第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「では気を取り直して、座学を始めます」
琴音の声に皆嬉しそうに頷いた。
ここは煉獄家の道場である。沢山の隊士を前に、にこにこと話し出した琴音に、数名の隊士が頬を染めた。
その後ろでは、杏寿郎が壁際に立ち、腕を組みそれを見守っている。そして、隣には何故か天元も壁にもたれかかるようにして立っていて、物珍しく琴音の話に耳を傾けていた。
******
あの日、柱合会議で痣を出す事が急務であると皆で会話を交わした後、無事に会議は終わりを迎えた。
会議が終わったならばと、冨岡が早々に立ち去ろうとしたが、それを阻んだのは実弥だった。
「それぞれの今後の立ち回りも決めねえとならねぇだろ」
「俺はお前たちとは違う」
そう冷たく言い放ってその場を去ろうとする冨岡を、皆が口々に非難する。それでも止まらぬ彼を実弥が無理矢理止めようと立ち上がるが、悲鳴嶼がパァァーン!と手を叩く事で一瞬にしてその場を制した。皆が彼に注目する中、悲鳴嶼は静かに口を開いた。
「座れ……話を進める……一つ提案がある……」
そして、彼の提案と言うのは〝柱稽古〟を行うという事であった。それには殆どの柱が一つ返事で頷き、柱としては一番新米の琴音が最初の稽古をつける事でその日は話がまとまったのだ。
そもそも基本的に柱は多忙なため、継子以外に稽古をつけることはなかったのだが、禰豆子が太陽を克服して以来鬼の出没がピタリと止んだため柱の時間が浮いた事もあり、来るべき戦いに備えこのような運びとなったのだ。
******
「私が教えるのは、怪我を負った際の応急処置のやり方と、呼吸の精度の極め方です。」
そう言って話し始めた琴音に、頬を染めた隊士が数名。その状況にため息を漏らしながら見守る杏寿郎に、にやにやと天元が話しかける。
「いいのか、煉獄?琴音に、あんな風に鼻の下を伸ばしてる野郎を野放しにして!」
「むう。よくはないが……そもそも宇髄!!君にも琴音に近づく許可は出していないのだが!!」
「ああ?お前は中々しつこい男だな!嫉妬深い男は女に嫌われるぜ?」
「なっ!!もともとは宇髄が琴音に手を出した事が原因だろう!?」
二人が壁際で軽い口論を繰り広げていれば、琴音がムスッと口を開く。
「どうしてもと言うから見学を許可したのに……うるさくするなら出て行ってください!!」
「…………すまない」
「…………わりぃ」
彼らにしては歯切れ悪く返事を返し、壁に背中を預け改めて琴音の説明に耳を傾ける。
そんな二人に小さくため息を漏らした琴音は、隊士達に向かって再び話はじめた。
「では気を取り直して、座学を始めます」
そして冒頭の琴音の台詞となったのだ。
本日より始まった柱稽古。最初に稽古をつける彼女が隊士達に教える事は〝呼吸と応急処置の基本〟である。柱稽古に怯えていた隊士達は、琴音の稽古から始まると聞き、ほっと肩を撫で下ろしていた。……ただ背後に威圧感たっぷりの元柱が二人も佇んでいる状況には、戸惑いを感じてはいるのだが。
そもそも杏寿郎はともかく、天元がここいるのは可笑しな話だが、彼曰く「琴音の稽古が終わるまで、こっちは暇してんだわ!」だそうだ。
そして天元には、琴音に手を出した前科がある。そんな彼を黙って置いておける筈もなく、杏寿郎が隣で見張っている次第である。
まぁ、天元は杏寿郎の事なんて全く気にしていないのだが。
今だって、琴音の説明に「ほぅ〜」と小さく声を漏らし、物珍しくそれを眺めている。ただ彼が感心するくらい、琴音の説明は的確だったのだ。
まずは応急処置の説明をし始めた琴音は、実際に自身の腕に包帯を巻いてみたり、添え木をして固定する方法を見せたりと、さすがは医者の娘なのである。粗方その説明をし終えると、今度は呼吸について話し出す。全集中の呼吸を常中できるようになれば、技の精度も、身のこなしも、治癒力だってあがると話した琴音は
「既に常中が出来ている者は別として、未だに出来ていない者は次の稽古には進めないから、そのつもりで」
と、にこりと皆に笑いかけた。隊士達にしてみれば、琴音の稽古ならばいつまでも居たい位なのだから、それに落ち込む者など殆どいない。その状況に、杏寿郎はむっと片眉を上げたが琴音は気にせず言葉を続けた。
「では次は庭に出て、実践をしてみましょうか?」
******
琴音の指示に従い、庭へと歩みを進めた隊士達に向き直り、琴音は「攻撃を受け流すのにも、呼吸は使えるの」と口を開く。
そこで稽古を受ける面々の中から、伊之助に「少し手伝って?」と声をかけた琴音に、隊士達は何をするのだろう、と首を傾けた。
それまで静かにはしていたものの、琴音の説明に飽きていた伊之助は「おう!子分の頼みならしょうがねぇ!!」と嬉しそうに返事をし、隣に座っていた善逸は「なんで、こいつなのっ!!」と悔しそうに声を上げた。
そんな彼らを宥めつつ、琴音は再び口を開く。
「
彼女の説明によれば、攻撃を受ける場所の筋肉を強固に固めて、まずはその部分の負担を最小限にする事。それでいて普通なら足に力が入る所を、後ろに力が逃げられるよう技を受ける時は抜いておいて、技を受けた瞬間に今度は、後ろに吹っ飛ばされないように足に力を込める事。これら全てを呼吸を使って行い、その部位ごとにタイミングよく力を入れる………そうだ。
皆が〝何を言っているんだ?〟と眉を寄せた所で、琴音は伊之助と向かい合う。
「じゃあ伊之助君!私のお腹を殴ってみて?」
「「「「「……は?」」」」」
皆が驚いて固まっているのに対し、琴音は至って普通に「ああ、手加減はいらないよ?私も呼吸を使うから、手加減したら逆に怪我を負うかも」と口にした。
琴音の強さを知っていても、構えもしない女性を殴るなど普通は出来ないが………伊之助の中では好奇心が勝ったのだろう。「おう、分かった!」と口にした彼は、他の隊士が止める声も気にせず、迷う事なく彼女の腹へと拳を奮った。
ドス、と鈍い音がした直後、ずざざざ……と砂利の音が響く。
恐る恐る琴音の様子を確認した隊士達は、先程と変わらぬ体制のまま、少しだけ後ろに下がっただけの彼女にギョッとする。だがそんな彼らを気にする事なく、彼女は再び口を開いた。
「と、まぁ呼吸を使えば、こんな事も出来るんだけど、いきなり構えもしないで此れは難しいから……伊之助君、お腹を殴るからしっかり構えてね?」
そう言って駆け出した彼女の拳によって、伊之助は少し先に吹っ飛ばされた。
「「「「「ええっー!!?」」」」」
まさか伊之助より体が小さな琴音が、あんな筋肉質な男を吹っ飛ばすとは思ってもいなかった隊士達は、素っ頓狂な声を上げる。
それにクスクスと笑みを浮かべた琴音は、再び皆に向かって口を開いた。
「とりあえず伊之助君は、呼吸を使って打撲した箇所の治癒!他の皆は二人一組になって?今やってみせた事をやってみてね?
……ああ、それから最初は怪我を負うから、呼吸を使って治癒を目指して?応急処置の実践もできるならやってみようか?」
にこにこと笑う琴音を前に、顔を青褪める隊士達。善逸に限っては既に汚い叫び声を上げているが……
それを見ていた元柱の二人は口元を引き攣らせる。
「おい、煉獄……ありゃ何だ?」
「…………俺も、あんな風に稽古をつける琴音は始めてなのでな」
「ありゃー……〝鬼〟だぞ」
泣き叫ぶ隊士を前に、笑顔で何処が駄目かを指摘する琴音は、普段の穏やかな彼女の印象とは打って変わっていた。
天元が言ったとおり、鬼教官なのである。