第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その場に居合わせた隊士や、隠達が必死に瓦礫をどかす中、ぐったりとした様子の琴音にゆっくりと吊り目の隊士が近寄った。
「この女は確か柱だな?……この怪我はまずいな」
「琴音さんは炎柱だろっ!忘れたのか新人!!………それにしても、ちょっとでいいからお前も手伝えっ!!」
そう言って怒鳴り散らす先輩隊士の事なんか全く気にせず、吊り目の隊士は顎に手を当て辺りを伺った。
……それもそうだろう。隊服こそ身につけているものの、彼は歴とした鬼である。正直、目の前でぐったりしている隊士が、何処の誰かなんて知る由もない。
ただ彼が唯一他の鬼と違うのは、先程無惨によって握り潰された〝
そして、今は鬼殺隊と手を組み、無惨討伐の手助けをしていると言う事である。
吊り目の隊士こと鬼の愈史郎は、琴音に近づき眉を顰めた。
〝今、此奴に死なれては困る……無惨を倒す為には柱は何人いても足りないくらいだ〟
そんな事を思いながら、瓦礫から救い出された琴音の前にしゃがみ込んだ愈史郎は、荒々しく処置を施していく。
「琴音さん、助かるのか!?どうなんだっ!」
「うるさい。処置に集中出来んだろうが……それより、ここは任せてお前は戦いに加勢しろ!」
口の悪い愈史郎に、ムキーっと怒りを剥き出しにした先輩隊士は、刀を持って立ち上がる。
「絶対俺が階級は上なんだからなっ!!お前、琴音さんの事を頼むぞーっ!絶対だからな!!」
「……やれる事はやる。後は此奴次第だ」
その言葉を合図に、琴音の周りにいた隊士数人も立ち上がる。
「琴音さん、先に行ってます」
「頑張って下さい、……炎柱様。」
口々に琴音に言葉をかけて戦場へ走り去っていく隊士達の背中を見送った愈史郎は、琴音への処置に再び手を慌ただしく動かすのだった。
******
沢山の白い花が何処までも咲き誇り、
温かな風がそよそよと吹いている。
そんな幻想的な空間に琴音はぽつんと座り込んでいた。
〝あれ、私……〟
キョロキョロと辺りを見回す琴音に、そっと人影が近づいた。
「琴音……」
「父さん?」
背後からかかった声に琴音が慌てて振り向けば、あの日と変わらぬ優しい笑みを浮かべる父と、それに寄り添うように肩を並べる母がいた。
あの日助けられなかった両親の姿に、琴音は思わず涙ぐむ。
「琴音、良く頑張ったわね?父さんとずっと琴音を見守っていたのよ?」
「ああ、お前は私達の自慢の娘だ」
そう言って微笑む両親に琴音が思わず抱き付けば、あらあら…と母が優しく頭を撫でてくれる。
「父さん、母さんっ……あの日二人を助けられなくて、ごめんなさいっ……優斗もっ、助けてあげら、れなくっ、て……」
「もういいんだ、私達の事は。それに優斗は琴音がずっと守ってやっていた事、ちゃんと分かっているよ?ずっとお前達を見守っていたんだから」
堪らず声を上げ泣き出した琴音に、父は優しく声をかけた。そして、そっと目線を合わせるようにしゃがみ込み、琴音の頬に手を伸ばす。
「だから、お前はまだここに来ては駄目だ。……まだやる事があるだろう?この手を待っている仲間がいるんだろう?」
父の言葉に、ピクッと反応を見せた琴音は、ポロポロと涙を流しながら、その顔を上げる。
「琴音は良く頑張ってる。……だけど、まだもう少し頑張れる筈だ」
「でも、身体が痛いの……左手は動かない。足も肋も全身痛くて、……っ、父さん達と一緒にいたい」
「出来るさっ、動かせる……仲間がお前を待っているよ?」
そう言った父の目から一筋の涙が伝い、琴音は驚き動きを止める。
「琴音にばかり無理をさせてすまない。……でも琴音なら出来るさ。琴音はいつだって人に手を差し伸べてきただろう?その手は沢山の人を助けてきた筈だ。だから、もう少し……琴音を必要としている人達に手を差し伸べてあげてくれ。……… 琴音が頑張ったら、ずっと側にいてやるから」
そんな父の言葉を後押しする様に、母が静かに口を開く。
「琴音?あの人に教えて貰ったのでしょう?だったら大切な者は、自分の手で守らなくちゃ」
そう言って笑った母は、そっと琴音を支えて立ち上がらせる。
「さあ、行っておいで。父さんと一緒に琴音を見守っているわ」
そう言って母に優しく背中を押されて、琴音の足は一歩を踏み出す。
震えながら、でも確実に踏みしめた一歩。
また一歩、もう一歩と歩き出した琴音の足は、気づいた頃には駆け足になっていた。
彼女の足が止まる事はなく、後ろを振り返る事もしなかった。
両親が見守っていてくれた事を知ったから。
それに……
琴音は最愛の彼の姿を思い浮かべる。
〝杏寿郎さん、ごめんなさい。貴方に教えて貰ったこと、まだ私ちゃんとやり遂げていないまま、諦めるところだった……〟
涙を拭い、遠くに見える光に向かって手を伸ばした琴音は、眩しい光に包まれた。
******
薄ら開けた瞳に映ったのは、まだ夜明け間近の薄暗い空。
遠くで聞こえる激しい爆音と、叫び声。
どれ程の間気を失っていたのか、と琴音は顔を歪めた。
「琴音さん!目が覚めたんですね!!良かった……」
近くで彼女を見守っていた隠が琴音に声をかけるが、琴音はそれには答えない。
「……琴音さん?」
戦場だろう方向を見つめ、よろよろと立ち上がった琴音は、驚き呼び止める隠を無視して歩き出す。
身体中が痛かった。
息を吸うことすら躊躇する程に、肺も心臓も全てが痛みを伴った。
だけど、彼女は止まらない。
歩き出した足は駆け足に……
痛みも気にせず、呼吸を深く繰り返す。
「父さん。母さん。私頑張るから」
呟いたその言葉は、風の中に消えていった。