第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鴉に案内されるまま、城の中を移動する琴音は大きな扉の前に行き着いた。
〝ここだ〟と言わんばかりに、手摺りに止まって扉を見つめる鴉に礼を言う。
カァ、と一鳴きした鴉が飛び立つのを見届けた琴音は、扉に手をかけ、ゆっくり開いた。
******
開け放った扉の先は、凍てつくような寒さだった。
キラキラと空気が輝いて見える、どこか美しい空間に琴音は瞬時に考えを巡らせた。
〝この温度に、あの空気中に漂う氷の粒子。まちがいなく血鬼術。………凍傷、か。厄介だな〟
状況を判断し琴音が眉間に皺を寄せたと同時、此方に向かって歩いて来る満面の笑みを浮かべた鬼と目があった。
「わあ、また上等なご馳走がやってきた。今日は本当にいい日だな〜、こんな可愛い子達が俺に会いに来てくれるなんて」
にこにこと笑うその目には、確かに刻まれた上弦ノ弍の文字。それを目にした琴音は、すっと目を細くして口を開く。
「………私も貴方を探していたの。」
静かに室内に足を踏み入れた琴音が、一歩一歩と彼に向かって歩みを進めれば、鬼は「俺に?」と呟き首を傾げる。
それに答える事もなく刀に手を伸ばした琴音は、一瞬にも満たない速度で鬼の頸へと斬りかかる。
「あれ?俺君に会った事があるのかな?」
それを余裕で避けた鬼がキョトンと首を傾げれば、きっと睨みつける様にして顔を合わせた琴音が声を上げる。
「しのぶとの約束を、果たしにっ、来たのっ!」
琴音は鬼が攻撃を避けることなど最初から予想通りだったようで、畳み掛けるように攻撃を繰り出していく。
「しのぶ?ああ、さっきの小さな女の子か〜。姉さんの為にって健気に闘う姿に、俺は感動したんだよ?お友達だったのかな?可哀想に」
「……うるさいっ、黙って!」
「大丈夫。君も食べてあげるから、しのぶちゃんにもすぐ会えるよ。……っと、それにしても君もとっても速いねえ!もしかして君も柱だったりするのかな?」
そう言って笑いかける鬼に、琴音は一旦距離を取る。
鬼の後方に視線を移せば、恐らく血鬼術だろう。氷でできた巫女の姿をしたそれと、対峙するカナヲと伊之助の姿を確認した。
それと同時に、此方に視線を向けたカナヲが眉を下げて頷いてみせた。きっとしのぶから、自分と同じように話を聞かされていたのだろう。そんな彼女は琴音に向かいゆっくり口を動かした。
〈
カナヲに背を向けている鬼は気づかなかっただろうが、琴音にはちゃんと其れが伝わった。
しのぶの毒が効くまで、時間を稼ぐ。必ず
カナヲに伝わるように頷いてみせた琴音は、鬼を挑発するように自身の羽織をはためかせた。
「私は炎柱の春野 琴音。そして、しのぶは私の大切な親友よ。私は貴方だけは絶対に許さない!!」
そう口にした琴音が踏み込むのと、鬼が攻撃を仕掛けるのは、ほぼ同じタイミングだった。
「血鬼術 冬ざれ氷柱」
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
無数の氷柱が琴音を襲うが、強く振り上げた勢いを利用し、炎の渦でその全てを薙ぎ払う。
「血鬼術
鬼が畳み掛けるように、蓮の花の形をした氷で琴音を狙う。触れてもいないのに、近くにいるだけで体が凍結させられるほど強烈な冷気を放つそれに、琴音は構わず突っ込んでいく。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」
激しい炎の塊が虎の形を作り出し、まるで氷を噛み砕くように真っ直ぐ鬼へと伸びていく。
「あれ?もしかして俺、君と相性が悪いのかな?……でもおかしいな、ちゃんと技は食らった筈なんだけどな〜、なんで肺が凍らないのかな?」
「……人間を舐めないでよ。呼吸を極めれば凍てつくような空気の中だって、こうして戦い続けられるの。」
「へえ、凄いねえ。でも、それはいつまで続け、られ、る、の……あれ?」
それまで余裕そうな笑みを浮かべていた鬼が、突然顔を押さえて動きを止めた。指の隙間から見えた顔はどろっと溶け出していた。
「いつまでって……、貴方こそいつまで持つの?」
そこへ琴音の冷たい声が落とされる。
まるでこうなる事が分かっていたかのような、そんな彼女の言葉に鬼が驚いて顔を上げれば、その様子に琴音は小さく笑みを浮かべる。
「どう?凄いでしょ、しのぶの毒は。」
「……あの子の、毒」
「そうよ?私の親友は凄いでしょ?」
そんな話をしているうちに、体の内側……、骨から溶かされていく感覚が鬼を襲う。
膝から崩れ落ちるように、地に伏せた鬼を冷たく見下ろした琴音は、彼の背後で氷の巫女を倒した二人を確認し、静かに言葉を投げかけた。
「私の親友を殺した落とし前は、きっちりとつけさせてもらうから」
しのぶへの思いを胸に、琴音は刀を構え直し、力強く一歩を踏み出した。