第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいま戻りました」
琴音が玄関を開けながら帰宅した旨を告げれば、パタパタと足音が二人分聞こえ杏寿郎と千寿郎が顔を出す。
「おかえり琴音!!今回の会議は随分と早かったのだな」
杏寿郎が琴音を明るく出迎えれば、彼女は困ったように口を開いた。
「はい、会議自体は三十分もかかりませんでしたから」
「む?三十分……?」
その言葉に杏寿郎は、ふと疑問が湧いた。
三十分で終わったのなら、逆にそこからの時間がかかり過ぎているのではないだろうか……
ふむと顎に手を置き考え込んだ杏寿郎に対し、琴音は訳を説明し始める。
「お館様の体調が優れない様で、今日は他の柱の方への顔合わせのみでしたから」
そこで一度口を閉ざした琴音は、声色を落として再び言葉を紡いでいく。
「お館様が少し心配です……。今日も終始あまね様に支えられてのご出席でしたし、苦しそうに顔を歪める瞬間を何度かお見かけしました。
それなのに、わざわざ私を他の柱に紹介する為に機会を作ってもらったと思うと……お館様には一生頭が上がりませんね」
「そうだったか。それは心配だな……
だが、うむ!やはりお館様は素晴らしきお方だな!!俺達を我が子の様に大切に思ってくれているのだ。そんな方だからこそ、皆に尊敬され慕われるのであろうな。」
「そうですね……私もお館様のお力に少しでもなれる様に、日々精進します!」
「うむ、いい心意気だ!!」
それまで会話をする二人を黙って見守っていた千寿郎は、ふと琴音の手元に目をやった。行きには持っていなかった筈の包みを手にした彼女に、千寿郎は首を傾げながら彼女に疑問を問いかける。
「ところで琴音さん、その手の包みはどうしたのですか?」
「ん?あぁ、これ?」
そう言って、包みを持った手を上げてみせた琴音は「これは皆んなへのお土産だよ」と嬉しそうに口を開いた。
それにピクリと反応を見せた杏寿郎は、静かに彼女へ問いかける。
「土産?……何処かへ寄って来たのか?」
「はい。会議が早く終わったので、実弥さんと甘味処へ行って来ました!!ここのおはぎは絶品なんですよ〜」
「宇髄の次は、不死川か…… 琴音は中々、交友関係が広いんだな」
「え?そうですか?まぁ、もともと面識があった柱はしのぶを除けば、任務を共にした事がある天元さんか実弥さんくらいですからね〜」
呑気に返事を返す琴音に、険しい表情を浮かべる兄の姿。
〝兄上をこうも振り回す事が出来るのは、琴音さんくらいだろうな……〟
千寿郎は一つため息を落として「とりあえず中に入りませんか?」と口を開くのだった。
******
あの後、包みを千寿郎に預けた琴音は杏寿郎と二人で、彼の部屋へと訪れていた。
簡単な会議ではあったがその報告と、しのぶの診察を受けた事を伝えるためだ。
「そうか、やはり警備する地区が増えるのか」
「はい。天元さんが抜けた事もありますが……
上弦を倒した後ですから、鬼舞辻の動きが読めない以上、更に警備を強化するしかないとの判断のようですね」
「致し方ないとはいえ、琴音もあまり無茶はしないように気をつけてくれ!!」
彼女を気遣い優しい言葉をかける杏寿郎に、琴音は彼を安心させる様に笑いかけた。
「大丈夫ですよ!それにこれからは、何かあればすぐに隣接する地区を担当する柱が駆けつける事になったんです。私の場合は
「……また不死川か」
だが安心させる為にかけた筈のその一言に、杏寿郎はあからさまに顔を顰めた。
先程からやたらと実弥の話が出て来るのが、どうも納得できないでいたのだ。
ちらちらと報告の合間に「実弥さんからは、そう言われたんですが」とかなんとか…、彼の話題が出るのは何なんだろうか。
今日は二人で甘味処へも立ち寄ったようだし、直接話す二人を見た訳ではないが、琴音が彼をかなり信頼しているのは充分すぎる程に伝わっていた。
「琴音は不死川と随分仲が良いのだな」
実弥と並ぶ琴音の姿を思い浮かべた杏寿郎は、無意識のうちにぽつりとそんな事を呟いていた。
だが、それを聞いた琴音は、キョトンとした後クスクスと笑い出し、彼にこう話し出したのだ。
「実弥さんと私は、杏寿郎さんが思っているような仲ではありませんよ?彼は私にとって兄の様な存在なんです」
「兄?」
「ふふ、そうですよ?だから、杏寿郎さんがもしも実弥さんに妬いているのなら、いらぬ心配という訳です!」
にこにこと笑顔で琴音は言うが〝不死川が琴音の事をどう考えているか分からない以上、安心など出来はしない〟とため息を吐く。
杏寿郎がなんとも言えぬ表情を浮かべていれば、彼女は「あぁ、そうそう」と、思い出した様に口を開いた。
「あのお土産のおはぎ、実は実弥さんがご馳走してくれたんですよ?」
「む?なぜ不死川が?」
「実弥さんからの伝言です。『婚約おめでとさん』ですって!」
そう言って、クスクスと笑った琴音は杏寿郎に手を伸ばす。
「杏寿郎さんってば、
そう言って彼の腕に抱きついた琴音は「私は杏寿郎さん一筋なのに」と可愛らしく微笑んだ。
琴音は意外と口にしたが、杏寿郎はかなり独占欲の強い男だ。
琴音と想いが通じ合うまでの間。
どれだけの隊士を彼女から遠ざけていたのか、彼女は全く知りもしないだろう。
だが、今回は完全に杏寿郎の思い違いだったようだ。実弥から直接、祝福の伝言を貰うなど思ってもみなかったし、あの出立ちで実は律儀な彼の事だ。琴音が言った通り、根強い信頼関係こそ有るのだろうが、恋慕するような関係ではないという事だろう。
自分の早とちりで、情けなく嫉妬した事がバレてしまった杏寿郎は恥ずかしそうに頬を染めた。
たまにしか見る事がない、彼が赤らむ姿に琴音はクスッとまた笑みをこぼす。
年上の男性ではあるが堪らなく可愛らしくて。
またそんな表情を見れるのは、自分だけなのが嬉しくて。
琴音は幸せそう目を細め、暫く彼の腕に抱きついたままだった。