第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「伊黒ーーっ!!体を注視しろっ、見え方が変わらないかっ、……他の者でもいい!!体が透けて見えないか」
悲鳴嶼の声が上がり、無惨を相手にしていた伊黒は目を見開いた。
彼の言う通り、一瞬だけだが体が透けたように見えたのだ。その際に確認できたのは、脳と心臓の数が異常に多いと言うこと。だが、それを皆で一斉に叩けば……
彼らの瞳に希望が見えた、次の瞬間……
パギッ ドォォォン!!
物凄い爆音と共に、無惨から伸びる数多の触手と管から繰り出された攻撃に、その場に居合わせた隊士達は吹っ飛ばされた。
柱達も気を失う程の衝撃で、先程まで声を上げていた悲鳴嶼は片足を、冨岡は片腕をたった一瞬で失った。
そんな中、不運にも意識を保った状態で無惨を見上げていたカナヲの前に、奴は歩みを進めていく。
〝早く立って、足……動けっ、倒せっ、コイツを!〟
もう悲しい思いをする人を増やしたくない。死んでもここで此奴を倒すんだ。カナヲは自分を奮い立たせ、最期まで戦おうと力を込めるが、体が言うことを利かず上手く立ち上がる事が出来ない。
その状況に物陰に身を潜めていた隠の後藤が声を荒げる。
「やめろー!!」
だがそんな言葉に無惨が反応する筈もない。無常にも彼が見つめるその先で、カナヲに向かって手を振り上げた無惨は、身動き一つ取れない彼女にその手を振り下ろしたのだ。
「ヒノカミ神楽
そこへ力強い炭治郎の声が響き……
間一髪、カナヲに振り下ろされたその腕を、炭治郎が放った燃えるような斬撃が斬り落とした。
そのまま炭治郎はカナヲを抱きかかえ、後藤のもとへと身を隠す。そんな炭治郎を見上げて涙が止まらないカナヲは「炭治郎っ、炭治郎……」と彼の名前を何度も何度も口にする。
「遅くなってごめん。……頼みます。」
それにそう返事をした炭治郎は、後藤にカナヲを託し、無惨に向き直り走り出す。
だが、彼一人では……
その場に居合わせた者達が、この状況に顔を歪めたその時……
無惨の前にふわりと黒い羽織が舞い降りた。その真っ黒な人影は、全く重力を感じさせない動きで、ふわりふわりと舞い上がり
「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象」
迷う事なく、その切先を無惨の腕へと振りかざした。
皆一様に頼もしい琴音の登場に目を輝かせたが、彼女の姿をまじまじと捉えた瞬間、驚き息を呑んだ。
だらりと垂れ下がった左腕。彼女のスカートから覗く足は紫色に腫れ上がり、頭に負った傷は止血はしたのだろうが、血が固まって張り付いていた。至る所に切り傷があり、きっと見えない所にも怪我を負っているのだろう。
明らかに動ける状態ではない琴音の姿に、あんな怪我で何故あれほどの動きが出来るのかと、その場の者達は思ってしまうほどである。
「またお前かっ、どいつも此奴も……お前達のそういうしつこい所が嫌なんだ」
そう言って再び炭治郎と琴音に向かって攻撃を仕掛けた無惨に、二人は渾身の一撃を喰らわせ続ける。
勿論無惨もそれには黙っていない。
先程柱を吹き飛ばし重傷を負わせた攻撃も駆使し、炭治郎と琴音を追い立てていく。
触手と管を総動員した攻撃を辛うて避けながら、二人は攻撃を繰り出していく。だが、防いでも防いでも、またすぐに違う触手が彼らを襲う……
しかしそれも間一髪で回避が間に合うのだ。
その事実に無惨は違和感を覚えた。
〝何故私は疲弊しきった手負いの人間に止めを刺せない?〟
そこで、ふと脳裏にある疑問が湧いた。
珠世に盛られたあの薬……本当に人間に戻るだけのものだったのだろうか、と。
そんな無惨が自分の細胞に残る珠世の記憶を辿り、唐突に行き着いた結論。
あの薬の効力は、ただの人間に戻す為だけのものではない。あの女……珠世に協力した鬼狩りの娘が記憶の中で口にした言葉。
『二つめは老化の薬が望ましいですね。一分で五十年、無惨を老いさせることができる』
その言葉通りなら、今の私はたったの数時間で〝
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
琴音の刀身が無惨の腕を切り落とし、遮る
「日の呼吸 円舞……、碧羅の天……、烈日紅鏡……、灼骨炎陽……、陽華突……」
弱体化した無惨の体に刃を貫いた炭治郎は、夢で見た縁壱と炭吉の会話を思い出す。
これまでは代々伝承されてきた神楽を、父、炭十郎から教わっていた炭治郎だが、彼は夢の中で創始者である縁壱の剣技、剣の型を直接その目で見てきたのだ。それは炭治郎の先祖、炭吉の記憶……
〝縁壱さん俺の方こそ……俺たちの祖先を助けてくれてありがとうっ、貴方がいなければ俺たちは生まれていません。……貴方が信じて逃した珠世さんの協力で無惨を追い詰めることができました。貴方が見せてくれた日の呼吸で俺は戦うことができます。十二個の型は驚くほど正確に伝わっていました……何百年も経つのに〟
その想いに応えるように、炭治郎の耳元で、彼から炭吉に贈られた耳飾りが音を立てる。それに力を貰ったような気がした炭治郎は、刀を強く握りしめる。
「日暈の龍・頭舞い……、 斜陽転身……、飛輪陽炎……、輝輝恩光……、火車…………、幻日虹……、炎舞……っ!」
〝繋……がった。これで十二っ、もっと速くもっと正確に!!〟
その隣にふわりと降り立った琴音は、そんな彼の様子をちらりと伺う。
強い決意に満ちた目に、琴音はすっと目を細めた。
〝私は炭治郎君の援護を……
彼は死なせては駄目っ、彼に向かう攻撃は私が全て止めてみせるっ〟
そう覚悟を決めた琴音が刀を力強く握りしめた時、彼女の刀がより赫く輝きを増した。
だがこの激しい戦場の中、その事に気づいた者はいなかった……