第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏寿郎は締めきられた襖の前で姿勢を正す。
「父上、少しお時間よろしいでしょうか?」
一向に返事は返ってこないが、そんな事にはもう慣れてしまった彼は「失礼します」と襖に手をかけるのであった。
******
あの後琴音から譲って貰った本を見て、千寿郎は
「こんなに頂いてよろしいのでしょうか?」とオロオロしていた。
だが琴音の引っ越しの手伝いで、本の山を見てきた杏寿郎は
「彼女の家には100冊以上も本が並んでいた!俺も最初は驚いたのだが、殆どの内容を覚えているらしいから、是非貰ってくれとの事だ!
きっと彼女は博識だから分からない事は教えてくれるだろう!よかったな千寿郎!」と笑ってのける。
「それはすごいですね、琴音さんが来たら色々と教わって見たいです。」と可愛らしい笑みを浮かべる弟に、
杏寿郎も満足気にうむ!と返事をし腰を上げる。
立ち上がった兄を不思議そうに見つめる千寿郎に
「だが、その前に父上に琴音の事を報告せねばなるまい!俺は少し話をしてくるから、千寿郎はこれを部屋に片して来なさい」と本を手渡してやる。
眉を下げて心配そうに見上げてくる弟に
「大丈夫だ」と頭を撫でてやり、父の元へとやって来たのだ。
******
父の部屋へ足を踏み入れれば、締め切っていた為か空気が少し重く、酒の匂いが充満していた。
「父上ご報告があります!」
杏寿郎が声をかけようが、こちらを振り返りもせず寝転んだままの父。
流石の杏寿郎もそんな態度を取られれば言い淀んでしまうが、意を決して口を開く。
「この度、新しい継ぐ子を取る事にしました。」
そこまで言ったところで、漸く父、愼寿郎は口を開く。
「そんなもの取ってどうする?どうせ俺もお前も大した者にはなれないんだ。時間の無駄だ」と、、、
ですが!と杏寿郎が声を上げれば
空の酒瓶が投げ付けられる。
杏寿郎のすぐ近くで割れた瓶には、まだ数滴残っていたのだろう。じわじわと畳に染みができていく様を、杏寿郎は眉を下げて見つめる。
そんな息子に構う事もなく「どうでもいい。出て行け」と父は声を荒げるのだった。
割れた瓶を拾い集め、一度父の後ろ姿を悲しそうに見つめた後「失礼します」と杏寿郎は部屋を後にする。
******
とぼとぼと、台所に向かい深いため息を吐く。
杏寿郎は割れた瓶を処理しながら、先程の父の背中を思い返す。
昔の面影をなくした父は、母が亡くなってからというもの酒に溺れ、自分たちに背を向けるようになった。
炎柱になれば喜んで貰えると思っていたが、あの時にも「どうでもいい」と言われたな。
杏寿郎は無意識に、いつかの暗い記憶を蘇らせる。
父の支えになりたいのに何もできない自分に不甲斐なさだけ募っていく。
兄として、千寿郎には寂しい想いをさせたくないとは思うが、いつも父に怯え眉を下げる弟に何もしてやれていない、、、と少し弱気になってしまう。
こんな事では駄目だな、と杏寿郎が珍しく一人落ち込んでいればふいに声がかかる。
「兄上、、、大丈夫ですか?」
背後からこちらを気遣う千寿郎の声が聞こえ、我に帰った杏寿郎は慌てていつもの笑顔を浮かべる。
きっと先程の父の声が聞こえて、心配してくれたのであろう、、、
そんな優しい弟を、安心させるように
「父上には無事報告をすませた!あとは琴音を迎え入れるのみだ!」と、杏寿郎は明るく振る舞うのだった。