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3、ドライ

「先生の一番弟子ィ!?」
「松陽の一番弟子!?そいつが!??」
「先生の一番弟子ですか!」

「おお息ぴったり」と松陽が呟く。
三種三様の反応、だが全員驚いているということに変わりは無い。
先程までの朧と松陽のやり取りに置いていかれポカンとしていたがその後に実は一番弟子だったという衝撃の告白があった。
そもそも松陽を連れ去る要因となったのが朧なのだから朧が松陽の弟子だったなんてそんな可能性今まで一片も頭に浮かぶことは無かった。
自分は人生二週目にも関わらず知らないことが多すぎる、本当二週目をしてる意味が無い。
せめてやり直すなら諸々事情を知ってからが良かった、なんて我儘を他でもない自分が言ってはいけないのだろう。
まだ、銀時は自分がこの状況に置かれた原因も、意味すらも分かっていない。
朧の腕を掴んだのだってそうしなければいけないという勘によるものだし離さなかったのも『奈落の首領である朧』だと分かれば放っておく訳には行かなかったから。

「これから共に過ごすことになるので仲良くしてくださいね、あぁ、銀時はもう友達なんでしたっけ」

「そういえば、そんなことを言っていましたが…」

考え込む素振りをする朧をよそに松陽はニコニコと悪魔のような笑みを浮かべていた。
どうせその場凌ぎの言い訳だと気づいているクセに都合のいい時はネタにする。
こんな性格の悪い大人にはなりたくないという見本だ、自分はもう精神年齢的に大人な訳だが。
もしメガネがこれを聞いたら『アンタも性格悪い大人でしょーが』とツッコミが飛んできていただろう。
………眼鏡の少年、未来が変わっているならば彼はどうしているのか、あのままバイトを続けているのかもしれない。
勿論あの世界で死んだ自分には知る由もありやしないのだが。

「まずは松下村塾の案内してやろーぜ、ソイツは知らねーだろ」

「そうなのか?朧兄さん」

「ああ」

兄弟子と知り早速ヅラは朧兄さんなどと呼び始めていた。
前から知ってたのでは無いかというくらい順応が早い。
銀時もヅラにとっては兄弟子なのだがすでに朧との対応の差が出ている。
前回を知っているからか銀時は気持ち的な問題で朧に兄さん呼びは到底出来そうになかった。

「ここが教室、普段ここで授業をしてんだ…そこの天パバカは寝たりサボったりするけどな」

「誰が天パバカだストーレートヤロー」

「さっきも銀時がサボっている最中だったのか?」

朧が言っているのは衝撃の告白前、松陽が銀時のことを探しに来たことのことを言っているのだろう。

「そりゃァなんつーんだろうな、そのバカ定期的に家出しようとすんだよ」

「…定期的に、家出?」

「出会った時からこうらしく先生も手を焼かれていた」

「はい、とても手を焼かされています」

高杉とヅラと松陽の言葉に朧が怪訝な顔をしてこちらを見る。
このことを初めて知った二人と同じような顔をされても人生二回目です前世は世界滅ぼしかけた大魔王ですなんぞ口が裂けても言えないのでその疑問は解消されないままでいて欲しい。

「よく分からないが先生や二人に迷惑をかけるんじゃないぞ銀時」

「兄面がはえーよ、会ったばっかなんだからもうちょっと躊躇しろや」

「貴様が躊躇し過ぎなのだ、もう少し歩み寄れ」

「お、着いたぜ。朧兄さん、ここがうちの道場だ」

基本呼び捨ての高杉でさえ兄さん呼び…普段呼び捨てだからこそ少しシュールに見える。
しかし二人がそれで呼ぶのなら順当に自分も呼ばないといけなくなるのだが、やはりどうにも兄弟子と認識出来そうにない。

「朧兄さんは剣道の面ではどうなのだ?」

「私の弟子なんですから強いですよ〜」

「そりゃ手合わせしてみてェな」

「高杉くん何でもかんでも勝負持ちかける戦闘狂……グァッ」

「どうせなら手合わせしたみたらどうです?」

「自分で良ければ相手になろう」

お互いに道着を着て竹刀を持つ。
ヅラの「始め!」という声と同時に二人は駆け出した。


◆◇◆◇


「いい勝負でしたね。ね、銀時」

「俺の襟掴みながら言うの辞めない?絵面がよくない」

「そもそも君がこの隙にと抜け出そうとしなければ良い話なんですよ」

朧と高杉の手合わせ中、松陽もヅラも勝負に集中していたから今なら居なくなっても気づかれないだろうと思ったが即刻気づかれてこのザマである。
手合わせは接戦で結果は朧の勝ちだったがどちらも疲労していたので部屋で休んでもらうこととなりヅラも看病としてついて行った。

「なんでそう逃げたがるんですか、此処が嫌という訳でもないでしょう」

「だってお前に無理矢理連れてこられたんだぞ、誘拐だろ誘拐」

「私としては迷っている仔猫を拾う感覚だったのですが」

「はぁ?誰が迷子だ」

「君はずっと、なにかに迷っているように私は見えましたよ」

「……」

図星だった。
前回の自身の所業から来る後ろめたさで松陽や松下村塾の面々と共に居ることが苦痛に感じていた。
だがその反面、後悔、未練、なんと言えばいいか分からないがそんなモノでもっとこの日々を過ごしたいと思っている自分もいたのだ。
もし、罪を無かったことに出来たらと。

「私は君が何を抱えているかは知りませんが、そう気負わなくていいんですよ」

「……でも俺は、その、逃げちゃいけねぇから」

「何からですか?…教えてください、君が抱えてるモノ。解決は出来ないかも知れませんが一緒に背負うことはできます」

共に背負う。
心の奥底で求めていたであろう言葉。
いきなり過去に戻されて、でも心に区切りがつかなくて。
自分だけで背負うには、その罪は重すぎて。

「…俺、大切な居場所があったんだ」

「うん」

「でもその居場所を、自分の手で壊しちまった」

「うん」

「……それで、自分で自分を、殺すことにして…でもそれだけじゃ終わらなかった、そっからアンタに拾われて…後ろめたくて、逃げたくなって…」

「…そうですか」

ポンポンと優しく背中を叩かれる。
ちょっぴりセンチな気分になった。



「せ__ガハッ、何をするのだ高杉!」

「バカ、声抑えろ」

「…朧兄さん、何固まってんだ」

「出来たばかりなんだが、弟弟子の成長が嬉しくてな…」

「アンタそんな感情的な人だったんだな…」
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