切り上げた。
「では、天元さん。お先に失礼しますね……お疲れ様でした」
そう言ってそそくさと職員室を後にした琴音の姿に、その場に居合わせた数名の教師は皆一様に首を傾けた。
「おい、……アイツはまた一人で、なんか悩んでんのかァ?」
「さあな?俺はなんも聞いてねェが……一丁前に、目の下に隈は作ってやがったな〜」
そう言って、眉間に皺を寄せながら実弥と天元が会話をしていれば、実弥の隣からも声が上がる。
「そういえば、しのぶも琴音ちゃんの様子が変だって言っていたわ。あの子ったら〝また一人で抱え込んで〟って拗ねていたのよ?」
そう言って眉を下げたカナエに、それまで黙々と作業をしていた伊黒はピタリと動きを止めて呆れたように呟いた。
「……お前たちがそこまで分かっているのに、煉獄は何故気づかないんだ?」
その一言に、皆一様にため息を吐いた。
「………アイツは今、浮かれてるからなァ」
「煉獄君、琴音ちゃんと婚約したのが、よっぽど嬉しかったのよ」
「……確かに、近頃の彼奴の行動は分かりやすいが」
そう言って実弥とカナエに加え、伊黒までもが苦笑いを浮かべれば、天元は再び大袈裟にため息を吐いて、徐に立ち上がる。
「んじゃまあ、ここは俺が人肌脱ぐかっ!!」
そのまま気怠そうに頭をガシガシと掻いた天元は
「脳内お祭り野郎に会いに行って来るわ!!」
そう一言言い残し、職員室の扉を開けて消えて行った。