第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
結局あの後、運ばれてきた甘味にすら何処か上の空な反応をみせた琴音に、杏寿郎も密かに不安を抱きはじめていた。
「琴音、これも美味いぞ!!良かったら君も食べるといい!!」
「………」
「琴音?」
「あっ、え?なんですか?すみません、少しぼうっとしてしまいました」
そう言って、また手元に視線を移す琴音に、杏寿郎は今度こそ言葉を失った。
〝あの琴音が、甘いものにすらこの調子とは…
もしや琴音の話とは、婚約解消などではないだろうな!?〟
一人悶々と考え込む琴音と、それを前に顔を青褪める杏寿郎の様子に、店員の女性は首を傾げるのであった。
******
甘味処から帰ってからは、普段通りの琴音に戻っていた。鍛錬をこなし、千寿郎と仲良く晩飯の準備をし、食事の際には愼寿郎にも楽しげに話しかけていて……
それが逆に杏寿郎の不安を煽っていた。
「琴音さん、兄上はどうかされたんでしょうか?」
「………私が後でそれとなく聞いてみるね?」
むう、と眉間に皺を寄せ考え込む杏寿郎は、もう食事は当に終わったというのに、未だにその場から動かずにいた。
そんな彼に、琴音はゆっくりと近づいていく。
恐らく自分のせいで、あんな状態になってしまったのだろうが………なんとも分かりやすい彼の態度に、困ったように笑みを漏らした。
「杏寿郎さん、お風呂へ入ってらして下さい。後でお部屋に伺いますので」
ね?と、ふわりと微笑んだ琴音に、杏寿郎は
「……うむ、そうだな」
と渋々立ち上がり、風呂へと向かい歩いていった。
******
風呂から出て自室へと戻った杏寿郎は、徐に箪笥を開き、そこにしまってある箱に目をやった。
あの日……
煉獄家を出ると言い出した琴音に、慌てて結婚を申し入れてしまったが、やはり何か彼女に送りたいと密かに買っておいた簪が入っている。
結局は、あれから柱として忙しく過ごす琴音に、中々渡す事が叶わなかったのだが……
〝こんな事なら早く渡しておくべきだった〟
完全に変な勘違いをしている杏寿郎は、静かに箪笥を閉めて、大きなため息を一つ落とす。
そこへ…
「杏寿郎さん、入っても大丈夫ですか?」
襖越しに琴音の声がかけられて、杏寿郎は眉を下げながら彼女を部屋へと通すのだった。
******
杏寿郎の部屋へとやってきた琴音は、彼の前にゆっくりと座り頭を下げた。
「杏寿郎さん、ごめんなさい。私、黙っていた事があるんです……」
「待ってくれ!!琴音、もう一度考え直して欲しい!!」
「えっ、……?なんの話ですか?」
「……俺と別れたいと言う話ではないのか?」
キョトンと首を傾げた琴音は、杏寿郎の一言で、彼が何をあんなに考え込んでいたのか理解した。
理解して、とても愛しく思った。それと同時に、こんなにも想ってくれる彼を今から傷つけてしまうかもしれない……拒絶されるかもしれないと、怖気付いた。
〝………別れを切り出すのは、私じゃない〟
だが、それでも戦うと決心したのだ。例え、彼が離れていこうと、鬼による悲しみを終わらせられるなら、この決心は揺るがない。
「いえ。私が話していないのは、先日の柱合会議であまね様から伝えられた〝痣〟についてです」
「痣?」
全く予想もしていなかったのだろう。目をパチクリさせる杏寿郎に、琴音は詳細を伝えていく。
先日の刀鍛冶襲撃事件で、上弦を討ち取った蜜璃と無一郎には〝痣〟が現れたこと。痣を出すには、条件があるようだが、痣が出た者は、力や回復力が普段の比ではない程に増し、これを出す事が柱には急務であると伝えられていたこと。
その説明に幾分か落ち着きを取り戻した杏寿郎は口を開いた。
「なるほど、確かにこれからの戦いを考えれば痣を出すというのは必須やもしれん」
「……全ての人が出せる訳ではないようですが、私も痣を出現させたいと思っています。ただ……」
「む?ただ………?なにか続きがあるのか?」
「痣を出現させたものには〝代償〟があります」
代償…?その響きに顔を顰めた杏寿郎に、琴音は目を伏せ小さく呟いた。
「痣を出したら最後、二十五歳までは生きられないそうです……」
「なっ!?二十五っ、?」
驚く杏寿郎を他所に、琴音は言葉を続けていく。
「それだけ身体に負荷がかかるそうです。短命になるのは当然ですね。……でも、それでも私は痣を出したい。鬼をこの世から無くしたいんです……っ、家族をっ、大切な人を失う悲しみを無くしたい」
「琴音……」
「でも、私は身勝手だから……それでも残された時間は杏寿郎さんと共に生きたいとっ、思ってしまうんですっ、……貴方が心を痛める事を分かっていながら、それでもって願ってしまうっ……ずるいんです、私っ……」
そう言ってぽろぽろと泣き出した琴音は、項垂れながら何度も「ごめんなさい」と口にした。
「琴音、顔をあげなさい」
そう杏寿郎に声をかけられて、琴音は恐る恐る顔を上げる。ぽろぽろと流れる涙は止まることを知らず、彼女の頬を流れていく。そんな琴音の頬に優しく触れた杏寿郎は、ゆっくりと彼女に語りかけた。
「話は分かった。君が何に悩み、何に怯えていたかも理解した。……勿論、琴音が短命になる事は望まない、君とずっと生きていたい」
「……っ、」
「だが、もしも俺が琴音の立場なら、迷わず痣を出現させる方法を模索するだろう」
「杏、寿郎…さんっ、……」
「俺にも琴音の気持ちが痛い程分かる。だから、多くは望まない。琴音の命が終わるその日まで、俺の側で笑っていてくれるか?」
「………勿論ですっ、」
遂にはぼろぼろと大粒の涙を流し始めた琴音に、杏寿郎は優しく笑いかけた。そして徐に立ち上がり、箪笥から先程の箱を取り出した。
その箱を手に琴音の前に座り込んだ杏寿郎は、そっとそれを手渡した。
「杏寿郎さん、これっ……」
「琴音、戦いが終わったら正式に結婚して欲しい。祝言も盛大にあげよう。俺の妻になってくれないか?」
杏寿郎の言葉に、震える手で恐る恐る箱を開いた琴音は、遂には声を上げて泣き出した。
「私をっ、杏寿郎さんの、……お嫁さ、んにっ、して下さいっ、……」
泣きながら、何度も何度も頷く琴音に、杏寿郎は嬉しそうに目を細めた。
「勿論だ!!俺が琴音を一等幸せにして見せる!!」