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仔狐

__はぁ…
土方は呆れていた。
昨日幻覚を見たという話を総悟と近藤さんにしてみれば「もしかしたら本当に居たかもしれやせんでィ」とか「この前お妙さん狐可愛いって言ってたな…」などと言い出したためまたここに来ることになってしまったのだ。
珍しく前者は見てみたいというようなまだマシな理由だが後者は…
近藤さんにこんなことは言いたくないが一般的価値観で見れば論外だ。

「近藤さーん見てくだせェ、この毛」

総悟がそう言って見せたのは黄金色の毛だった。それはもう昨日の仔狐そのままというくらいにはそっくりな色の毛。
また怪奇現象じみたモノを見そうで恐ろし…いや、そういうのを見てしまえば祟られそうだなとかそういう意味である。
どちらもそう変わらないように聞こえるかも知れないが大違いだ。プライド保てているかいないかの違いは大きい。
昨日のようにガサガサとまた音がしだした。

__ダッ
土方咄嗟にその場でしゃがみ込んだ。
恥をかくような行動をしてしまったことを後悔したがこの屈辱の格好はすでに人目に晒されていた。

「土方さんなにしてるんですかィ、ソイツはただの仔狐でさァ」

そうだ、どうして昨日と同じことが起こっただけで同じ奴が居ると思ったのだろう。
すぅぅ…と息を吸って二人が向いていた方向へ顔を上げる。
黄金色の尻尾、赤い瞳……銀色の髪?少年のような…というよりそのまま少年…?

「はああぁぁぁぁぁあ!?」
「うわぁぁあ、なぁコイツうっせぇよヅラ!」

騙されたと気づき総悟を見やり睨みつけようとする。
だが総悟も近藤さんも怪訝な顔で「こりゃぁ一体…」「喋ってんじゃねぇかィ」と呟いているだけで、土方を騙したという様子では無かった。

「落ち着け銀時、お前が未完全なまま人間の前に出たから驚かれているだけだろう」

「ホントだ、尻尾出てる!まだ早かったかもしんねぇ」

そう当たり前のように喋って出てきたのはまたもや黄金色の尻尾を持った、長い黒髪を結んでいる少年…?だった。

「…自分達だけで話を進めるんじゃねぇ、お前らは一体何者なんだよ」

「あーなんだろうな、お前らで言うとこの化け狐みてーな存在だよ俺らは」

「正体を明かしてはいけないと言われたじゃないか、ご丁寧に説明してはいけないだろう」

「いいじゃん、悪いやつらじゃねーだろ」

「貴様な…」

黒髪は説明しただの言っているがそれは間違いだ、自分は理解し切れていない。
ここまで来ると怪奇現象の域では無いかもしれない、まるでお前は怪異は実在したということを真摯に受け止めるしかないのだと言われているようだ。

「この尻尾どうなってんでィ、直接生えてんのか」

いつの間にやら総悟は銀髪の方の尻尾を引っ張っていた。
順応が早すぎやしないだろうか、どういう思考回路をしているのか是非とも知りたい、というかコイツの親の顔が見てみたい。

「イテテテテ、これお前の髪が思いっきり引っ張られてるみたいな感じだからな!」

「そりゃ痛そうだ」

子供…子供と言っていいかは分からないが痛がっているというのにテロリストですら引きそうなあの笑顔、Sっ気全開である。
一方近藤さんはどこからともなく出てきた虫取り網で「来るな!なんだそれは!」と叫ぶ黒長髪の方を捕まえようとしていた。__何故虫取り網?狐と虫とでは結構違うと思うのだが、というかあれに子供サイズの奴は入らないだろう。
冷静になって全体を見てみるとより状況が混沌としているのが見える。
これ程馬鹿になりたいと思ったことはない。

「テメェら何やってんだ、帰ってくるのが遅せェって先生が心配して…おい、なんで人間に姿見せてやがる」

目つきの悪い緑の眼に短い黒髪、やはりある黄金色の尻尾。化け狐の数が増えていくのにも慣れてきている自分がいた。
というより思考放棄をしているだけかも知れないが。

「イテテ…あ、低杉助けて〜」
「高杉!!此奴どうにかしてくれ!」

「チッ、後で覚えてろよ」

気づけば辺りは白い霧に包まれている。

「何を…」
「じゃあな、ちょっとの間だったけど楽しかった」

意識を失う直前そんな声が聞こえた。
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