第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
琴音の元に、血鬼術によって創り出された氷の巫女を倒した二人が駆け寄ってくる。
「琴音さん、師範の毒が効き始めた!!」
走りながら声を上げるカナヲに、琴音は大きく頷いた。
「しのぶの想いは私たちが繋ぐ……絶対あいつの頸を落とすよ?」
「はいっ!」「おう、任せろ!!」
刀を強く握りしめ深く呼吸を吸い込んだ琴音は、一気に鬼へと距離を詰める。そこへ、カナヲと伊之助の二人も追いつき三人で頸を斬り落としにかかる。
「往生しやがれ、ド腐れ野郎!!」
そう言って力強く二本の刀を振り上げた伊之助の声が響く中ー……
「血鬼術
相手は腐っても鯛ならぬ、上弦の鬼なのだ。
一筋縄で頸を斬らせて貰えるはずもなく、此処に来て大技を繰り出してきた。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
二人を守るように一歩前に踏み出した琴音は、力強く刀を振り上げた。無数の渦巻を作り上げ、氷の菩薩が振り上げた拳を防ぐ。
琴音が鬼の頸を狙い駆け出すより早く、炎の隙間に体を捻じ込み、カナヲが一気に距離を詰める。
「花の呼吸 終ノ型
凛とした声が響き、琴音は思わず苦笑する。
〝しのぶ……貴方の妹も、誰に似たのか無茶をする子ね。でも私が絶対守るから!〟
そう胸の奥で呟いて、琴音は二人に向かって口を開く。
「援護する!二人は頸を狙って!!」
そう口にするや否や、先程よりも速く移動し、無数の技を繰り出し始める。カナヲに、伊之助に、その攻撃が及ぶ前に、琴音の攻撃がそれを防ぐ。
先程より鬼にずっと近い距離を常に駆け回る琴音の体は、少しずつ氷の膜で覆われ始めるが、それでも彼女は止まらなかった。
そして遂にカナヲの刃が頸を捉える。
だが腐り始めた頸でも、上弦ともなればとても硬い。……それに、カナヲもまた、琴音と同じように体が凍結し始めている。上手く入らない力では、頸を斬り落とす事が出来ない。
それでもカナヲは諦めなかった。
上手く動かない体を何とか動かし、刀に力を込めていく。そこへ鬼の腕が攻撃を仕掛ければ……
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」
琴音がそれを薙ぎ払う。
その反対側から飛び出した伊之助を掴む腕さえも、琴音は飛躍して切り捨てた。
そしてカナヲの刃に、落下しながら投げつけた伊之助の刃も加わって
「ぬおおおおお!!獣の呼吸 思いつきの 投げ裂きっ!!」
ゴトン……
遂に鬼の頸を斬り落とした。
******
崩れ去っていく頸を前に、伊之助は声を上げる。
だが、彼の体はボロボロで、そのままフラフラと座り込んでしまう。そして、自身の母を思い出し、一人静かに涙を流していた。
琴音はその反対側、必死になって水の中を探すカナヲに近づいた。
「カナヲちゃん、これ」
すっと顔の前に差し出された
「助けに来るのが遅くなってごめん。しのぶを助けてあげられなくてごめんね……」
そう言って目を伏せた琴音は、蝶飾りを大事に包み込むその手にそっと手を伸ばす。
「一緒に戦ってくれて、ありがとう」
そう言って、ぎゅっと手を握りしめた琴音はもう一度ふわりと微笑んでゆっくりとした動きで立ちあがる。
「私は先を急ぐけど……二人は応急処置をしてから先に進んで?治癒の呼吸、覚えてるよね?」
そう言って、背中を向けて歩き出した琴音を呆然と眺めていたカナヲは手元の蝶飾りに視線を落とす。
〝……私今度はちゃんとできたよね?頑張ったよね?姉さんに言われた通り仲間を大切にしていたら助けてくれたよ……一人じゃ無理だったけど仲間が来てくれた〟
二つの蝶飾りを胸にギュッと抱きしめて、自身の姉達を思い浮かべたカナヲは、頭にふわりと優しい温もりを感じた。
『がんばったね、カナヲ』
此処にはいない筈の二人の姉の声が聞こえ、カナヲはバッと顔を上げる。
勿論そこには姉の姿はないが、確かに聞こえたその声にカナヲはポロポロと涙を流す。
歪む視界の先ーー。
今にも部屋を出ようとする琴音の姿に、カナヲは勇気を振り出して、彼女の背中に声をかけた。
「琴音さんっ!!」
その声にくるりと振り返った琴音の姿に、カナヲは涙を流しながらも言葉を紡ぐ。
「姉さんの為に、一緒に戦ってくれて、ありがとうっ……」
その一言にふわりと笑った彼女は「当たり前でしょ?大切な仲間なんだから」と口を開き、片手を上げて今度こそ部屋から出て行った。
その背中を見送ったカナヲは、ぐっと足に力を入れて立ち上がる。
「伊之助、体は大丈夫?手当てをしたら先に進もう。……仲間を助けに行かなくちゃ」
彼女はもう、あの時の何もできない少女じゃない。二人の姉の想いを胸に、再び力強く一歩を踏み出すのだった……