第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まだ日も登り始めた頃ーー。
薄暗い時間に目を覚ました琴音は、例の如く、彼の腕の中にいた。
いつの間に自分は寝てしまったのだろう。
昨日の情事を思い出し、思わず琴音は頬を赤らめる。
昨日の杏寿郎はとても意地悪だった。
どんなに「やめて」と頼んでも、泣き喚こうが彼が止まることは全然なくて……それどころか、そんな琴音を見て「愛い」などと言って嬉しそうに笑っていた。
だけどそんな彼がかっこよくて、時折囁かれる愛の言葉に思わず何度もときめいてしまった。
覚えているのは杏寿郎が二回目の欲を吐き出した所までで、途中から完全に記憶が抜け落ちていてるのは、そのまま意識を飛ばしてしまった、という事だろうと苦笑いを浮かべた。
自身の姿を確認すれば、何時ぞやの朝と違い、しっかりと浴衣を着て寝ていたようだ。
きっと杏寿郎が後処理をしてくれたのだろう。
少し恥ずかしくも思いながら隣を見れば、すやすやと寝息を立てる杏寿郎の姿がそこにあった。
いつもは大きく見開いた炎色の瞳も、閉じてしまえばこんなに幼く見えるのか。普段は恥ずかしくて、なかなかこんな至近距離で見つめることは出来ないが、彼の整った寝顔を前に琴音は思わず独り言を漏らす。
「かっこいい……」
そしてそのまま、すりすりと胸元に頬を寄せ、普段は恥ずかしくて口にできない彼への想いを、ここぞとばかりに呟いた。
「大好き、杏寿郎さんっ」
ふふ、と小さく笑いながら彼の温もりを確かめていれば、もぞもぞと彼が動き出す。起こしてしまっただろうか、と琴音が視線を上にやれば
口元を手で抑え、珍しく顔を赤らめた杏寿郎と目が合う。
〝え……、今の聞いてたんですか?〟
唐突に状況を理解した琴音は、ぼん、と一気に顔を赤くして慌てて言い訳を口にする。
「違うんです、その……、杏寿郎さんが寝てると思って……」
「まさか起きたてに琴音から、そんな可愛い言葉を聞けるとはな」
「わ、忘れてください!!」
あわあわと取り乱す琴音に、未だに頬を染めたままの杏寿郎はふっ、と小さく笑みを漏らす。
「俺も琴音を一等好いている!」
そう言ってぎゅっと琴音を抱きしめた杏寿郎は、しっかり彼女の言葉に返事をするものだから、かなり早い時間だと言うことも忘れ、琴音は声を荒げるのだった。
「だから、忘れてくださいよ〜」
******
結局あの後琴音は、杏寿郎に散々揶揄われた。
「もう一度聞かせてくれないか?」から始まり「毎朝こうやって起こしてくれても構わない」「朝から誘っているのか?」と口を開く始末である。
もう途中から恥ずかしさのあまり、聞き流してしまったほどだ。
「杏寿郎さん、もう分かりましたから!!自室へお帰りください!!私は本部に行く準備をしなくてはいけませんので!!」
そう言って襖に向かって彼の背を押せば、杏寿郎は振り返りながら口を開いた。
「着替えるのを手伝ってやろう!」
「結構です!!」
そう言い放った琴音は、杏寿郎を廊下へと追いやって、ピシャリと襖を閉めてやった。
どうも昨日から揶揄われている気がしてならない。
彼女が恥ずかしさに悶絶して頭を抱えている頃、廊下を歩く杏寿郎は琴音の表情を思い出しクスクスと笑みを漏らしていた。
揶揄いすぎると、また機嫌を損ねてしまうだろうが、
いかんせん、可愛すぎる反応を見せる琴音にも、責任があるのではないだろうか……
制御できぬ自身の感情に、杏寿郎は苦笑いを浮かべながら歩みを進めるのであった。
******
「では行って参ります。」
新しい隊服に杏寿郎から貰った黒い羽織を身につけた琴音は、煉獄家の面々に頭を下げた。
何も全員で見送らなくても大丈夫だと伝えた琴音だったが、これから〝正式に柱に任命〟されるのだ。そんな時位、甘えればいいだろうと、結局玄関先まで皆がついて来たのだ。
「道中、気をつけてな!お館様によろしく伝えてくれ!!」
そう言って頭を撫でた杏寿郎に、大きく頷いてみせた琴音は、早速本部へと到着していた。
敷地へと脚を踏み込むや否や、待機していたのであろう隠から言伝を預かった。
どうやら、柱全員に伝えるようお館様より仰せつかったようで、琴音に伝えた後も
「他の方にも私からお伝えしておきます」
と彼は口にしていた。
伝言の内容は簡単なもので、やはり今日もお館様の体調は優れぬようで
〝部屋の中で簡単な挨拶のみを交わして、会議は終了する〟との事だった。
その様な状態でも自分の事を気遣い、紹介する場を設けて貰えるなんて、本当に頭が上がらない。
そんな事を考えながら琴音が歩みを進めていれば、後ろから呼び止められる。
「琴音様、お待ちしておりました。皆様がお集まりになるまで、こちらでお待ち下さい」
あまね様に声をかけられた琴音は、あまりの美しさに一瞬ぽかんと呆けた後、慌てて彼女の後をついて行くのであった。
******
「彼女が新しい炎柱の春野 琴音だよ?皆も周知の事実だが、琴音は天元と共に上弦の鬼を倒している実力者だ。みんなも仲良くしてやって欲しい」
新しい羽織に身を包み、柱の面々に深く頭を下げた琴音は、あまね様に支えられ皆の前で笑っているお館様へと視線を移した。
「微力ながら誠心誠意、鬼殺隊の為に戦います。お館様この様な機会を与えていただき、ありがとうございます」
そう言ってまた深く頭を下げた琴音に対し、お館様は優しく微笑み返すのだった。