第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どこまでも雲ひとつない青空が広がる、まさに晴天。
街を行き交う人々は皆笑いあいながら、幸せそうな顔をして歩いている。
「はぁ〜〜……」
大きなため息を漏らす少女を除いては。
******
甘味処で団子を片手にため息をつく少女。
黒目、黒髪、学生服のような真っ黒な服を着て、これまた真っ黒の羽織りを身につける……全身黒一色の少女が、整った顔をこれでもかという程歪めて空を睨みつけていた。
この少女こと春野琴音は、日夜、人々を鬼から守る鬼殺隊という組織に所属している。
そんな彼女は基本的に他の隊士と合同で任務につく事が多いのだが、昨日寄越された任務は単独での任務だった。
そもそも彼女に単独任務の依頼が少ない訳は、別に琴音が弱いとか、極度の怖がりだとか……そういった理由ではなく、彼女の闘い方が援護に向いているからである。
だが、万年人手不足である鬼殺隊に属している為、こうして一人で任務に着くなんて事はめずらしくもない。
元々体が小さな琴音は鬼の頸を斬るのが苦手ではあった。
どんなに頑張って鍛錬を重ねても平均女性程の腕力しかつかず、力がない事は彼女の弱点でもある。
だが、その代わりに呼吸の使い方は他の者を勝るものがあり、入隊して半年もたたずして鬼殺隊最強の柱に次ぐ〝甲〟の地位まで上り詰めた時は、周りの隊士にも随分驚かれたものだ。
そんな琴音だったのだが、昨日の任務は随分と相性の悪い鬼だった。
血鬼術は大したことのないただの雑魚ではあったのだが、いかんせんなんとも硬かったのだ。体を亀の甲羅のようなもので覆った鬼に、いくら技を繰り出しても少し頸に傷がつくのみで、またすぐに回復してしまう。
そんな鬼だったのだから、琴音が無茶な戦い方をしたのは致し方ない訳だ。
〝自分の力だけでは斬れないのなら、それを超える力を加えればいい……〟
そう考えた琴音は木を使ってかなりの高さから飛び降りる。落下の重量に加え、無理やり体を何回転もさせ遠心力をも力に変える。
そうして力を生み出す訳だが、勿論鬼もそれを黙って見ているだけではない。
琴音目掛けて攻撃が放たれるが、ここで避けてしまえば折角の勢いを殺してしまう……それを理解しているからこそ、捨て身ではあるが攻撃を受け入れつつ、今度こそ鬼の頸を斬り落としたのだった。
まぁ、琴音の場合は攻撃をされる場所をあらかじめ予測し、呼吸を駆使して筋肉を強固に固め、怪我を最小限に留める。それでいて技を繰り出しながら、同時に怪我を負った場所の止血をし……
と、他の隊士達からしたら「あんたも充分すぎるほどに強いですよ」なんて思われているのだが。
相性の悪い鬼と、久々に負ったまあまあ酷い怪我。
今回は随分と無茶をしたものだから、日輪刀までも刃こぼれをしてしまった……と落ち込んでいたのである。
******
そんな琴音の隣にいきなり大きな影が刺す。
普通なら飛んで驚くような状況なのだが、来る事を最初から分かっていたかのように隣に立つ男に向かって琴音は平然と口を開く。
「なんだ……、誰かと思ったら天元さんか」
「おいおい、琴音!未来の旦那に向かって、なんだとはなんだ〜?」
そんなやり取りにも慣れているようで、はいはいなんて言いながら琴音は、隣の席に座るようぽんぽんと自分の隣を叩く。
それに男もさも当然のように琴音の横に腰を下ろし、彼女が頼んだ団子を口に運ぶ。
「なんだ琴音、ド派手に落ち込んでるじゃねえか……って、お前手怪我してんのか?」
「いや、まぁ……少し失敗しました。昨日の任務が相性の悪い鬼で……まぁ怪我は大したことないんですが……」
利き腕とは逆の手で団子を頬張る姿に男は鋭く気づきそんな事を言ってくるもんだから、嘘はつけないな〜なんて困ったように笑いながら、琴音は自分の右手を撫でる。
「お前の細腕じゃ難しい鬼もいるだろうな。どうせ無茶な戦い方して怪我したんだろ?どうしても無理そうな奴には、胡蝶に頼んで毒で対応したらどうだ?」
「しのぶかぁ……でも毒はやっぱり味方に当たるのが怖いしな〜」
眉を下げて困った顔をする琴音に、それで自分が怪我をしていちゃ意味ないだろう……と今度は男がため息を漏らす番だった。
そもそも琴音の戦い方は、鬼殺隊士の中でも珍しいものであった。
援護が得意……簡単そうに彼女は言うが、味方と鬼、その両方の攻撃を先読みし味方に襲いかかる鬼の攻撃のみを払い除ける。
それでいて鬼に誰よりも接近し、ちょこまかとその周りを動き回る。逆を言えば、味方の攻撃の間合いを飛び回る……という事である。
そんな事ができる者など、琴音以外に何人いるのだろうか、とすら思ってしまう。
そして琴音が持つ日輪刀もまた異様であった。
最終選別後に初めて手にした刀は、他の隊士と然程変わらぬ長さだったのだが、日輪刀を修理に出す度にどんどん短くしてもらって、今では短刀になっていた。
それは一重に、琴音に腕力がない事だけが理由ではなく、援護する時に仲間に刀が当たらないようにという配慮から。
そんな彼女だからこそ、毒を使うなんて選択肢は論外だったのだ。
そんな琴音を傍目に「だから俺んとこで鍛えてやるって言ってんだろ」と隣に座る男が頭を小突くが……
「だから継ぐ子は何回も断ってるじゃないですか。
……大体天元さんの使う呼吸は、派手すぎて援護専門の私には合いませんよ。私は地味に小さく技を繰り出したいんです」
それに琴音はブスっとした顔をして可愛げのない返答をするのだった。
******
時に琴音の隣に座るこの男、
宇髄天元は彼女の先輩に当たる隊士で、鬼殺隊最強の称号を持つ柱の1人である。
琴音とは1年以上前に知り合ってから、何度も合同任務を共に行っており、その度彼女を揶揄うのが天元の楽しみになっていた。
本気で嫁や継ぐ子にとは思ってはいないのだが、なにかと面倒を見てしまうあたり、彼にとって彼女は〝特別可愛い後輩〟と言ったところだろうか。
そんな可愛い後輩が難しい顔で、ああでもない、こうでもない……と唸っているのを頬杖をついて見守っていると、徐ろに琴音は口を開いた。
「天元さんは、炎柱の煉獄さんと一緒に戦ったことはありますか?」
「煉獄だぁ?……手合わせくらいならあるが、一緒の任務はねえな。そもそも柱同士が合同で任務に当たるなんて珍しい事だろ」
「そうですよね〜。私も煉獄さんと任務をご一緒した事はないのですが、同じ呼吸の使い手として何か学べるものがあるかと思いまして。……もし、任務でご一緒する事があったら聞いてみることにします」
何かが解決したのだろう。
先程と比べて随分と明るい表情になった琴音は、また一つ団子を手に取って頬張った。
そんな彼女の横で天元は一人、ニヤリと悪い顔で笑っていた。
そもそも琴音は知らないのだが、天元は半年に一度行われる柱合会議を明日に控えていた。
今日は明日の会議に備えて一度、音柱邸へ帰ろうとした道中で琴音に出くわしたのだ。
〝ここは俺がド派手に人肌脱いでやろう!〟
なんて天元が思っている事は彼女は知りもせず、こうして自分の隣で呑気に団子を食べている。
こりゃあ、明日が楽しみだな……と天元も来た時より、上機嫌に席を立つ。
「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。琴音、お前はしっかり怪我治せよ」
ご馳走さん、と彼女の頭をぽんぽんと撫でた男は、来た時同様音もなく一瞬で姿を消した。
「……早っ、さすが元忍びだな〜」
そう言って呑気に団子を頬張る少女が、燃えるような髪を持つ男に出会うのは、彼女が思うよりずっとずっと早く……
たったの2日後であった。
1/35ページ