第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
道着に身を包んだ二人は、難しい顔をしながら向かい合っていた。
「むう、琴音が上弦の攻撃を防いだ際には、呼吸は最大限に解放した訳ではないのか……」
「あれは、その後がどうなるか分からないですので……無限列車の任務以来、使わないようにしています。
ただ上弦との戦いは無我夢中でしたので……呼吸を使い全速力で駆け抜けて、細かく技を出し続けた事は確かなのですが……些か曖昧な部分もあります」
「成る程!まぁ、そうそう大技など生み出せる物ではないだろうからな!心を燃やし、限界を超えてこそ、見える何かがあるのかもしれんな!!」
「確かに、あの時は鍛冶場の馬鹿力と言いますか……普段より速く立ち回れたような気がします」
「うむ…、ではやはり、琴音の速さと細かい斬撃を組み合わせるのが一番の近道かもしれないな……」
そうやって杏寿郎と琴音は庭の一角で、腕を組みながら考え込む。
「とりあえず速さを重視した鍛錬を中心にしてみよう……と言っても、速さに関しては俺は既に琴音には敵わないがな!!」
ワハハと笑った杏寿郎に、琴音はクスクスと笑みを漏らす。
「やはり今以上の速さを求めるなら、基礎に戻るのが一番だと思うので……体力作りから始めようと思います。」
「そうだな!!基礎から鍛え直せば、より高みを目指せるやもしれんな!!」
そう言って笑みを浮かべた杏寿郎に、琴音も嬉しそうに頷いた。
杏寿郎が鬼殺隊を引退しようと、彼らが結婚を約束した仲であろうと、琴音にとっては杏寿郎は一番信頼できる師範であるのは変わらないのだ。そしてそんな琴音が、可愛くて仕方がない杏寿郎は親バカならぬ、弟子バカなのである。
******
それからの琴音は、任務と鍛錬に明け暮れる日々を送る事となる。千寿郎に言われた通り、家事はある程度彼に任せ、くる日もくる日も技を磨いた。
ある時は、体力作りのために近くの山を全速力で駆け登ってみたり。またある時は、杏寿郎だけでなく、千寿郎や時には愼寿郎にも手伝って貰い、ニ対一で打ち込み稽古を行ってみたりと、今まで以上に過酷な鍛錬を積んでいた。
「どうした!?琴音、横ががら空きだぞ!!」
「くっ!」
今日も杏寿郎と愼寿郎相手に、竹刀の打ち合いをしている琴音だが、抜きん出た速さを持っている彼女だとしても、元柱を二人同時に対処するのは骨が折れる。
だが、確実に力を身につけているようで、彼らの攻撃自体は見事に防ぎ切っている。防戦一方なのだが……
嬉しそうに琴音に声をかけ攻撃を繰り出す息子に呆れながら、愼寿郎は彼女の身のこなしに感心する。
普通同時に二箇所の攻撃を受ければ、何とかそれを回避したところで無理が生じる。そこをつけば、あっという間に攻撃を喰らうだろうに……
彼女の場合はその体制から、さらに身を捻ってみたり、どうやっているのかは知らないが無理だと思った体勢からいきなり飛びあがってみたり。此方の虚をつく動きを見せる。
〝速さ云々は勿論だが、瞬時に戦況を読む力もずば抜けているのだろう……〟
愼寿郎は琴音の才能に気づき、無意識に口角を釣り上げるのだった。
******
そんな鍛錬漬けの日々を送っていたある日の事。
琴音の元に鎹鴉がやってきて、口を開いた。
「竈門炭治郎ガ目覚メター!」
その知らせを聞き、数日後蝶屋敷へと足を運んだ琴音だったが、病室を開いた琴音は何やら険しい顔で文を読む炭治郎に困惑する。
「えっと……炭治郎君、体の具合は大丈夫?」
「あれ?琴音さん?忙しいのにわざわざ来てくれたんですか?ありがとうございます!」
琴音の姿を認識するや、ぱぁっと表情を明るくさせた炭治郎は「体調はもうすっかり良くなりました」と嬉しそうに口にした。
「善逸から聞きました。俺が眠っている間に炎柱に就任されたんですよね?おめでとうございます!俺も琴音さんを見習って、頑張ります!!」
「ふふっ、ありがとう!まだまだ柱としては頼りないけど……炭治郎君にそう言われたら、私も頑張らなくちゃね!」
そう言って二人で笑いあった後、琴音はそういえば…と口を開いた。
「さっきは手紙を見て凄い顔をしていたけど……何かあったの?」
「じ、実は……刀鍛冶の鋼鐵塚さんから届いた手紙なんですが……」
琴音に問いかけられた炭治郎は、自分が眠っている間に届いた文を見せた。
そこには〝お前にやる刀はない〟〝呪ってやる〟などの言葉が綴られており、それを見た琴音は頬を引き攣らせる。
「あー……うん。大変だね、これは…」
「そうなんです。どうしよう、刀打って貰えなかったら……」
そう言って落ち込む炭治郎に琴音は苦笑いを浮かべる。
「お館様に相談して、刀鍛冶の里に行ってみたら?……まぁ、鋼鐵塚さんを説得するのは、骨が折れるかもしれないけど………」
「え?刀鍛冶の里行けるんですか!?」
「うん、お館様の許可が出ればね」
にこりと微笑んだ琴音に、炭治郎はほっと肩を撫で下ろす。
「では、お館様に頼んでみます。琴音さん、ありがとうございます」
「いえいえ、こんな事しかできないけどね」
「…ところで、少し思ったのですが。琴音さんは、鋼鐵塚さんとお知り合いなのですか?」
そう炭治郎が問いかければ、大袈裟なくらい肩をびくつかせた琴音は「あはは」と曖昧に笑みを浮かべた。
「いや、知り合いというか……
私が鬼殺隊になりたての時に、担当してくれていたのが鋼鐵塚さんなんだけど……
あまりに刀を刃こぼれさせるし、ほら?私の刀は短いでしょ?
最初貰った刀をどんどん短くする様に注文して言ったら〝そんなに文句をつけるなら、俺はもう作らない〟って拗ねてしまって……」
今は違う人が担当してくれてるの。そう言って苦笑いをした琴音に、炭治郎は顔を青褪めた。
「だ、大丈夫でしょうか!?……鋼鐵塚さん、もう俺の刀作ってくれないんじゃ!!?」
「落ち着いて!!大丈夫だよ!!」
どんよりした雰囲気を身にまとい肩を落とした炭治郎に、慌てて琴音は声をかける。
だが、彼女の話は余程衝撃的だったようで、未だに落ち込んだままである。そんな彼に、仕方ないなぁ、と笑った琴音はコソコソと彼の耳に囁いた。
「じゃあ、とっておきな事を教えてあげる!鋼鐵塚さんはみたらし団子に目がないの。」
「……みたらし団子?そう言えば、そんな事を以前言っていたような」
「ふふ、私担当は外されちゃったけど未だに彼とは交流があるの。鋼鐵塚さんとは、甘味仲間として偶にみたらし団子を食べに行く仲なんだから!」
そう言って笑った琴音に、炭治郎は
〝鋼鐵塚さんをも手懐ける琴音さんは最強ではないだろうか〟
そんな事を思うのだった。