第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あらあら、怒らせてしまいましたか?」
珍しく怒りをあらわにした琴音を前に、しのぶは態とらしく肩を窄めた。
「……いつからなの?」
「藤の花から抽出した
「一年以上…っ、そんなに前から?」
驚きに声を震わした琴音に、しのぶは「私の身体は血液、内臓、爪の先に至るまで藤の花の毒が回っている状態です」と表情を変える事なく告げた。
琴音は医療に関しても知識を幅広く有している。藤の花は充分に加熱しなければ、人間にも毒性があるのだ。それは目眩に始まり、吐き気や頭痛、酷い時は胃腸炎にまで悪化すると言うのに。
それをそんなに長期間摂取し続けるなんて……
琴音は信じられないとでも言うように、しのぶを見つめて目を見開いた。だがそんな琴音を前にしても、笑みを浮かべ続けるしのぶに、琴音は小さく息を吐く。
目を瞑り、数回深く深呼吸を繰り返した琴音は、なんとか自分を落ち着かせ、目の前の友に静かな声で問いかけた。
「………それで、中毒症状は?」
「ふふ、さすがは琴音。隠し通すことは出来ませんね」
そう言って口を開いたしのぶは、すらすらと自身の症状を口にした。
「今まで現れた症状は、頭痛を伴う目眩や吐き気……それから、手足の痺れなどでしょうか?」
「そう……そこまで症状が分かっているのなら、自分の身体がどんな状態なのかも理解しているのよね?」
「当然です。私の全体重が藤の花の毒なのですから、私は
「しのぶは……、人には無茶をするな、と言う癖に、私には何も相談してくれないんだね…」
「相談、ですか……もしも相談したら止めるのでしょう?これは私が望んだ事なんです。琴音でも口出しされる筋合いはありません」
ぴしゃりと言い放ったしのぶに、琴音は悲しそうに顔を歪ませた。
……確かに彼女の言い分も一理ある。自身の身体だし、生き方だって他人に指図されるものではないだろう。だが、だからと言って琴音が黙っていられる程、琴音にとってしのぶという存在は小さくない。
初めて鬼殺隊に入って出来た、心を許せる大切な
琴音はしのぶの怒りを買うのを覚悟に、態と彼女の確信に触れた。
「しのぶの言い分は分かった。それで?貴方はそこまでして誰に命を
「………それを琴音に伝えるとでも?」
「さあ。……相談さえしてくれなかったのだから、別に話して貰わなくても構わないよ?でも、私はしのぶが投げうとうとするその命、全力で阻止させて貰うから!!」
「なっ!何故ですか!?私がどう死のうと貴方には関係ない筈っ!私は……」
「……関係ない事はないでしょう?少なくとも、私の人生に大きな影響を与えた人なの、しのぶは……そんな大切な人が悩んでいるのなら、支えたいものじゃないっ、……」
「琴音……」
琴音の言葉に、初めて動揺を見せたしのぶに、琴音はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ねえ、しのぶは何と戦ってるの?私には一緒に戦うことすら許してくれないの?」
「……それはっ、」
「大丈夫。……私がしのぶの分の命を、背負うよ?それとも、そんなに私が頼りない?」
自分の命すら背負って戦うと言ってのけた琴音の言葉に、しのぶは小さくため息を吐いた。
「………参りました。私の負けです」
どうやら、琴音を言い負かすどころか、丸め込まれたのは自分の方だ。目の前で、ふわりと微笑んだ琴音を見つめて、しのぶは眉を下げながら、ぽつりぽつりと自分の思いを口にする。
自分が鬼殺隊に居続けるのは、姉を殺した鬼を殺す為だと言う事。その鬼は上弦である故、自身の生み出した毒だけでは倒せるかも分からない。だからこそ、最終手段として自分をその鬼に
それを黙って聞いていた琴音は、しのぶが全て話終えると「話してくれてありがとう」と小さな声で呟いた。それから徐にしのぶの手を取り、ぎゅっと握りしめた琴音は、彼女の目を見て語りかける。
「しのぶの思いは分かった。お姉さんの敵が上弦なら、なりふり構っていられない事も理解してる。今更しのぶの考えを、反対することもしない………だけど、最後の一瞬まで生きる事を諦めないで?」
「 琴音、貴方……」
「これからの戦いは過酷を極める筈。私も必ず、しのぶの加勢をしてあげるとは言い切れないけど……もしも貴方の命が消えることがあるなら、私が必ずその鬼を討ち取ってみせる!私は貴方の親友なんだから一緒に戦わせてよ!」
「………ありがとう、ございます」
震える声でそう返したしのぶは、ゆっくりと琴音に頭を下げた。
自分の思いを汲んでくれたことが、嬉しかった。そして、そんな
泣くのを堪えながら何度も頭を下げるしのぶに、琴音はふわりと微笑んだ。
「当たり前でしょ!!親友なんだから!!」
******
それから二人は暫くお互いの近況を報告しあった。
しのぶは自身のみならず、鬼舞辻に有効になる毒を研究中なのだとか……。
それから、先程琴音にした話をカナヲにも伝えるつもりな事も教えてくれた。
琴音は琴音で、隊士達に稽古をつけ終われば、自身の鍛錬に明け暮れるつもりである事を伝える。
炎の呼吸の奥義は習得出来なかった事。それに代わる新しい技を生み出したい事や、
「琴音。痣については煉獄さんに伝えたんですか?」
「……それは、まだ………」
そう言って視線を彷徨わせた琴音は「私もしのぶの事、とやかく言えないね……」と苦笑いで呟いた。それにクスクスと可愛らしく笑ったしのぶは、徐に口を開く。
「ふふ、本当ですよ。……でも、いいんですか?琴音は煉獄さんと結婚するのでしょう?貴方はもう19歳……痣を出してしまえば、琴音に残された時間は5年ほどしかないのですよ?」
「………そうね。でも、私は出来るなら痣を出したい。杏寿郎さんと生きる事も勿論大切だけど、私が鬼殺隊になったのは〝自分と同じ悲しみを生み出したくないから〟。それを叶える為に必要ならば、迷わないよ……」
「琴音らしいですね。煉獄さんには伝えないのですか?」
「……ううん、きちんと伝えるつもり。結婚は私だけの話じゃないもの。杏寿郎さんを拘束するつもりもないから、彼に今後の判断は委ねるつもり……」
それにはしのぶも、キョトンと首を傾げた。
琴音はそれを伝えれば、杏寿郎に振られるとでも思っているのだろうか。あの彼が琴音を手離すなど考えられない。手放しで喜ぶ話ではないが、きっと彼なら琴音の考えを理解してくれるだろうに。そんな事を考えながら、しのぶは琴音に声をかける。
「煉獄さんの説得、頑張ってください」
「あーうん、ありがとう」
そう言って曖昧に笑った琴音は、そこで一度言葉を区切り、再び小さく呟いた。
「しのぶ……生きるって大変だね」
「……ええ、本当に」
お互いの覚悟を尊重しあえる彼女達だからこそ、最終決戦まで残されたあと少しの時間の大切さを、沁沁と噛み締め合うのであった。