第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗闇をものすごい勢いで駆け抜けた人影が、今まさに背後を取られそうになっていた隊士を守る様に刀を振るった。
「炎の呼吸 弍の型 昇り炎天」
鬼の腕を切り上げた彼女は、体を回転させながら一気に鬼との距離を詰め、その勢いを利用して鬼の頸を斬り落とす。悲鳴すら上がらぬ程の一瞬で胴体から転がり落ちた頸の
「くそっ、くそっ!柱めっ、死ね!鬼狩りめっ!」
と消える瞬間まで恨み言を呟いていた。それが灰となって消えるまで、哀れなものを見るように視線を逸らさず見届けた琴音 に、背後から隊士が声をかける。
「琴音 さん、助かりました」
「お礼なんていいよ、仲間なんだし当然でしょ?」
そう言って笑った琴音 は、また辺りを見回して思わずため息を漏らした。
「今日は随分数が多いな……、まだ戦える?」
「勿論です!」
その問いかけに、大きく頷いた隊士を視界に捉え、琴音 はふっと、口元に笑みを浮かべた。
そして彼に向かって「頼りにしてるよ」と言葉を言い残し、また暗闇へと一瞬で駆け出して行くのだった。
******
琴音 が炎柱に就任してから早一ヶ月。
十二鬼月による被害こそ出てはいないが、鬼の出現が以前にも増して頻繁になっていた。
一晩中鬼対峙に駆け回った琴音は、眩しそうに登った朝日を睨みつけ、一人小さくため息を落とした。
〝もっと一撃で倒せる技が使えたら……〟
彼女は脳裏に、杏寿郎の力強い後ろ姿を思い浮かべ、思わず拳を握りしめた。
『奥義 玖ノ型 〝
炎の呼吸最大にして最終の奥義。
一瞬で多くの面積をねこそぎえぐり斬るこの技は、彼女が唯一習得出来なかった技である。
それは一重に腕力だけの話ではなく、彼女の短すぎる刀身のせいでもあるのだが……
杏寿郎に教えて貰うまで〝煉獄〟と名がつく技の存在自体、炎の呼吸を使う育てからも聞いた事がない技だった。
きっと代々炎柱を受け継いできた名家だからこそ、生み出された技なのだろう。
そこまで考えた琴音は、また大きなため息を落とすのだった。
だが、そんな彼女の背後に突然大きな影が刺す。
「なんだ琴音、ため息なんかついて」
「………だれかと思えば天元さんじゃないですか、何でいるんですか?」
杏寿郎さんから手紙が届いたでしょう?と、突然現れた天元に然程驚く事もなく、琴音は呆れたように呟いた。
「一ヶ月経ったんだ。時効だろっ?それに俺がそんな手紙に従う訳ねぇじゃねえか!」
「時効って……こっちの苦労も知らないで」
そう呟いた琴音の言う通り、前回の任務の後の杏寿郎の拗ねっぷりは凄まじいものだった。
まず琴音には、当分の間天元との接触禁止が言いつけられた。だが、当初の彼女がこの任務に同行すると決めた目的は
まぁ、後日彼女を甘やかせるのが得意な杏寿郎が、パフェをご馳走してやったのは、ここだけの秘密だが。
それはさておき、元凶の天元当てにも殴り書きの手紙を送りつけていた筈だ。琴音は内容こそ知らないが、そこには〝琴音に近づくな〟と書いてあったとかなんとか。
わざわざ鴉を遣わせてまで手紙を送りつける辺り、相当の怒りを買っていたというのに……
琴音はどっと疲労が増した気がして、また大きなため息を一つ吐く。
「おいおい、なんだ?人の顔見てため息吐くとは失礼な奴だな!」
「……はぁ」
「……お前なぁ。それともなんだ、何か悩み事があんのか?どうせ顔見に来たついでだ、聞いてやろうか?」
ニヤニヤと心底楽しそうに笑う天元に〝なんのついでよ!〟と琴音は心の中で突っ込んだ。
……だがそうは思っても、悩んでいる事は確かだし、柱を務めていた彼だからこそ知り得る事があるのかもしれない。そう思い至った琴音は、重い口を開くのだった。
「前にもお話しましたが、私にはこれと言った決め技がないんですよ……杏寿郎さんに炎の呼吸の奥義も伝授して頂いたのですが、私の腕では習得できなくて。最近鬼の動きも活発になってきていますし、少し心許ないというか……」
「決め技ねぇ……、逆に聞くがそれは炎の呼吸じゃねえと駄目なのか?」
「え!!」
「そんな驚く事じゃねえだろ。柱だって蟲だの、霞だの、恋なんて奴もいるじゃねえか。大概の奴らは自分に合った技を使って戦ってんだろ!」
「まぁ、そう言われれば……、そうですが……」
むぅ〜と、唸り出した琴音の頭をツンツンと突っついた天元は、苦笑を浮かべる。
「そんなに難しく考えんな!別に他の呼吸に頼らなくても、要はお前に合う技を生み出せばいいだけだろ?琴音は型に嵌りすぎんだよっ!頭が切れる奴かと思えば変なとこで馬鹿真面目みせやがって!」
「……私に合う技?」
「そうだ。俺は俺に合うド派手な技を編み出した訳だが……まあ簡単に言えば忍びの時から使っていた爆薬との合わせ技が俺には戦いやすかった、そんだけの事だ!
で、お前は?なんか思い浮かぶもんはねえの?」
「私は……やはり速さ、でしょうか。力と言うより、速さで
「それは言えてるな。上弦と戦った時も琴音が最後あれだけ早く動き回れなきゃ、俺達は死んでたかもしれねえとすら思ってるからな」
「……それだ!天元さん、私なにか閃いたかもしれません」
急に明るくなった琴音の表情に、天元も自然と口元が上がっていく。
天元が残った片腕でわしゃわしゃと頭をなでながら「良かったじゃねえか」と口にすれば、乱れた髪型を整えながら琴音はぺこりと頭を下げた。
「早速帰って、杏寿郎さんにも相談してみます」
「おう!しっかり仮眠とってからやるんだぞ〜」
「はい、天元さん。ありがとうございました」
「まぁいいって事よ!あ、くれぐれも煉獄によろしく言っておいてくれ!」
「え……」
「いいか、琴音?必ず煉獄に
さっきまで、あんなに親身になってくれていた彼は何処へやら………完全に此方を揶揄って面白がっている天元に、琴音は口元を引き攣らせたが、
「また悩みが出来たら聞いてやるよ!じゃあな!」
そう最後に言い残し、天元はものすごい勢いで走り去って行った。
それには流石の琴音も呆気に取られた訳だが
「………帰ろっと」
そう呟いた琴音は、とぼとぼと帰路へ着くのであった。