第一章
夢小説設定
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「では、師範。私はこれで失礼します。千寿郎くん、またね」
ぺこりと頭をさげ、玄関先まで見送りに来てくれた二人に背を向け、琴音は歩き出す。
今日は本当に助かった。
明日は図書館へ足を運ぶとして、もしも本を引き取って貰えるなら、すぐにでも引っ越しは可能だなと琴音は考えながら帰路に着く。
思えば育ての家を出てからは一人で暮らしていた琴音は、今日の二人のやり取りを思い出して笑みを浮かべる。
弟も兄も、お互いが大切にしあっているのがあんな短時間でもひしひしと伝わってきた。
弟と喧嘩中の自分からしたら、羨ましい限りの関係。
かく言う私の弟は、今頃どこで何をしているのやら、、、
鬼殺隊に入ってしまったのだ。
鬼を倒すために何処かで戦っているかも知れないし、怪我をしているかも知れない。
先程まで温かな空間にいたからか、自分だけ彼らから浮いているようで、今度は自傷気味に笑うのだった。
******
そんな事を思われているとは気づきもせず、琴音の後ろ姿を見送った二人。
その姿が見えなくなった事を確認して、杏寿郎はやっと家の中へと足を向ける。
一歩踏み出した兄に続き、千寿郎も家の中へ入ろうとすれば、杏寿郎は突然後ろを振り返り「そういえば」と話出す。
「実は今日は琴音の家の片付けを手伝いに行ったのだが、彼女から沢山の本を譲って貰ってな!千寿郎の興味がありそうな本を適当に見繕ってきたから後で見てみなさい!」
「えぇっ!兄上、それは琴音さんがいらっしゃる時におっしゃって下さい、、、お礼を言いそびれてしまいました」
兄上、何故今なのですか、、、と普段よりもうんと眉を下げて、千寿郎は困った顔になってしまう。
それに対し杏寿郎は全く悪びれた様子もなく、
「それは次会う時で構わないだろう!これから一緒に暮らすのだし!彼女もああ言っていたんだ、うんと甘えればいいだろう!」と笑いかけるのだった。
それもそうですね、と目の前で恥ずかしそうに笑う弟の姿を見て、杏寿郎は先程までのやり取りを思い返す。
千寿郎に甘えて欲しいと、彼女が言った時は素直に嬉しかった。
幼い頃に母を亡くし、父も人が変わってしまったかのように俺たちを遠ざけるようになった。
千寿郎はもっと子供らしく甘えたい時だってあっただろうに、必死に歯を食いしばり我慢する姿をいつもそばで見てきたのだ。
勿論千寿郎のことは兄として立派に支えてやるつもりだが、俺以外にも甘えられる存在ができるのだとしたら、、、素直にありがたく思ったのだ。
きっとあったばかりの千寿郎にも、あんなに優しい言葉をかけられる琴音はとてもいい姉なのだろうな、とまだ見ぬ彼女の弟を思い浮かべ自然と笑みが溢れる。
まさか、彼女が弟と大喧嘩中で
自分達のことを羨ましいなどと思われている事など全く気付くことはなかった。