第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大型連休というものは、なんでこんなに一瞬で終わってしまうのだろう……。
学生時代からの永遠の謎に、琴音は苦笑いを浮かべながら、姿見に写った自身に目をやる。
「……さぁっ、今日から頑張らなくっちゃ」
ブラウスにカーディガンを羽織り、ベージュのスカートを身に纏った琴音は、鏡越しに緊張した面持ちの自分に気合いを入れる。
緩く巻いた髪を、少し高めの位置でポニーテールにした琴音は、履き慣れた少し高めのパンプスに足を通し、玄関の戸を開け、重い足を踏み出した。
******
琴音が酔い潰れたあの日から、あっという間に時は過ぎ行き……
今日から皆と同じ〝きめつ学園〟での勤務が始まろうとしている。
あれからの数日は目まぐるしい日々だった。
杏寿郎は連休中でも部活の顧問として忙しく過ごしていた為、あれ以来一度しか会うことが叶わなかった。
かく言う琴音も琴音で、この連休はあちこちに足を運んでいた。
まずは、前世で世話になった育てにそっくりな恩師の元へと挨拶に出向いた。正直、今回の一件で、恩師にも記憶があるのでは……?と言う疑いが強まった。
大学時代、何かと気をかけてくれたこの老人は、一度だけ「弟は元気か?」と聞いてきた事があった。家族の話をしたのはその一度だけだったが、そもそも何故弟がいると知っているのか。その当時も、記憶があるのでは?と思っていた。
だが、前世の師範との別れは、あまりにも自分が一方的で……とてもいい別れ方とは言えなかった為、特段記憶の有無について問いかけはしなかった。
しかし、今回こんな短期間で新たな勤務地を探し、しかもそれが鬼殺隊の元柱が集結している学校……ともなれば、やはり問いかける事はしないが、どうにも怪しい。
「月島先生。すみません、無理なお願いをしてしまって……」
「構わない。わしも丁度その学園から、急な欠員で困っていると相談を受けていたからな。先方には顔を出したか?上手くやっていけそうか?」
「はい。明日なら理事長が学校にいるようですので、挨拶には明日伺う予定です。……それから、顔見知りの先生が多くいましたので、なんとかやっていけそうです」
琴音の返事に、恩師は笑みを深くして頷いた。その様子に〝これは記憶有りで確定だな〟と琴音も思わず笑ってしまった。
******
翌日、学校に手土産を持ち顔を出した琴音は、理事長とその横に並ぶ校長の姿に口をあんぐりと開けて固まった。
「やぁ、琴音先生。よく来たね?」
「お館、様…っ……?…あまね様?」
そんな琴音の様子に、優しく笑いかけた耀哉は昔と変わらぬあの穏やかな声で語りかける。
「もうお館様はよしておくれ?今はもう鬼もいないのだし…ね?また琴音と共に働けて嬉しく思うよ?」
「琴音先生。これからよろしくお願い致します」
それに続くように頭を下げたあまねに、琴音も慌てて頭を下げた。
「はい。……私もお二人の元で、またこうして働ける事、とても光栄に思います。これからよろしくお願いします」
そう言って頭を下げた琴音に、二人は優しく目元を下げた。
******
それから、職場が変わることを伝えに実家に顔を出せば「折角だから泊まっていきなさい」と両親に言われてしまい、二日間も使ってしまった。
最終日には、前の学校で仲良くしてくれていた同僚に、デスクに残したままの荷物を持ってきて貰い、そのまま話に花を咲かせた。
どうやら理事長に、今回の横暴がバレたボンボン太郎は停職処分を受けているらしい。流石に自分の息子の不祥事を有耶無耶にすれば、保護者からなんと言われるか分からないから……という事だろう。
まあ、今更琴音には関係のない話なのだが。
******
そんなふうに休みを過ごし、今日からきめつ学園の勤務が始まる……と言うわけだが。
「おはようございます」
「……おはよう」
校門に立つ冨岡と並び、生徒達に声をかけて入れば、見知った顔ぶれに琴音は驚きを隠せなかった。
記憶の有無に関わらず、生徒の殆どに見覚えがあり、それは鬼殺隊に関わらず、あの当時、刀を交えた鬼だった者もいた。
生徒達も突然現れた美人教師に、驚き頬を染める者、「琴音さんだ」と涙を浮かべる者、様々なのだが……
「そこっ、校則違反だと言っている!!」
「ゥギャーッ!!すいません、すいません!!冨岡先生、落ち着いて〜!!」
「…………あは、は、は……」
1番の衝撃は、そんな彼らに竹刀を振り回す冨岡の姿だった。………このご時世に、そんな事をしてPTAが黙っていないのではないか。頭を抱えたくなる光景から、思わず琴音が視線を逸らせば
校舎の四階の南側。一番角の部屋にぽっかりと大きな穴が空いている事に気づく。
亀裂が入ったとか、何かが当たって窓ガラスが割れたとか、そんなレベルではなくて……
何というか、壁が吹き飛んでしまったような、そんな大きな損傷だ。
あれ?この学校、なんだか普通じゃない………気がする。
琴音は、引き攣る顔を隠すこともせず、思わず頭を抱えるのだった。