第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日が天高く、丁度真上を差した頃ーー。
琴音は、ゆっくりと目を開いた。
ふわふわとした意識の中、ふと周りを見渡せば、見慣れぬ景色に此処が杏寿郎の部屋である事に気が付いた。
「そっか、私あのまま寝ちゃったのか……」
状況を理解して改めて部屋を見渡せば、部屋の主は疾うに居らず、随分と寝入ってしまった事に気づく。
琴音は普段からあまり睡眠を長く取らない。
それは隊士になると決めた時から始まっていて、家の事をこなしながら、知識をつける為本を読み漁り、それでいて鍛錬をこなす。そうなれば必然的に睡眠が削られる。そんな生活を続けていた。
それが隊士となれば更に睡眠は短くなり、柱となった今ではいつ寝ているの?と思うくらいに短いものとなっていた。
以前に比べ、明け方まで応援に駆けつけることが多くなり、さすがに朝ごはんの支度までは手伝う事が出来なくはなったのだが、
三、四時間程の仮眠を取ると、昼ご飯の支度や鍛錬をこなし、また夜の警備へと出かけるのだ。
「そろそろ起きて千寿郎君の手伝いをしないと」
そう一人呟いて、とりあえず一旦自室に戻ろうと部屋の戸を開いたところで琴音は驚いて固まった。
〝待って、日があんなに高いって……今何時!?〟
そして唐突に、自分が思った以上に寝過ぎていた事を理解した。部屋へと戻る事も忘れ、バタバタと居間へと足を進めれば、そちらに近づくにつれ食事のいい香りが鼻を掠める。
「ごめんなさい、寝坊しました!!」
そう言って居間へ顔を出せば、そっくりな顔をした三人が琴音を見上げる。
「今丁度、起こしにいこうかと思っていたところだ!!昼飯は出来ているから、一緒に頂こう!!」
そう言って、立ち上がった杏寿郎は琴音の手を引き自分の隣へと座らせる。
〝食事の準備を千寿郎君、一人にさせてしまった〟そんな事を考えて肩を落とした琴音を前に、愼寿郎は口を開いた。
「それにしても寝巻きのまま飛び出してこようとは、余程慌てていたのだな」
「す、すみません……お恥ずかしい……」
「君は些か無茶をしすぎではないか?夜中働き回っているのだから、もっと私や息子達に頼りなさい」
「そうだぞ琴音!!父上の言う通りだ!!疲れが溜まって琴音が怪我でも負うような事があれば、それこそ本末転倒だからな!!」
「そうですよ琴音さん!俺は別に家事は嫌いではないですから、もっと色々と任せて貰って構いませんよ?」
同じ顔した三人に、一斉に責めたてられた琴音は驚いた顔をした後、恥ずかしそうに頷いた。
それを確認した愼寿郎は「折角の料理が冷めてしまっては勿体ない。早速頂くとしよう」と口を開き、それを合図に皆は箸を手に取るのだった。
******
食事が終わり、せめて片付けくらいはと言い張った琴音に並び、杏寿郎と千寿郎は洗い物を片していく。
「すみません、今日は何だか皆んなに気を遣わせっぱなしで……」
そう言って、しゅんと肩を落とす琴音に、杏寿郎は呆れたような笑みを溢す。
「なんでもこなせてしまうのも、少し考えものだな。琴音はもっと人に甘える事に慣れた方がいいな!!」
「そんな、今でも充分過ぎるほどですよ……」
「むう!足りないな、全然!!琴音にとって、俺はそんなに頼りないのだろうか!?」
「え、どうしてそうなるんですか!?こんなに頼りにしているのも、甘えられるのも杏寿郎さんだけなのに」
「…………っ、」
いきなり無言になった杏寿郎に、琴音と千寿郎は首を傾げて彼を伺えば、口元に手をやり頬を染める彼の姿がそこにあった。
琴音の言葉に何やら照れ出した杏寿郎に、思わず琴音も頬を染めたのだが……
一人冷静にことの成り行きを見届けていた千寿郎が兄に向かって口を開く。
「兄上……、嬉しいのは分かりますが、そこで終わっていては今までと変わりないのでは?」
「うむ、そうなのだが…… 琴音があまりにも可愛らしい事を言うのでな」
そう言って頬をぽりぽりと掻く兄の姿に、千寿郎はため息を漏らす。それから恥ずかしそうに視線を泳がせる琴音に向かって、兄の代わりに口を開いた。
「琴音さん、いつも俺の手伝いをしてくれてありがとうございます。でも、琴音さんは柱として忙しい日々をお過ごしなのですから、たまにでもいいのでゆっくり休んで下さい。俺は
そう言って眉を下げた千寿郎は「先日兄上から、いずれ琴音さんが姉上になってくれると聞いて、本当に嬉しかったんです」とはにかみながら口にした。
その言動は間違いなく彼女の心へ突き刺さり、琴音は思わず何度も頷いてみせる。
「千寿郎君、ありがとう。姉上だなんて、なんだか照れてしまうけど……千寿郎君に心配をかけるくらいなら、たまにはお休みを頂くように気をつける!」
本当に可愛い!私も千寿郎君が弟なんて夢のようだよっ!!そう言って、にこにこと弟に笑いかける婚約者と、それに眉を下げ微笑む弟は、とっても可愛らしいのだが……
完全にいい所を弟に持っていかれた杏寿郎は、何とも複雑な心境でそれを見つめる事となる。
しかし、それもほんの数秒で。
彼の頭には先程の琴音の言葉が蘇る。
〝こんなに頼りにしているのも、甘えられるのも杏寿郎さんだけなのに〟
琴音がそう言ってくれるのであれば、これからは頑張り屋な彼女を、うんと甘やかしてやろう。
それは自分だけの特権で、これだけは誰にも譲れない。
杏寿郎は小さく笑みを漏らし、琴音が眠る前に嬉しそうに話していた内容を思い出す。
「早く此処を片してしまおう!それが終わったら琴音の鍛錬を見てあげよう!新しい技も考えねばな!!」
「はい!!」
ぱあっ、と笑顔になった琴音に杏寿郎は満足そうに笑うのだった。