第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バタバタバタバタ……
まだ日も登り始めてすぐの時間であるにも関わらず、慌ただしい足音が廊下から聞こえてきて、杏寿郎はふと目を覚ました。
それが迷う事なく此方へと向かってきていることに気づき、小さく笑みを漏らしていると、部屋の前でその足音はピタリと動きを止める。
「あの……杏寿郎さん、起きていますか?」
あんなに物音を立てていたのに、随分と小さな声で話しかけてくる琴音に、思わず笑いながら返事をする。
「ああ、入っておいで」
その言葉を聞くや否や「失礼します」と戸を開いた琴音は、杏寿郎を見て眉を下げた。
彼は座ってはいるがまだ布団の上だった為、自分が起こしてしまった事に気付いたのだ。
「すみません、起こしてしまいましたか……」
「いや、もう起きる時間だったから気にする事はない。それより随分と元気がいいが何かあったのか?」
「そうなんです。実は……」
そう言って口を開いた琴音は、嬉しそうに事の成り行きを話し出した。
近頃鬼の動きが以前にも増して活発な事、それを対処する為に自分にも大技が欲しいと悩んでいた事。そこへたまたま天元が現れ、助言をくれた事までしっかり余す事なく話し終えた琴音に、杏寿郎は目をパチパチとさせる。
「それでね、杏寿郎さん!私思い出したことがあるんです!!上弦との戦いで、無我夢中で駆け回りながら細かい斬撃を出した時の感覚……あれが技に応用できれば、もっと援護が出来る様になると思うんです!!もし杏寿郎さんが良ければ、鍛錬に付き合って貰えませんか?」
「ああ、それは勿論構わないが……」
杏寿郎は困ったように笑った後、少し考える様な仕草を見せ、再び口を開いた。
「色々と突っ込みたい所があるが……まずは風呂に入ってきた方がいいだろう。体も疲れているだろうから、仮眠を取ってから鍛錬の話をしよう」
「あっ、すみません。嬉しくなってしまって……ついこんな格好で部屋へと上り込んでしまいました。」
「それは別に気にしなくていい。一番に知らせに来てくれたのだろう?」
「それは、そうですが……とりあえず湯浴みをしてきます」
それに苦笑いで頷いた琴音が部屋を後にしようと立ち上がると、杏寿郎はその背中へと声をかけた。
「琴音の事だから、部屋へ戻っても本を読み漁ったりしてすぐには眠らないのだろう?」
「え、あはは……」
「よもや、本当にそうするつもりだったのか……」
振り返った琴音が視線を彷徨わせるものだから、杏寿郎は呆れてため息を漏らした。
「ならば風呂から上がったら、もう一度部屋へと来るといい。少し話をしよう」
杏寿郎がそう口を開けば、一瞬でぱあっと笑顔になった琴音は「はい!すぐに入ってきますね!」と一言残し、今度こそ部屋を飛び出して行った。
バタバタと遠ざかって行く足音をききながら、その姿を見送った杏寿郎は〝早朝だと言うのに〟とまた一つ笑うのだった。
******
「杏寿郎さん、お待たせしました」
「随分早かったな。そんなに慌てなくてもよかっただろうに」
湯浴みを終えた琴音が、彼の部屋へと戻れば杏寿郎は何故かまだ布団を被ったまま座っていた。
よく見れば寝巻き姿のままのようだし、普段早朝からきちっとした身なりの彼にしては珍しいな、と首を傾げる。
そんな事を考えながら、琴音が彼の布団の前まで行き腰を下ろせば、杏寿郎はさも当然の様に口を開いた。
「琴音、こっちへおいで」
「え?」
杏寿郎がぽんぽんと叩いたのは、彼の真横。
布団を少し持ち上げた彼は、固まる琴音に笑いかける。
「手は出さないから安心しなさい!琴音が眠るまで、一緒に話をしよう」
そう言って笑う彼に、戸惑いながらも頷いた琴音が、杏寿郎の横へと足を進めれば、腕を引かれ一緒に布団の中へと収まった。
布団の中はぬくぬくと暖かくて、お日様のようなポカポカした杏寿郎の匂いに包まれていた。
「…‥暖かいですね」
「そうだな!たまには、こうして琴音とゆったりとした朝を過ごすのもいいかもしれないな」
「千寿郎君に心配されませんか?杏寿郎さん、いつも朝早くから日課の素振りをしているから」
「1日くらい、どうって事ないだろう。」
頬を染めた琴音は、ぽつりぽつりと話し始めたが、あんなに眠気を感じていなかった筈なのに、段々と瞼が重たくなってくる。
とろん、とし始めた琴音に杏寿郎は「ゆっくり眠るといい」と言って、背中をとんとんと叩く。
「まだお話、していたいんです、…けど……杏寿郎さん、の匂いに……安心、して、しま…って……」
最後はごにょごにょと、何やら可愛らしい言葉を言いながら琴音は眠りに落ちていった。
〝鬼の出現も増えたと言っていたし……やはり疲れていたのだな〟
穏やかに眠る琴音の寝顔を、暫く優しい表情で見つめていた杏寿郎だったが、廊下から此方へ向かう足音が聞こえ、彼はそっと布団から抜け出した。
襖を開け、廊下へ出れば、中々起きてこない兄を心配した千寿郎が口を開いた。
「兄上!今日はどうされたのですか?」
未だに寝巻き姿の兄の姿に、千寿郎が心配そうに声をかければ、杏寿郎はそれには答えず、自身の口元に人差し指を当てた。
「静かに。今丁度、琴音が寝た所なんだ」
「えっ、琴音さん……」
要らぬ想像をして赤くなった千寿郎に、杏寿郎は静かに声をかける。
「昨晩は鬼の数が多かったらしくてな。朝方まで駆け回って、余程疲れているのだろう」
「……そうでしたか。琴音さん柱になってから働き詰めですからね。お疲れが溜まっているのかもしれません」
そう言って閉ざされた部屋へと視線をやった二人は「今日はゆっくり寝かせてやろう」と微笑み合い、静かに部屋を後にするのだった。