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2、フィーア

ちょうど人っ子一人乗れそうな木を探しては揺らし、探しては揺らしの繰り返し。
普通ならばこれを続けていれば腕も疲れてくるだろうが松陽はこの普通に当てはまらないため疲れることはない。
だがもし普通だったならばということを毎回何処かに行くあの少年は考えていないのだろうか。
元々松陽が普通の範疇には居ないことに気づいていたという可能性あるが、そんな素振りは微塵も見せないので答えは否だろう。
別に銀時が何処へ向かおうとここから逃げようとそれが彼のしたいことならば自分はそれを尊重したい。
だが銀時がしている行為はどうもしたいことというよりもしなければならないという自分自身による強制力がある。
まるでそれが自分の使命だと、役目だとでも言うように。彼を好きにさせてしまえばそれだけで消え去ってしまいそうな危うさがあるのだ。
だから出来ることなら留まっていてほしいのだがどうにもそうしてくれそうにはない。
銀時には誰一人として踏み込ませない壁がある、松陽すらも踏み込めたことは一度たりとも無い。

疲れてもいないはずなのに松陽は「はぁ…」とため息をつく。
過去には似た髪色の子供を好きにさせていれば自分を庇おうと散っていってしまったこともあった、どうもそれがチラついて仕方ない。過去を断ち切るのは人であろうと鬼であろう難しいということなのだろう、だからか力を持っていても万能感を感じることは一度たりともなかった。

ふと見れば、目につく木があった。
他と比べて葉が落ちすぎている、近づいてみれば子供の足跡があった。
恐らく銀時の跡だろう、どれだけ逃げるのが上手かろうとこういうものを残してしまうのだからなんとも締まりが悪いものだ。
足跡を辿ってみれば広い道にでる。いかにもな自然体で歩いて目を誤魔化す、あの子が思いつきそうなことだ。

案の定、奥に銀色の髪を見つける。

彼の他にもう一人子供がいるようだ。
銀時には何かあるのかよく人が惹き付けられる、子供も例外ではなくサボっていても年下年上問わず慕われていた。
編み笠を被っていたから容姿が分からないがあの子供もそういう類だろうか。

ササッと二人の子供に近づくともう一人の子供の顔がよく見えるようにはなるが…

──おかしいな、亡霊が見える。

顔の傷も目の下のクマもあの子と全く同じその顔で子供は目を見開いて松陽を見つめていた。

「なに変な顔してんのお前」

こちらに気づいていない様子の銀時がそういう、どうやら銀時が子供の腕を掴んでいたようだ。どういった意図なのか、いや意図などないのかもしれない。
彼はあの子のことを知る術も無いのだから。
子供はしばし固まっていたがハッとしたかと思えば「離せ!」と銀時の手を振り払おうとする。それでも銀時は離そうとはしない。

「銀時」

「うお、松陽!?」

「その子供は…」

「こいつは…その、そう!友達!」

本当かと子供の方を見てみれば明らかに怪訝な顔をしている、銀時が焦燥しているのを考えればこれはただの言い訳だろう。

彼が何をしたいのかはこの際置いておいて、この子供について考えることにした。
順当に行けばあの子が成長したというのが真っ当な意見だろう、自分もそうだと思う。
しかしその死を逃れた方法が問題なのだ、あれは明らかに致命傷だった。
あの子の血に混ざっているあの不死の血が生かしたとしか考えられない。
まだあの血が、生に縛り付けるあの血が残っていたのだ。

それが分かると、居ても立ってもいられないもどかしさを覚えてその子供──朧を息が止まるほど、ギュッと抱きしめる。

「せ──」
「すみません、君を一人にさせてしまって」

「いえ、そんなことは…自分の方こそ、先生を…謝らなければいけないのは私の方で……」

「…そう重く荷を背負わなくていいんですよ」

そうだ、これが自分の本音だ。
重たい師匠の荷など放り投げてでも弟子達に生きたいように生きて欲しい。
頑固な小太郎だって。
素直じゃない晋助だって。
人との間に壁がある銀時だって。
勿論、朧だって例外ではない。

「君の弟弟子はあれから沢山増えました」

朧がずっと弟弟子を欲しがっていたのは知っている。
口には出さなかったけれど弟弟子と聞けば楽しみという気持ちを滲ませた表情をしていた。
今、一番この子に伝えたい気持ちは何か。
先の言葉から一泊置いて口に紡ぐ。

「__だから、戻ってきてくれませんか」

「……!」

随分と不意をつかれたような表情だったように思う、けどすぐに普段の神妙な顔からすると似合わないぐしゃりとした笑顔になった。

「…はい!」
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