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4、ツヴァイ

「おいテメェ、前はあんな逃げてたクセに急に先生に引っ付きすぎだろ」

何気無い一日、心の内を吐露したことで心の距離が近くなるのに比例して銀時は背中に乗ったり膝に座ったりと以前より松陽にベッタリしていることが多くなった。
そんな様子を見ていた兄弟弟子達も流石におかしいと思ったようで銀時に抗議をしにきたのだ、といってもそんなことをするのは高杉だけなのだが。

「まぁ待て高杉、銀時もそういう年頃なのだ」

「いくらなんでもコイツの変わり身早すぎるだろうが!」

「先生は先生で満更でも無さそうな顔ですね」

「銀時がこんなに歩み寄ってくれたこと一度たりともなかったんですもん」

「いい大人がもんとか使うんじゃねーよ」

「その格好で先生にツッコミいれてもおかしいだけだぞ」

仕方無いだろう、癪だが今は松陽の背中は居心地が良いのだ。
髪は相変わらずサラサラしている。
一生天パとしてはこの髪を引き抜いてやりたいものだ。
__この前本音を吐き出した銀時はとりあえず引き摺っていても仕方ないので前の世界線と今を別物として考えることにした。
言わば"前回を夢"として考えている。
今までに会った大切な人たちを"空想の存在"として片付けるのは自分の中でどうにも納得がいってないがそうでもしないと心に区切りがつかないのだ。
ブーーンと煩い蚊を潰す。
蝉の声を聴きながら眠る夜があれば村塾の子供達とカブトムシを取りに行く日もある。
最近そういうふとした瞬間にもう夏なのだなと思わされる。
それを見ていた松陽もそう感じたのか、読んでいた本をパンッ!と閉じて立ち上がり「夏ですし皆さんでスイカ割りでもしますか」と言い出した。

「スイカ割りですか!どこでするのですか」

「ここです」

「え?」

「ここの敷地内でします、そんな遠くに行ける余裕もないので」

「先生、スイカ割りというのはそれっぽいところでするからいいんですよ!?」

「そうだぞ!風情がねぇな!!」

弟子二名からブーイングが上がる。
敷地内でするスイカ割りなどスイカ割りなのか、スイカ割りとは何なのか。
頭が哲学的な方へと引っ張られていた、危ない。
スイカ割りという響きが懐かしく感じる。
…いや、これは最近の話だったか、高杉の声に騙され海に流されたなんてことがあったのだ。あれから銀時は泳げなくなったのだからあのチビが憎たらしい。

「先生が言ってんだから仕方ないだろ我儘言うんじゃねェ」

「先生がそう言われているのだから仕方ない」

「この先生厨共が」

朧と高杉は先生絶対という盲信的なところがある。
銀時や桂にはツッコミをいれても先生は絶対に正しいという碌でもない思想を持っているのでボケた松陽には絶対ツッコまない。
つまり松陽がボケれば収集がつかなくなる、それが今の状況である。

「スイカはここにありますから誰が割るか決めましょうか」

「こういう時に決める方法つったら一つしかねぇだろ、負けたら割るヤツってことで行こーぜ」

各々が真剣な面持ちでゆっくりと頷く。

「じゃあいくぞ、せーの…」

「最初は…」
「パー」
「UNO!」
「決める方法…?」
「何をしようとしてるんですか?」

この場には馬鹿しかいなかった。
先出ししようとする馬鹿、別の遊びしようとする馬鹿、そもそも無知な馬鹿二名。
どうやら自分達はじゃんけんをすることすらままならないらしい。

「こんな様子じゃスイカを割るまで何時間かかるか分かりませんね、普通に食べちゃいましょうか」

「そのスイカ甘ぇの?」

「甘さと美味しさは別物だろ、甘けりゃ良いってもんじゃねェんだよ」

コイツは何を言っているのだろう。
甘いイコール美味しいは常識なのを知らないのか、悲しいヤツだ。
切られたスイカが出され迷いなく一番甘そうな一切れを取る。
何故分かるのかと問われればこの鼻にある甘味センサーと長年鍛えられた勘だ。
デタラメに思われるかも知れないがこれで外したことは人生で一度たりとも無い。

そんなやり取りを見ながら松陽は「そういえば」と何かを思い出したように口を開いた。

「最近離れで病が流行ってるらしいですね」

__病?

「曰くかかった人は色素が薄くなって最終的には死に至るとも…」

「恐ろしいですね…」

__色素が、薄く?死に至る?
自分は知っている、その特徴を。
何度も何度も夢…否、"前回"見てきたものだ。

気の所為ではない。

聞き間違いでもない。

勘違いでもない。

───それは白詛と名付けられた病そのものだ。
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