第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
楽しそうにニコニコと笑う琴音に、あの強面の実弥が優しく笑いかけている。そんな光景を眺めていた天元は、不貞腐れたような表情を浮かべていた。
〝琴音の野郎……俺が聞いた時は答えもしなかった癖に、不死川にはべらべらと喋りやがって〟
頬杖をつきながら、新たに頼んだビールを喉に流し込めば、ニコニコ笑う琴音のその向こう、自分と同じように険しい表情を浮かべる男の姿が目に入る。
彼にしては珍しく真顔で腕を組んだまま、微動だにしていない。よくよく思い返して見れば、出会い頭に抱き締めていたものの、それ以降口すら開いていなかった。
そんな杏寿郎の様子を横目に捉えた天元は、未だに上機嫌で話をしている琴音に、ある悪戯を思いつく。
そして悪そうな笑みを浮かべた天元は、散々振り回された罰だ、と二人の会話に割って入った。
「なるほどな〜。セクハラを受ける程の琴音は、ストレス社会を生き抜く、それはそれは立派な大人になったんだろうな〜」
「……いきなり何ですか、天元さん」
「いや、さっき琴音が自分で言ってただろ?今世は〝私モッテモテ〜〟って!」
それに杏寿郎がピクリと反応を見せるも、琴音は気づかず声を荒げる。
「……なっ!そんな言い方してないでしょっ」
「ああ、こうも言ってたよな?今世では〝俺の嫁になってもいい〟って」
そう言ってニカっと笑った天元に、琴音は思わず真っ赤な顔で震え出す。
〝皆の前でさっきの冗談を言うなんて……〟
彼を咎めようと口を開きかけた琴音だったが、横からすっと腕を掴まれた事で動きを止めた。
驚きそちらに目を向けた琴音に、杏寿郎は眉を下げながら小さな声で問いかけた。
「琴音は、もう俺の事を想ってくれてはいないのだろうか……?」
杏寿郎のその一言に、その場が一瞬で、しん……と静寂に包まれた。
一様に皆が口を閉ざし、二人に視線が集中する。
困ったように眉を下げた杏寿郎と、その彼に掴まれた腕に視線を落とした琴音の姿。杏寿郎の呟きに、暫くどちらも口を閉ざしていたのだが……
「……杏寿郎さん、私を恨んでいますか?」
それを見守っていた彼らの耳に漸く届いたその声は、消え入りそうな程弱々しいものだった。
先程まで、楽しそうに話していた彼女とは打って変わったその声に、その場の者は驚いた。それは、声をかけた杏寿郎も同じで
「……恨む?そんな訳ないだろう!!」
と慌てて声を上げたのだが。
「必ず貴方の元に戻るとっ、……お嫁さんにして貰うと、約束したのにっ……結局、杏寿郎さんをっ、1人にしてしまった……杏寿郎さんを、傷付けたっ、恨まれていて……当然ですっ……っ、」
そう言って震えた声で言葉を紡いだ琴音の姿に、皆一様に眉を下げた。下を向いているので彼女の表情は伺えないが、きっとあの戦いを思い出し、未だに心を痛めているのだろう。あれから月日は流れ、時代すら変わったと言うのに、あの時の戦いに取り残されたままの仲間の姿に、思わず心配になってしまう。
「だから……杏寿郎さんが、こうしてっ、……皆さんに囲まれて、幸せに過ごせているならっ……私はそれだけで、充分ですっ、……」
「……… 琴音」
「杏寿郎さん、……今、幸せですかっ?」
杏寿郎はその問いかけに目を細めて、掴んでいた琴音の腕から手を下ろし、掌をそっと包み込む。そして優しく笑いかける。
「ああ、幸せだ。……父上も千寿郎も昔と変わらず傍にいてくれる。あの頃病気で命を落とした母上も、今世では元気に過ごしている。……それにこうして琴音に出会えたんだ。もうこれ以上の幸せはないだろう?」
すると、ゆるゆると顔をあげた琴音は案の定その瞳に溢れんばかりの涙を溜めていた。そして、ははっと自傷気味な笑みを浮かべた琴音は「本当はっ、……笑って、言いたかったのに……」と小さく呟いた。
ん?と何か違和感を感じた皆が琴音を見つめた時には、彼女はもうぼろぼろと涙を流し始めていて、皆が止める間も無く思わぬ言葉を泣き叫び始める。
「もしもっ……杏寿郎さんに会ったなら、……笑顔で、お祝いしよう…っと思……ってたんです、ご結婚……おめでとっ、う……ござぃますぅ〜っ、」
「な、、なんの話をしてるんだっ!?俺は琴音以外にそんな相手はいないがっ!!」
「……そんな嘘、大丈夫ですっ……こんなに、かっこいいの、に……奥さんが、いない筈っないでしょ……ぅっ?、もしかして、……お子さんも、いらっしゃる…、んですかっ?……杏寿郎さん、に似て…さぞかし……可愛いらしい、っんでしょうね〜っ」
うわーーん、と泣く琴音を前に、杏寿郎はオロオロと慌てふためく。
……いや、違うっ!聞いてくれ!!
どんなに杏寿郎が否定の言葉を並べても、琴音は全く聞き入れない。
皆はすっかり忘れていたが、彼女は天元と出会った時点で完全な酔っ払いだったのだ。
ほんのり赤らんだ頬を涙で濡らし、わんわんと泣く琴音の姿に、皆は困ったように眉を下げるのだったー………。