第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
琴音が自分の席に座りながら、ミルクたっぷりの甘いカフェオレを飲んでいれば、職員室の扉が開き気怠そうな実弥が顔を出す。
そのままズカズカと歩みを進め、琴音の向かいの席にドカッと座った彼は、琴音に目を向け口を開いた。
「……相変わらず早いなァ」
「ふふっ。おはようございます。実弥さんは、なんだか眠そうですね?」
「ああ、まあなァ……玄弥が数学で赤点取りやがったからなァ……どうしたら分かりやすく伝えられるか考えてたら夜更かししちまってよォ」
そう言ってあくびを噛み殺した実弥に、琴音は自然と口角を上げた。
「いいなぁ、玄弥君。私も実弥さんみたいな素敵なお兄ちゃんが欲しかったです」
「あ?そんなんじゃねェよ」
照れ隠しに実弥が冷めた口ぶりで返せば、琴音はニコニコと笑みを浮かべた。そのまま上機嫌で再びカフェオレに口をつければ、実弥はじーっと琴音を見つめて、彼女に向かって問いかけた。
「随分とご機嫌じゃねェか。なんかあったのかァ?」
「っ、……ゲホッ、」
あまりに的確な質問に、琴音は思わずカフェオレを吹き出しそうになる。それを必死で飲み込んだ為、涙目になりながら噎せてしまった。ゲホッゴホッと咳き込む琴音に、実弥は思わず身を乗り出す。
「おいおい、大丈夫かァ?」
「………は、はい」
それになんとか琴音が返事を返せば、彼は再び椅子へと腰を下ろした。
そして呆れたように、……何やってんだァ、と笑った実弥は再び琴音に問いかけた。
「で?」
「……へ?」
カフェオレ片手にキョトンとなんとも気が抜けた表情を浮かべる琴音に、実弥は眉間に皺を寄せる。
「あァ?なんかあったんだろ?」
「えっ!?いや、あの……えーっと、なんかあったって言うか……」
今度は急に頬を赤らめ、ドギマギし出した琴音に、実弥は流石に首を傾げた。
再びどうかしたのか尋ねようとした実弥だったが、廊下から騒がしい笑い声が近付いてきている事に気付き、はぁ、と大きくため息を落とした。
******
「煉獄、今日は一段と派手じゃねェか!!そのネクタイはどうしたんだよ!!」
「うむ!琴音からの贈り物だ!!」
ガラッと開いた扉から、豪快に笑いながら顔を出した二人に、実弥は思わず声を荒げた。
「うるせェぞ!!学生でもあるまいし、廊下で騒ぐんじゃねェ!!」
いきなりかけられた声に、杏寿郎と天元は此方に目をやり動きを止めた。だが次の瞬間には、全く実弥の小言など気にも留めない杏寿郎が、にこりと微笑み口を開いた。
「おはよう!琴音!!不死川!!」
「……お、おはようございます」
「だァから、少しは声を抑えろやァ!!」
「ははは!!不死川は、今週も気合いが入っているな!!」
違ェわ!とツッコミをかます実弥を無視して、天元はニヤニヤと笑いながら、琴音の隣にやってきた。
「おい琴音、煉獄に随分派手な贈り物をしたんだってな!!煉獄のド派手な髪色に良くあってるじゃねェかっ!!」
そう言って揶揄うように琴音の肩に腕を回した天元は、目敏く彼女の右手の指輪に気づいて声を上げた。
「おいおい!どうしたんだよ、これは?」
「え、あはは……」
まさか速攻で気づかれると思っていなかった琴音は、恥ずかしそうに視線を泳がせる。その間に杏寿郎がズカズカと歩み寄り、ガバリと二人を引き離す。
そして飛びっきりの笑顔で言い放った。
「琴音にプロポーズをしたんだ!!琴音も了承してくれたから彼女は俺の婚約者だ!!」
杏寿郎は真っ赤になって固まる琴音の腰に手を回し、天元に向かって口を開く。
「宇髄には感謝しているが……それとこれは別だ!!これからは気安く彼女に触らないでくれ!!」
「きょ、杏寿郎さん……」
婚約した事は内々にしようと話していた筈の杏寿郎が、顔を合わせてものの数分で報告し出した事に琴音は困ったように眉を下げた。
だが、ここに居る同僚達は、皆彼らの関係を知っている為、さほど驚きはしないのだが……
その証拠に天元は「おーおー!お熱いこったー!!」とニヤニヤとした笑みを浮かべているし、実弥はチラリと琴音に目をやり「成る程なァ」と呟いた。その声に更に赤みを増した琴音が
「実弥さん、それ以上口にしないでください」
と小さく呟くものだから、実弥は思わず吹き出すのだった。
******
結局あの後職員が揃うと、朝一で杏寿郎が皆に報告を行った為、恥ずかしながら教師達の間では、彼らは公認の仲となった。
〝まあ、生徒たちにバレなければ良いか〟
そう思っていた琴音だったのだが……
「琴音先生、婚約おめでとうございます」
「ええ!?……炭治郎君、どうしてそれを?」
「どうしてって……、さっき歴史の授業の時に煉獄先生が報告してたので」
違うんですか?と問いかけた彼に、琴音は軽い頭痛を覚えた。
全く隠す様子のない杏寿郎と、それを裏付ける琴音の指輪。更には女子生徒が天元を揶揄うように口を開けば
「輩先生〜!!琴音先生は、嫁候補じゃなかったんですか〜?」
「はぁぁぁ、お前らは分かってねェな〜!!略奪ってのが一番燃えるんだぜ?」
なんて言い放ったものだから、瞬く間に杏寿郎と琴音の事は噂になり、琴音は困惑してしまった。
そしてそれに伴い、昼休みに入る前に理事長から直々に呼び出され、琴音は心底怯えていた
……筈なのだが。
「杏寿郎、琴音、おめでとう。結婚式の日取りは決まっているのかな?是非とも参列したいのだけど」
そう言って優しく笑いかけた耀哉に、琴音は内心驚いた。
……もう今日は驚きっぱなしである。
其れもその筈、琴音の予想に反して、何故か彼らは生徒たちにも祝福されていた。
勿論、生徒の何人かは推しの教師の婚約に、落ち込んだりもしたのだが……元々記憶がある者も多いこの学園では、彼らは既に公認の仲だったのである。
それどころか前世の彼らを知る者からは、今度こそ幸せになって欲しいと思われている事を、琴音は気づかず戸惑っていた。
〝こんなに公にしちゃって良いの……?〟
そんな動揺が表情に出ていたのだろう。耀哉は琴音に向かって微笑んだ。
「琴音、後のことは気にしなくていいんだよ?私は二人が幸せになってくれる事が嬉しいんだ。それに皆は、君たちを祝福してくれる筈だから安心して、学園生活を過ごすといい」
「……ありがとうございます」
「杏寿郎も良かったね。これからは琴音の事も頼んだよ?」
「ありがとうございます!!勿論、彼女の事は全力で守って見せます!!」
「ふふ。それは安心だ」
そう言って優しく笑った耀哉に、琴音は思わず眉を下げた。
******
今日一日の出来事を振り返りながら、琴音は帰路についていた。
〝皆に祝福されるなんて思ってもみなかった……こんなに幸せでいいんだろうか〟
そんな事を思いながら自宅へと帰り着き、なんの気無しにエントランスにあるポストを開ける。
そこには以前購入した化粧品のDMと、真っ白の封筒が入っていて、宛名のない封筒に首を傾げながら琴音はゆっくりと階段を登る。
自身の部屋へと辿り着き、鍵を開け室内に入り、
徐に封筒を開いた琴音は息を呑んだ……
そこには数枚の写真が入っており、そのどれもが琴音を写していた。
通勤途中だろうものや、部屋着姿で洗濯をする姿。校門で生徒たちに声をかけているものまである。
〝なに、これ……〟
驚きながら、最後の一枚を目にした琴音は
「っ、……」
余りの衝撃に、床に写真をぶちまけた。
そこに写っていたのは、数日前の琴音と杏寿郎の姿。
旅行に行く前の彼らだろう。
車に乗りこむ二人が写されていたのだが……
杏寿郎の顔だけズタズタに何かで切りつけられていた。
震える手で床に散らばる其れらを手に取った琴音は、小さなメモ紙を見つけて、今度こそ恐怖で固まった。
〝お前だけ幸せになるなんて許さない〟