番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、琴音は杏寿郎と共に新しい本を探す為、賑わいを見せる街に訪れていた。
「杏寿郎さん、すみません。私の趣味に付き合わせてしまって……」
「なに、気にすることはない!それにこうして琴音と一緒に、街を散策するのも久しぶりだからな!!よし、甘味休憩でもして行こう!!」
「ふふ、ありがとうございます。荷物まで持って貰っちゃって、至られ尽くせりですね」
そう言って嬉しそうに頬を緩めた琴音に、杏寿郎はワハハと声を上げた。
「たった3冊の荷物持ちと甘味に誘っただけで満足とはな!!琴音はもっと我儘を言うべきだ!!」
「ふふっ、もう充分ですよ?こうして一緒にいられるだけで幸せですから」
「琴音……」
手を繋ぎ、並んで歩く二人から、甘い雰囲気が漏れ始めた時
「煉獄?」
彼を呼び止める声に、二人が同時に振り向けば、半々羽織の見知った顔がそこにはあった。
「ん?おおっ、冨岡ではないか?久しいな!息災だったか!?」
杏寿郎がそう投げかければ、何故か呼び止めた本人は考えるように、無言になった。
それに耐えきれなくなった琴音が口を開きかたかけた時ーーー。
「………と、春野。」
漸く口を開いた冨岡に、琴音は思わず顔を引き攣らせた。
〝え、何。私の名前が出てこなかったの…?〟
杏寿郎の名前に、後から取ってつけたかのように呼ばれた自身の名前に、琴音はむっとしてしまう。
確かに柱に成り立てではあるが、既に数ヶ月は経過しているし、なんなら先日初めて稽古を共に行ったと言うのに……
軽く落ち込んでしまうが、やはり先輩の隊士ではあるし、となんとか自分に言い聞かせ、琴音は曖昧に笑ってみせた。
「あはは……こ、こんにちは。えっと、冨岡さんもお買い物ですか?」
「…… 春野、不死川と仲が良いのか?」
「は、はい?……あ〜、まぁ、実弥さんには良くして貰っていますが?」
「そうか」
「………はい」
だが、なんとか繕ってみても会話が続かないのだ。しかも、その問いかけを聞いていた杏寿郎までもが口を開き、会話をややこしくし始めた。
「不死川は琴音の兄のようなものだ!!特段仲がいい訳ではないぞ!!」
「…………兄?」
「うむ!!不死川はああ見えて面倒見がいいからな!!」
その言葉に考え込む仕草を見せた冨岡に、二人は首を傾げるのだった。
******
そもそも冨岡が今日こうして街へ足を運んでいたのは、最近彼を悩ます原因があっての事だった。
先日始まった柱同士の稽古……。
他の柱達への負い目を感じながらも、彼も稽古に参加していた。
だが、柱合会議で毎回顔を合わす度、怒らせてしまっていた実弥を、柱稽古で会う度、怒らせてしまうのは当然の事で……
昨日、稽古が始まって初めて顔を合わせた実弥を案の定怒らせてしまった彼は、お詫びに何かを差し入れようと街にやってきていたのだ。
だが何をどうしたら、と頭を悩ませていた所、珍しい髪色の元同僚の姿を見つけ思わず声をかけてしまったのだ。
「煉獄?」
「ん?おおっ、冨岡ではないか?久しいな!息災だったか!?」
此方を振り向いた杏寿郎の隣には、これまた稽古で最近顔を合わせたばかりの琴音の姿。
そこでふと彼は琴音について話をしていた隊士達を思い出す。
直接隊士達から聞いた話ではないが、彼女はとても面倒見のいい隊士で、仲間からの信頼も熱い……らしい。
あくまで噂話程度でしか彼女の事は知らないが、そういえば柱合会議では実弥とも仲良さそうにしていたな、と思い至った彼は期待を込めて琴音に向かって声をかけた。
「………と、春野。」
「あはは……こ、こんにちは。えっと、冨岡さんもお買い物ですか?」
「…… 春野、不死川と仲が良いのか?」
「は、はい?……あ〜、まぁ、実弥さんには良くして貰っていますが?」
「そうか」
「………はい」
これは琴音に、実弥の事を相談するしか他ないのではないか。その様な考えに至った彼に、杏寿郎から声がかかる。
「不死川は琴音の兄のようなものだ!!特段仲がいい訳ではないぞ!!」
「…………兄?」
「うむ!!不死川はああ見えて面倒見がいいからな!!」
琴音の師範でもある杏寿郎から、彼らは〝兄弟の様な間柄〟とお墨付きを貰った冨岡は、まさに悩みを打ち明けるにはとっておきの人物だと目を輝かせた。
ーーーそうと決まれば。
冨岡は琴音に向かって静かに口を開いた。
「春野、俺も(不死川と)仲良くなりたいのだが……?」
「な、仲良くですか?えっと……」
「なっ!!冨岡、琴音は俺の婚約者だぞ!?」
何故か慌てて口を開いた二人に首を傾げた冨岡は「そうか、……婚約者か」と呟いた。それは実にめでたいが、今は悩みを聞いてほしいと改めて琴音に向かって口を開いた。
「だが今それは関係ないだろう?俺は仲間として(不死川を)信頼しているのだが……」
それに嬉しそうに「信頼、ですか?」と笑みを浮かべた琴音と、何故か珍しく顔を青褪めた杏寿郎を不思議に思いながら、もう一度念押しで口を開く。
「ああ。だから俺も(不死川と)仲良くなりたいのだが……」
すると、眉を下げふわりと笑った琴音は、彼の求めた答えとは違う言葉を口にする。
「冨岡さん、安心してください。私は既に貴方を信頼していますし、稽古で見せていただいた剣術の数々に圧倒されたんです!さすがです、尊敬しました!」
「?………そうか」
「ですから、是非私も仲良くして頂きたいです」
彼が求めていた言葉では決してなかったが、こうして面と向かって信頼だの、尊敬だの言われれば嫌な気持ちは無いわけで……
彼は普段滅多に変わることのない乏しい表情を、ふっと一瞬緩ませた。
「ああ。では春野の事は琴音と呼ばせて貰おう」
「はい、是非「駄目だ!!」
それまで静かにしていた杏寿郎が、いきなり口を開いたかと思えば、何故か彼女を自身の背後に隠してしまう。
琴音も戸惑っているようで「杏寿郎さん?」と声を上げているのだが、目の前の男は顔を顰めて何故か睨めつけてくる……気がする。
冨岡は杏寿郎の突然の行動を不審に思いながらも、困惑する彼女を助けるつもりで口を開いた。
「……琴音が驚いている」
「冨岡、彼女の名前を呼ぶ事は許さん!!」
「……煉獄、何を怒っている?見苦しいぞ」
「なっ!」
声を荒げる杏寿郎を落ち着かせるつもりで、静かに口を開いた冨岡は、完全に杏寿郎の地雷を踏んだ。
……勿論彼の思いに相反してなのだが。
「とにかく、琴音は俺の婚約者だ!!手を出す事は許さん!!今日はこれで失礼する!!」
「ちょ、ちょっと!! 杏寿郎さん!?…… 冨岡さん、それではまた〜〜 」
「………?」
彼女の声はどんどん遠ざかっていく。
ズカズカと琴音の手を引き、早足で去っていく杏寿郎の姿を眺めた彼は首を傾げた。
彼は何故怒っていたのか……?
うーん、と考えを巡らせて見ても、思い当たる節はない。そもそも不死川との事を相談していただけなのだから当然だろう、と思い至った所で彼は再び頭を悩ませる事となる。
〝不死川へのお詫びには何を差し入れるべきか、まだ聞いていなかった〟と……。
******
一方………。
甘味休憩は何処へやら、もの凄い勢いで煉獄家へと帰ってきた杏寿郎。
琴音の手を引き、無言で帰路についていた杏寿郎は、自室を開き琴音を部屋へと押し込んだ。
先程までの甘い雰囲気は何処へやら、黙り込んでしまった彼の姿に、恐る恐る琴音は声をかける。
「……あの、杏寿郎さん?」
「琴音」
「は、はいっ!」
下を向いていた彼がゆっくり顔を上げ、彼女の名前を口にする。
その目を見た瞬間、琴音はピシリと固まった。
……怒っている。口元には弧を描いているが、目が全然笑っていない杏寿郎に、琴音の背中に冷や汗が伝う。
「君が誰のものなのか……、どうやらその体に教えてやらねばいかんようだな」
「えっ!!?杏寿郎さん、ちょっ!」
そう言って慌て出した琴音の唇を荒々しく塞いだ杏寿郎に、琴音がその後たっぷり可愛がられたのは言うまでもない。
******
ちなみに冨岡は結局何も思い浮かばなかった為、後日、お詫びに実弥を食事に誘おうと声をかけたのだが……
「あ?ふざけてんのかァ?……なんで俺がお前と飯を食べなきゃならねェんだァァ?」
「この間の詫びがまだだろう?」
「あ"?なんで俺がテメェに詫びなきゃなんねェんだ!!ふざけるなァアア!!」
やはり怒鳴りつけられてしまい、仕方なく一人でいつもの定食屋で、鮭大根を食べるのであった。
******
9125番キリ番リクエスト頂きました。
(*無限列車の煉獄さんの切符通し番号です)
〝長編夢主と冨岡さんの噛み合わない会話に煉獄さんが嫉妬するお話をお願いできれば嬉しいです〟
少しお待たせしてしまい申し訳ありません。
このお題は書いていてとっても楽しかったです。素敵なリクエストありがとうございました〜
鳳蝶様のご希望に添えれていれば幸いです。
また長編もお楽しみください〜
2021/07/11 おもち