第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
電車に揺られながら琴音は、自身の右手に視線を落とし、薬指にキラリと光る指輪に触れた。
『琴音、俺と結婚して欲しい』
『琴音の全てを俺にくれないか?』
『琴音、愛している』
指輪に触れながら、彼との甘い時間を思い出し、琴音は思わず頬を染める。そのままにやけ出しそうな自身の頬をなんとか気合いで抑え込み、琴音は窓の外へと視線を移した。
〝私って幸せ者だな……〟
そんな事を思いながら琴音は小さくほっ、と息を吐いた。
******
昨日は目が覚めると杏寿郎の腕の中で、なんとも幸せな朝を過ごした。
「おはよう琴音、……身体に痛みはないか?」
そう言って心配そうに髪を撫でた杏寿郎に、琴音は頬を染めながら微笑んだ。
「おはようございます。大丈夫です、どこも痛くありませんよ」
本当は少しだけ腰が重いような感覚はあったが、それ以上に優しく気遣ってくれる杏寿郎を嬉しく思い琴音はクスクスと笑みを漏らす。
「む?何を笑っているんだ?」
「ふふっ、何でもないですよ?ただ……今すっごく幸せだな〜と思って」
そんな事を口にして、杏寿郎の胸元にすりすりと頬を寄せた琴音に、杏寿郎も思わず口角を上げた。
「そうだな!!俺も今とても幸せだ!!」
琴音の身体をぎゅっと引き寄せて、楽しそうに声を上げた杏寿郎は、そのまま琴音の耳元で囁いた。
「琴音、俺の我儘を聞いて欲しいのだが……」
キョトンとした表情で顔を上げた琴音は
「……我儘?勿論、今回は杏寿郎さんのための旅行ですから、何でも言ってください」
と微笑んだ。そんな琴音に杏寿郎は目を輝かせ、ガバリといきなり起き上がる。それに釣られて琴音も状態を起こせば
「では、あれに一緒に入ろう!!」
とびっきりの笑顔で彼はバルコニーを指さした。そして、その先を目で追った琴音は、真っ赤な顔で固まった。
******
結局、大好きな杏寿郎のお願いを無碍には出来ず、少し……いや、大分恥ずかしかったが二人で部屋に付いている露天風呂に浸かった琴音に、杏寿郎は上機嫌で口を開く。
「今度は琴音のご両親にも挨拶に行こう」
「ありがとうございます。父も母もきっと、とっても喜びます!それに弟もビックリするかも」
そう言ってクスクスと笑みを漏らす琴音に、
杏寿郎も頬を緩めた。
昔、彼女は目の前で両親を亡くしたと言っていた。
残された弟を守るために、刀を取り鬼と戦う事を選んだ、と。
だが、その戦いの中で唯一の肉親である弟すらも失った彼女の心の傷は相当なものだっただろう……
そんな琴音が、今は楽しそうに家族の事を話している。その事が杏寿郎は、とても嬉しかった。
それから杏寿郎は、自身の家族を思い浮かべる。
母を亡くし、酒に溺れた父。それに脅えながらも、気丈に振る舞う弟。
そんな彼らに琴音は手を差し伸べて、寄り添ってくれていた事を思い出す。
クスクスと可愛らしく笑う琴音を眺めながら、そんな記憶に想いを馳せていた杏寿郎は、真剣な表情で口を開く。
「琴音、直ぐにではなくて良いのだが……また昔みたいに共に暮らさないか?」
「へ?」
突然の言葉に琴音がキョトンと杏寿郎を見上げれば、珍しく彼は頬を染めた。それに自然と口角を上げた琴音は、ふわりと彼に微笑んだ。
「ふふっ、嬉しいです。私もまた煉獄家の皆さんと一緒に暮らしたいです」
「いや、……その、それも勿論いいのだが……できれば二人で暮らさないか?」
「……え?二人?……二人っ!?杏寿郎さんご実家を出られるんですか!?」
「うむ!!既に父上と母上には了承済みだ!!俺も25を過ぎた事だし、そろそろ一人暮らしをと考えていた所だったのだが、琴音がもし良ければどうだろう?」
そう言って笑う杏寿郎に、今度は琴音が頬を染めれば、優しく頭を撫でられた。それから耳元に口を寄せ
「……考えといてくれ」
なんて彼が囁くものだから、琴音はもう耳まで赤く染め上げて何度も首を縦に振った。
それに満足そうに頷いた杏寿郎は、琴音の右手に視線を移し、愛おしそうに目を細める。
「杏寿郎さん、素敵な指輪をありがとうございます。大切にしますね」
その視線に気づいた琴音がお礼を口にすれば、杏寿郎はその手を取って口付ける。余りにもキザなその仕草も杏寿郎がやれば、自然と様になっているのだから不思議である。
「うむ!琴音が喜んでくれて安心した!!実はこの様な指輪を送るのは初めてでな……店員の女性から色々とアドバイスを貰ったのだが、これにして正解だった!!琴音にとても似合っている!!」
「ふふっ、ありがとうございます。私もこの指輪、とっても気に入りました」
「それは良かった!!普段から使えるデザインだと店員の女性に教えて貰ったからな、よければそれを俺だと思って普段から愛用して欲しい!!」
「そ、それはちょっと……勿論大切にしますし、お休みの日には付けたいのですが……」
そう言って眉を下げた琴音は、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「その、……生徒達には刺激が強くないですか?ほら、高校生ってそう言う恋愛事に特に興味を持つ時期でしょう?それに、あまり教師同士でのお付き合いは……公にしない方がいいのではないですか?」
「………むう。では、せめて一日だけ!!一日でいいから指輪をはめてきてくれないか?」
「え、でも………」
困ったように口を開いた琴音だったが、結局は眉を下げた杏寿郎に胸を打たれ、それを承諾してしまったのだ。
それが余程嬉しかったのか、
「琴音」
と彼女の名を呼んだ杏寿郎は、彼女を抱き寄せ口付けを落とし……
その後二人は、もうのぼせてしまうのでは無いかというほどに、甘い時間をすごしたのは言うまでもない。
******
〝私って幸せ者だな……〟
そんな事を考えながら琴音は電車に揺られていた。
学校につけて行くのはちょっと……なんて軽く拒絶の言葉を口にしていた琴音だったのだが
通勤電車内で自身の薬指を見つめて、幸せを感じているあたり、彼女も満更でもなさそうだ。
そんな楽しかった今回の休みもあっという間に終わりを迎え、今日からまた学校での勤務が始まる。
〝さあ、今週も頑張ろうっと!〟
指輪に触れて、小さく笑みを溢した琴音は、鞄を手に取り立ち上がる。
そのまま、きめつ学園の最寄り駅で停車した電車を後に琴音は上機嫌で歩き出す。
……だが彼女は気づいていなかった。
幸せオーラ全開の琴音の後ろ姿を、駅のホームからじっと見つめるその視線に。