第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
わんわんと泣きながら、
杏寿郎の嫁は幸せ者だとか……
きっと可愛いお子さんだろうとか……
家族を守る杏寿郎は素敵だとか……
恥ずかしいことを口走る酔っ払いに、その場に居合わせた者たちは、生暖かい視線を送りながら事の成り行きを見守っていた。
「琴音、……少し俺の話を聞いて貰えないだろうか?」
「……杏寿郎さん、私も勿論っ、祝福しているんですが……まだ、惚気話を笑顔で聞ける程っ、大人ではないんです……ごめんなさいっ、」
「いや、そうではなくてだな……」
そんな彼らを無視して、杏寿郎と琴音は同じようなやり取りを先程から何遍も繰り返していた。
最初こそ琴音の言葉に眉を下げ、心を痛めた伊黒だったが、酔っ払いの琴音に手を焼く杏寿郎を眺め〝俺たちは何を見せられてるんだ……〟と早々に呆れて、自身の酒をマドラーで掻き回している。
そのすぐ隣では、悲鳴嶼が涙を流し「愛しい者の為に流す涙……美しき思いやりだ」と手を合わせているし、
その向かいに座る冨岡に至っては「煉獄は……妻子持ちだったのか。俺からも祝福させて欲しい」と口走っている。
それに堪らず実弥が「テメェ、冨岡!話をややこしくすんなァ!」と怒鳴りつければ、
その状況を楽しむように天元の前に座る女性がふわりと笑う。
「あらあら〜、琴音ちゃんの話は聞いていたけど……随分と可愛らしい子だったわ〜。やっぱり恋する女の子は素敵よねぇ?」
「胡蝶。お前、こいつらを酒のつまみにすんなよ」
「あら!宇髄君の所為でこんなに面白い展開になってしまったのよ〜?」
そう言ってクスクスと笑う女性に、天元は呆れたように突っ込んだ。
それに「……胡蝶?」とピクリと反応を見せた琴音は、杏寿郎から視線を外し、自分の斜め前に座る美しい女性の顔をじっと眺めた。そして、頭に見知った蝶飾りを見つけ、恐る恐る口を開く。
「もしかしてっ、……しのぶの…っ」
「うふふ。琴音ちゃん凄いわぁ〜。貴方の考えは当たりよ?私、しのぶの姉のカナエって言うの。あの子と仲良くしてくれてたのよね〜?ありがとう、琴音ちゃん」
そうやってカナエが微笑めば、琴音の涙腺は完全に崩壊した。再びうわーん、と泣き出した琴音は「しのぶ〜」と親友の名前を口にしたり、「良かったぁ……」と繰り返していて……
もう完全に手がつけられない状態だった。
それを見て、カナエは嬉しそうに笑みを深くしているし、実弥は呆れたような顔で笑っている。杏寿郎はなんとか泣き止ませて、誤解を解こうとオロオロとしているし……
天元はこの状況を作り出しておきながら、疲れたようにため息を吐いた。
〝ここは俺がなんとかするしかねぇか……〟
そう思い至った天元は、未だに号泣している琴音に視線を移し、無遠慮に琴音の頭を鷲掴んだ。そしてグイっとそれを自分の方へと向けた天元は、琴音に向かって口を開く。
「いいか、琴音。あの頃は、生きる事がやっとな時代だったんだ。鬼とか言う、訳の分かんねぇー奴と戦ってたんだからなっ!お前だけじゃねえ………沢山の奴が命を落とした。生きたくても、だ!」
それをぽろぽろと涙を流しながら琴音が見つめれば「だがな……」と口を開いた天元は、掴んでいた琴音の頭からそっと手を離す。そしてそのまま頭にぽんぽんと手を置き直した彼は、ずいっと顔を近づけて彼女の目を覗き込んだ。
「よく見てみろよ、琴音!時代は変わったんだ!……あの頃、お前らが命懸けで戦ったおかげで、こんなにも平和な世の中になったんだ」
「………天元さ、ん」
「昔は敵わなかった願いも、そりゃーあるだろうが。この平和な世の中じゃ、本人の頑張り次第で大抵の事は叶う訳だっ!……お前が手を伸ばす事が出来ればな?」
そう言った天元は、琴音の前で掌を振って見せた。
「で、お前はどうする?……目の前にいる俺たちの腕を取れるか?」
「………っ、」
「それとも俺たちより、………過去を選ぶか?そんな事、俺は許さねーぞ!」
そう言ってニカっと笑った天元の腕に、琴音は思わず飛びついた。そして涙を隠すようにぎゅーと抱きついた琴音に、天元はゲラゲラと笑い声を上げる。
「それから琴音、派手に喜べ!琴音の新しい職場は俺たちと同じだわ!俺たちはきめつ学園の教師だからなっ!!」
「へっ……?きめつ学園の……教、師……?」
その言葉に驚き顔を上げた琴音は、ぐるりと皆の顔を見渡した。だが今更ながら取り乱した自分を、見守る皆の視線に恥ずかしくなって、再び天元の胸元に顔を押し付けた。そして、それを誤魔化すように、恨み言を口にする。
「うぅ、天元さんっ……無駄にイケメンで、ムカつきますっ……」
「当たり前だろ?俺様を誰だと思ってんだ!派手に男前な宇髄天元様だぞっ!!」
「知ってますよぉ。それにっ、……天元さんの腕っ、…生えてきて、安心しましたっ……」
「あのなぁ、人をトカゲみたいに言うんじゃねーよ!」
「……………天元さんは、何の先生ですか?」
「あ?どっからどう見ても美術だろ!俺は芸術的センスが派手に溢れてるからな!!」
「はは、……派手は、で…です、もん……ね……」
「おう!派手を司る祭りの神だからなっ!」
「……ま…つり、…………」
そう言ったっきり言葉を発しなくなった琴音に、天元はくつくつと笑みを漏らす。
〝泣き疲れて寝ちまうなんて、あの時と同じじゃねーか!〟
遥か昔の、片腕を無くしたあの任務を思い出し、口角を上げた天元は、眉を下げ琴音の様子を伺っていた杏寿郎に視線を移す。
「酒に呑まれるなんて、まだまだコイツもひよっこだな!煉獄、コイツどうするよ?」
天元がそう口にするや否や、ハッと我に帰った杏寿郎は琴音を天元の腕の中から奪い取る。そして大事そうに抱きしめなおした後、自身の財布を引っ掴み、中から紙幣を取り出した。
「これで足りるか分からんが……足りない分は立て替えておいてくれ!!」
そう言って、立ち上がった杏寿郎に天元はニヤニヤと揶揄うような笑みを浮かべる。
「送り狼になるなよ、……煉獄先生?」
それには答えず、チラリと皆を見渡した杏寿郎が「では、お先に失礼する!」と声を上げ、足早に部屋を後にすれば、それを見送った天元は心底楽しそうに笑い出す。
「だぁーーはははっ!なんだよ、不祥事起こした教師が来るとか言うから、どんな奴かと思えば!くくっ!!」
「そうね〜?ふふ、それにしても琴音ちゃん、可愛らしかったわ〜」
そう。彼らは連休を控え、飲み会を開催するに至ったのだが、天元が昼頃『新しい教師が来るらしいぜ?しかも他校で不祥事を起こした教師らしい!派手に面白そうじゃねーか!!』と話し出し、
今日はその何処から仕入れたか分からない噂を酒のつまみにするつもりだったのだ。
「お前らなァ……」
酒に関してはザルな二人組は、先程の琴音の様子をつまみに、アルコールを喉へと流し込んでいた。それを見た実弥は、はぁ、と大きなため息を漏らしたが、久々に見た琴音の姿を思い出し〝まぁ、たまにはいいかァ〟と小さく笑みを落とし、自身もアルコールに手を伸ばすのだった。