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会いに逝く

──違う。

宙に点々と浮かぶ赤黒い血飛沫。

──違う。

それを一層際立たせていたのは亜麻色の髪で。

──違う。

自分の手には、どろりと赤黒い血が付いた刀が握られている。

──違う。

横目で見れば生々しい頭が、首の繋がっていない頭が、そこにある。

よく自分の頭を撫でていた手は動かない。

自分に歩調を合わせていた足は動かない。

暖かみがあったはずの背中は冷たい。

あの膝にはもう座れない。

何年ぶりに聞いたかも分からない優しい声だけが頭に残っている。

そっと、その頭に触れて抱き締める。
触れていて分かる。
それは、冷えきった血の通わない生首。

───二度と動くことのない屍なのだ。

そこには…この世界にはもう生きる意味を、世界の色を教えてくれたその人は居ない。
そんな世界に生きる程の価値などあるのだろうか。
生きる意味なんぞあるのだろうか。
そんなのは分かりきっている、答えは否だ。

ならばどうすればいいか。

ギャーギャーとした雑音が耳に入っても気にはならなかった。
もうこの雑音が聞こえることは無いのだから、少しくらいこの感傷に浸ってもいいだろう。

誘われるかのように赤黒いモノを染み込ませた刀の柄に触れ、刃を自分の首に当てる。





───松陽、今会いに逝くから。
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